表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
55/111

55.他者が決めた事でも

 胸にずっと重しが乗ってるみたいだ。

 彼女がそばにいても、苦しい時があった。でもそれは胸が高鳴ったから。リナリアと共に過ごした時間は本当に短いものであったのに、今までの人生全てだったかのように彼女といた時間だけを思い出してしまう。


「隊長、大丈夫ですか?」


 不意に名を呼ばれ我に帰る。いつの間にか紙に大きくインクが滲んでしまっていた。顔を上げる。アルの憂いたような瞳と目が合う。


「考え事ですか?」

「いや、何でもない」


 視線を紙に滲んだ黒へ戻す。この話は誰にも話せない。もし話す事ができれば、この気持ちも少しは楽になるのか。アルはまだそこに立ってる。


「どうした?」

「僕……僕達はいつも通りにしようと決めました。でも、隊長の力になりたいです。僕に出来る事があるならなんでも」

「ありがとう、アル。でも、心配ない」


 肩を落とすアルに申し訳ない気持ちになる。アルはきっとカイトの事だと思ってる。この一連の出来事はアルだけじゃなく皆知らないし、話してはいけない。今の俺は悪魔の事、そしてリナリアの事を考えてるなんて言ったらきっと呆れるだろうな。グレミオとカミュンも手を止めて、こちらを伺う視線を感じる。居心地が悪い。とにかく今はやる事をやろう。報告書は書く事ないし、早く終わりそうだ。


「実はリナリアさんがいなくなって、寂しいと思われてるんじゃないですか?」


 爆発音が頭の中からした。胸が大きく跳ね、思わずペン先で紙に穴を開けてしまう。


 急に何言い出すんだっ!!


 微笑むグレミオを睨みつける。こいつ。今だけその眼鏡を割りたくなる。


「グレミオっ!! 隊長が悩んでるのにそんな風に茶化さないでっ!!」

「そうですね、すみません。隊長」


 目を細め、変わらず笑みを浮かべるグレミオ。思ってない。あの顔は、すみませんと思ってない。


「隊長は真剣なんだ」


 そうだ。


「そんな、浮ついた悩みなんて隊長にはないっ!」


 ぐさっと胸にささる。


「馬鹿馬鹿しい」


 ぐさぐさ刺さる。

 

「ですよね? 隊長」

「そっそうだな」

「まぁ、リナリアちゃんの事は冗談にしてもっすよ。隊長モテるんですし、ちゃちゃっと恋人でも作ってみたらどうっすか? 多少人生楽しくなるかもしれないっすよ」


 なんだそれ。適当な事を。


「馬鹿な事言うな。そんな簡単にできるもんじゃないだろ」

「でもほら、カイリちゃんとマリーちゃんがいるじゃないっすか?」

「いるからなんなんだ」


 はぁっと盛大なため息をカミュンは吐く。だからなんだと聞いているのに、答えになってない。


「カミュン、いい加減にしろ」


 そうだ、アル。もっと言ってやれ。


「隊長は、愛とか恋とかにうつつを抜かす暇なんてないんだ」


 やっぱり、やめてくれ。


「別にいいじゃねぇか。人生一度っきりだぞ? 楽しく生きねぇと意味ないだろ」


 楽しく……か。

 楽しく生きるなんて、考えた事ない。ただ自分の正体がバレない様、生きる事だけで精一杯だった。


「隊長はお前みたいにお気楽じゃないんだ。常に上を目指してるんだ」

「るせぇなっ!!」


 別にそういう訳じゃない。キル、そしてカイトを守りやすい立場にいれたら良かった。


 それなのに。


「なんなんだよ、さっきからお前は。隊長だって男なんだぞ」

「そうですよ、アルさん。押し付けは良くないですよ。隊長、時に素直な思いに従う事も必要ですよ。相手に好意がなくても、押せばなんとかなるかもしれないですし。何もしなくて後悔されるよりも、何かした後で後悔された方が隊長の場合良い気がしますが」


 なんなんだそれはっ!!


