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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
56/111

56.笑って

 アルとカミュンの喧嘩が更に悪化し、掴み合いになる。やれやれ、結局いつもこうなる。


「まぁた喧嘩してるぅ」

「ちゃんと片付けたの?」


 取っ組み合いをする音の中に、マリーとカイリの呆れた声がした。心臓が跳ねる。いつの間にか開けられた扉のそばで、二人がうんざりした顔をして立っている。いつからそこにいたんだ。今の話聞かれてないだろうな。乱れた服を直しながらアルが叫ぶ。


「やったよっ!!」

「あんたたちぃ、本当に毎日毎日飽きないわねぇ」

「カミュンが悪いんだ。馬鹿だから」

「俺だけが悪いのかよっ!!」

「本当にもぉ」


 二人の反応からして今の話は聞かれてないみたいだ。良かった、良かった。ほっと胸を撫で下ろし、中断していた報告書の続きを書き始める。

 マリーがクスクスと笑いながら部屋の中に入ってくる。


「それにしてもあんたぁ、許婚いるんだってねぇ〜。こんな生意気なのにぃ驚きぃ」


 体が硬直する。ペン先で二箇所目の穴が開く。聞かれてた。


「な、なに。マリーには関係ないでしょ」

「別に〜あんたの事はどうでもいいけどぉ」


 マリーがこっにに来る。嫌な予感しかしない。頼むから今はこっちに来ないでくれ。必死に懇願しながらペンを動かし続ける。マリーが俺の横につき、顔を覗き込んでくる。


「隊長〜好きな人いるんですかぁ?」


 やっぱり聞かれてたのか。でもどこから?いや、それよりも今は、この状況をどうにかしたい。根掘り葉掘り聞かれるのはもううんざりだ。マリーを見ない様に顔を上げ、グレミオに視線を送る。


 お前が責任をとれっ!


