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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
65/111

65.その答えの先に

 平原に広がる白い町。


 あの町でリナリアは今、どうしてるだろう?

 まだ、泣いていないだろうか?

 ごめんなさい、っと言ってあの時、彼女は泣いていたのに俺は、理由を聞く事も引き止める事も出来なかった。

 会いたいのに、いざ会ったら何を話し、どんな顔をしたらいいのか分からない。

 

 そんな事、ここで考えていても仕方ないか……そろそろ行かないと。

 

 馬の足を進めるが、アトラスがついてくる気配がない。

 何してるんだ?

 振り向くと、まだ遠くを眺めながら突っ立っている。町を見ているのだろうか?


「行かないのか?」

「少し……彼女が言っていたことを思い出していた」

「ん?」

「定めなどないと、全ては人の思いが道を作ると言っていた。人は常に選択を迫られる。その選択を選ばせた思いが本人だけではなく、周りの人間の道すらも左右させる。奴の事を考えていたら、思い出した」


 アトラスは俺にと言うよりも、遠くに向ける視線の先へ話しかけるように話すので、まるで独り言を聞かされている気分になる。

 それよりも、奴とは誰だろう?

 約束の相手か?

 

 不意にアトラスが視線を変え、俺を見る。

 何を考えているか分からないが、やけに真剣な目。

 

「ずっとあんたに、聞きたい事があった」

「なんだ」

「あんたが俺の立場なら、どうしていた? 俺に希望を示したあんたなら、迷いなく道を進めたのか?」

「……」


 またこいつは、答えずらい事を聞いてくるな。

 どうするって急に聞かれても、そんな答えすぐには……。


 ……いや、そうだろうか?


 大切な人が離れてしまうと分かっていても、俺はその人の願いを叶えるだろうか?

 自分の思いと、相手の気持ちの尊重。

 その相手がキルであったら、リナリアであったら。

 二人がいなくなってしまうのなら。

 想像に身が凍る。

 

 それは、今の自分には耐えられない。


 カイトを失ったあの時の自分に、希望なんてもちろん見出す事はできなかったが、リナリアに出会えて俺はもう一度、生きる意味を考えてみようと思えた。

 希望を求めるのならあると、そんな出会いが生きていれば必ずあると、そうアトラスに伝えたかったが俺自身そんな希望に(すが)りたくない。

 もう、大切な人を手放したくない。

 

 自分も見れないのに、希望なんて。


 アトラスのそれも人らしいと言う言葉が、今は皮肉に聞こえる。だが、俺は半分人じゃないから……なんて、言い訳してしまうのは馬鹿らしい。

 俺の決断を言えば、今までアトラスへ言った言葉は、詭弁(きべん)になってしまうのかもしれない。

 それでもこの答えを(あざむ)きたくないのは、言葉だけの嘘でも言いたくないから。

 

「俺は、迷わない」

「そうか。あんたは決断できるのだな」

「あぁ。何よりも大切だから、俺は手放したりしない。俺が俺でいるために、生きる為に」


 何故生きるのかと、その答えは単純だった。

 俺の生きる意味は、大切な人のそばで生きるということ。


「なるほど。あんたは俺と真逆の決断をするのだな」

「そうだな」

「相手がそれを、拒んでもか?」

「あぁ」

「世界と、天秤にかけれるか?」

「世界? なんだその質問は」

「まぁ、多数の人間より大切かと聞いている」

「……」


 それは正直に言って、頭を悩ます問いではない。

 幼き頃、両親を殺した人間が憎かった。

 悪魔の血が流れる俺には、この世界に居場所なんてない。俺にとって、他人は他人でしかない。

 だから、冷酷とも言える答えを出せる。普通の人ならば、この問いの答えは何になるのだろう。


「何よりも大事だと言った答えは、変わらない」


 リナリアは、俺は俺だと言って受け入れてくれたが、この答えを聞いても変わらずにいてくれるだろうか?

 それとも、愕然とするだろうか。


「俺はあんたが羨ましい。その揺るがない強欲が俺にもあれば、あの時彼女の願いを断り、連れ去る事が出来たのか」


 強欲……どうだろうか?

 自分では欲望とは無縁で生きてきたと思っていたが、本当の俺は欲深き者なのだろうか?

 だが確かに、大切な人を手放したくない、救いたいと言う思いだけで俺は、本当に悪魔にもなれる。

 それは、自分の母が悪魔だと知らなくても分かっていた。


 悪魔にだって魂を売る。


 カイトを救いたい一心であの時、そう願ったのだから。そう、そうだ。俺はそういう奴なんだ。


「奴も同じなのだろうな」

「さっきから言っている奴って、今から会いに行く約束の相手の事か?」

「そうだ。奴は、約束の日に彼女の元に来なかった」


 そうなのか?

 それはつまり。


「約束を破られたということか?」

「今のところそうなる。俺はそれで良かったが、彼女は待っている。だから、あの場を離れる事ができない彼女の代わりに、仕方なく俺が会いに来た」

「そうだったのか」

「彼女は奴が来ないのではないかと、こうなる前からずっと心配をしていた」

「破られる心当たりがあるのか?」

「……」


 難しい顔をして、アトラスは口を噤む。

 まぁ、分かっている。

 どうせ、またそれだけは言えないと。


「名をつけたのだ」


 ん?答えてくれた?

 だが、意味はさっぱり分からない。

 

「よく分からないが、何に名をつけたんだ?」

「それは、なんと言うか……人形、だ」

「はっ!? 人形??」

「あれに名をつける事によって情が湧き、手放したくなくなるのではないかと、彼女はそう懸念していた」


 思わずくだらない、と言いそうになってしまった。

 だって、なんだ、人形って?

 こいつ、適当な事を言っているのか?

 だが、アトラスの目は真剣そのもの。嘘をついたり、戯言を言ってはいなさそうだが、ちっとも納得できない。

 

「なんだその人形は? 約束とどう言う関係がある?」

「大切なものだ。だから、元の場所へ返さねばならない。だが奴は、それが嫌なのだろう」

「その人形はその人の物で、アナスタシアにいる奴が、返してくれないと言う事か?」

「彼女のではない。あれは……とにかく、それを返し終えたら、彼女は遠くへ行ってしまう」


 そう言ってアトラスは、複雑そうな顔で空を仰ぎ、口を閉ざす。

 なんだ、これで終わりか?

 こんな中途半端に終わらされたら、気になるじゃないか。そもそも人形を返す返さないって、そんな約束だったのか?こいつの態度が大袈裟なものだからつい、もっと壮大な。

 

 だが、それほどその人形は、大切で重要なものなのか?


 何故か脳裏に、泥だらけのローブのあいつが浮かぶ。それこそ人形みたいな、無機質な奴だった。

 あいつがリナリアじゃないと分かってもうどうでも良くて、今は関係ないのに思い出す。それと同時に胸がぞわぞわと嫌な胸騒ぎがして、それがよく、分からない。

 

「話し込んでしまったな。奴の答えを聞きに、そろそろ行くか。約束を破ったと言ったが奴は、逃げずに何故かアナスタシアにいる。それはまだ奴も、決断できずに迷っているのかもしれない。奴もあんたみたいにすっぱり決めてくれれば、助かるのだがな……まぁ、人の事は言えぬが」


 アトラスはそう言って歩き出すが、今度は俺が立ち止まってしまう。

 胸に(まと)わり付く不安が消えない。だからアナスタシアへ向かうのが少し、恐ろしい。

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