 その意を受け取ったのかグレミオが苦笑し、口を開く。


「別にそういう話じゃないんですよ。ただ、隊長にもそんな人が出来たらいいですねってだけですよ」

「えぇ〜でもぉ『どう思って欲しいですか? 僕はそれが答えだと思います』ってぇ、なんか聞こえたけどぉ?」


 顔を真っ赤にさせながら、アルはマリーを睨んでいる。


「人の話を盗み聞きするなんて悪趣味な女だっ!」

「聞きたくて聞いたわけじゃないしぃ。聞こえただけぇ」

「ぐっ、マリーは本当に僕の姉みたいだ」

「なにそれぇ。褒めてるのぉ? てか、あんたお姉さんいんの」

「いるだけ」

「へぇ! お前許婚だけじゃなくて、姉ちゃんもいるのかよ。美人なのか!?」

「美人? 美人なもんか。高飛車で自分の事可愛いと思ってる嫌な女だ」

「あんたねぇ」


 マリーが引き攣った笑みを浮かべながら、アルに拳を振る。鈍い打撃音が部屋の中へ響く。殴られた頭をアルは両手で押さえている。痛そうだ。


「いったいなぁ! 何するんだっ!」

「ホント生意気ねぇ。それにぃ、お姉さんの事ぉそういうもんじゃないわよ」

「だって本当なんだからしょうがないでしょ」

「いや、お前が悪い。お前許嫁いてよかったな。絶対モテないからな」

「別にいいし」

「ちゃんと相手の子とうまくやれてるの? 言葉遣い悪いと嫌われちゃうよ」

「カイリに言われなくても分かってるっ!!」

「アルさん」

「うるさいなぁ」

「まだ、何も言って無いですけどね」


 皆の関心がアルの許婚に集まる。よしよし話はそれた。逃げる様にささっと残りの空欄を埋める。見直しもしないで、席を立つ。


「お前らももう帰っていいぞ。俺もこれを出して帰る」

「えぇ〜隊長ぉ。まだ話が終わってないですよぉ」

「もう終わりだ」

「えー」

「マリーさん隊長はまだ仕事がありますし、帰りましょう。ではお先に失礼しますね、お疲れ様でした」

「はぁなんかイライラする。隊長、お疲れ様でした」

「お疲れっす!」


 最後にマリーが不服そうにお疲れ様ぁ、と言って扉から出て行くのを見送り視線を前に戻す。まだカイリが立っている。なんか用だろうか。


「帰らないのか?」

「あーうんそうだね。帰るよ」


 そう言ってもカイリは、視線を忙しなく動かすだけで帰る様子はない。


「どうしたんだ?」

「その、さっきの話さ」


 また。もうあの話はしたくない。なんだかどっと疲れるんだ。


「グレミオが言っただろ。ただの雑談なんだ」

「そう、なんだ。でも、珍しいね。そんな話いつもしないのに」

「勝手に話してただけだ」

「そう……そうだ! 今度みんなでご飯食べに行こっ! 私達まだお互い知らない事たくさんあるし、いい機会になると思うの」


 自然と眉間に皺がよる。気が進まない。別に皆の事が嫌いじゃない。ただ、他人と深い関係になりたく無い。守る気のない返事を返す。


「今度な」

「もぉ、今度って言って流そうとしてるでしょ?」


 読まれている。


「ヴァンは付き合い悪いんだから」

「別に毎日会ってるんだから、わざわざ終わった後会わなくてもいいだろ」

「分かってないなぁ。仕事とプライベートは別でしょ?」

「そうかもしれないが、仕事以外に話す事なんて俺には特にないんだ」

「んもぉっ!!」


 カイリが頬を膨らませ怒ってる。


 困ったな。


 協調性がない。それはキルによく言われてるから自分でも分かってる。でも、昔からの癖というか自分は闇の血が流れてる。それを知られたくない。だから不必要に人と関わらない様にしてしまう。


「別に俺はいいから、みんなと行けばいいじゃないか」 


 それはきっとこれからも変わらないから、無駄にカイリが傷つくだけ。それに優しくされる分、俺が皆を裏切ってる後ろめたさが強くなる。


「みんなって、その中にはヴァンもいるんだよ。ヴァンは私達の事、ただの部下としか思ってないかもしれないけど私、私達はみんなヴァンの事大切に思ってる」


 カイリの目はとても悲しそう。俺は大切に思ってないのだろうか。そんな事はないと思う。手は焼かされるが、隊員達は皆いい奴だ。無下に扱ってるつもりもないし、隊長として守らないといけないと責任も感じてる。責任、だけじゃダメなのだろうか。相手を大切にするってなんだ。俺はただ守りさえすればそれでいいんじゃ無いかって。隊員達の事もそれにキルとカイトの事も。


「そんな顔しないでよ。私はヴァンに笑って欲しいだけなんだから」

「笑う?」

「だって大切な人には笑っていて欲しいでしょ。あっ! な、仲間としてだよ!! ほらヴァンとは、なんだかんだで付き合い長いし」

「まぁ、そうだな」


 カイリとは訓練学校の時からの付き合い。その後所属した隊も同じで、今もこうして一緒にいる。思えばキルとカイトの次に、共に過ごす時間が長いのかもしれない。カイリが何か言いたそうにじっと見てくる。


「なに?」

「その、とにかく! 笑ってればね、きっといい事あるから」


 笑っていれば。その言葉にリナリアの笑う顔が浮かぶ。笑って欲しい。君が胸弾ませるものを見て、ずっと笑って欲しい。それを見れたら俺も……嬉しいんだ。自然と笑みが溢れてしまう。


「そうだなカイリ。ありがとう」


 照れ臭そうに微笑むカイリへ素直に出た感謝の言葉。あの時リナリアにもそう伝えられたら良かったのに。でも、言えなかった。俺は俺だと言ってくれた言葉がとても嬉しかったのに。


「うん! だから、考えておいてよ。みんなでご飯!!」


 じゃあね、っと言って手を振りカイリは部屋を出ていく。

 残された俺は、さっきまで隊員達がいた部屋をぐるりと見渡す。カイリは本当の俺のことを知らない。皆も知ったらどう思うだろうか。話すつもりはない。それは今後も。でももしいつか自分の事を話せたら、その時こそ仲間と呼べる気がする。

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