 その言い方はもう振られるみたい……そうかも知れないけど。彼女の思いなんて俺は、何一つ知らない。

 それにそんな事言われたって今は、自分の気持ちに自信がない。本当の気持ちって何だ。悪魔にまやかしだと言われて、納得出来る自分とできない自分がいて、そんな簡単じゃないんだ。でもなら、自分が分からなければ一体誰が答えを出してくれるんだろう。


「えっ、隊長? まじじゃないっすよね?」

「何が」

「何って、そんなんじゃないって否定しないんっすか?」


 しまった。返事をしそびれた。きょとんとした顔をしているアルとカミュンを見て、かぁっと体が熱くなる。


「そんなんじゃないっ!!」

「えぇ、今更っすか」

「えっ……え。隊長、まさか」

「違うって言ってるだろ!」

「素直になられた方が」

「何なんだ、お前は」

「隊長っ!!」


 ドンっと俺の前でアルが両手を机につく。その勢いに気押される。


「な、なんだ」

「僕、隊長の力になるっていいました!! だから、遠慮なくなんでも話して下さい。恋愛相談でも、なんでもっ!!」


 さっき言ってた事はどこにいったんだ。アルは人の話を聞いちゃいない。


「だから、違う」

「相談って、恋愛経験ゼロの餓鬼になんか出来んのかよ」

「うるさいっ!! ならカミュンこそ隊長にアドバイスできるっていうの!?」

「お、俺の方がお前より人生経験あるからな」

「無駄なね」

「俺の人生を無駄って言うな!!」

「それで隊長、本当のところどうなんですか!?」

「聞けよっ!!」


 話が勝手に進んでいく。もう、この話は終わりにしたい。どうしたらこの場を切り抜けられるのか。


「分からない」

「分からないって事は好きかもしれないって事ですか!?」


 返答を間違えた。アルが瞳を輝かせ問い詰めてくる。


「ほ、本当にそうなんっすか」


 喫驚したカミュンの声。そう言えばカミュンもやたらリナリアの事を気にしてた。なんだか気まずい。


「でも、分からないってどういう事ですか?」

「どうでもいいだろ。もうやめ」

「私は、とっくに答えを出されてるのかと思っていましたが」


 グレミオの発言に、頭に疑問符しか浮かばない。俺だけじゃなく、アルとカミュンもグレミオを見る。ふふっ、とグレミオは笑う。


「隊長は案外わかりやすいでよ。リナリアさんのことを目で追いすぎです」

「マジか。全然気付かなかったぜ」


 ああっもう嫌だ!帰りたいっ!そんな事言われたって俺は、全然分からないっ!!


「そんなに見てたんっすか?」

「知らないっ」

「もう隠さなくてもいいじゃないっすか。好きなら好きで」

「別に好きじゃないっ!!」


 三人が目を見張り、言葉を飲み込む。声を上げてしまった事に不本意な気持ちになるが、それよりも自分の言った言葉が胸を突く。好きじゃない。その否定に悲しくなった。

 重い空気にグレミオとカミュンは言葉を探す様に目を泳がせている。アルはなんだか寂しそうな目で下を向く。もうめんどくさい。そもそもこの気持ちに決着をつけたところで、どうしようもない。全部なかった事、勘違い。もうそれでいいんじゃ。


「隊長、一つだけ僕の話を聞いてもらってもいいですか?」


 アルは真っ直ぐに俺を見る。どこか優しく愛しむような柔らかな目。アルのこんな目は初めて見た。


「なんだ」

「僕には幼い頃に決められた許嫁がいます」

「いいいいい許嫁っ!!!!」


 突然の告白にカミュンが裏返った奇声を上げる。カミュンほどじゃないが俺も驚く。確かにアルの家は名家だが、初めて知った。こういうのもあれだが、アルにそんな人がいるなんて想像できない。上手く、やれているのだろうか。


「許婚って、本当かよっ!?」

「うるさいな。僕は今隊長と話してるんだ。会話に入ってくるな」

「おま、ズルすぎるだろっ!!」

「ずるくないし。別に……これがいいとも言えないでしょ」


 ため息を吐きながら呟くその声は、切なく聞こえた。アルは複雑そうな顔をしながら俺に向き合う。


「政略結婚みたいなものです。僕は初めは嫌でしたよ。きっと彼女は今もそうだと思います」


 初めは……か。それはつまり今はそうではなくアルは、その相手を想ってるという事なのだろうか。

 

「これは他人が決めた事で、彼女の意思は何もない。カイリが願ってたみたいに、本当なら好きな人と結婚したかったかもしれません。でも、それでも、僕は……一緒にいられたらいいと思っています」

「アル」

「隊長はどうですか?」

「俺?」

「相手にどう思って欲しいですか? 僕はそれが答えだと思いますよ」


 呆気にとられる。普段のアルからは想像出来ない言葉に、すぐに言葉を飲み込めない。失礼だがまるで別人。だが、確かに胸が揺らいだ。カミュンが喚きながら机に伏す。


「ぐあぁっ!!!! ま、負けた」

「いつものアルさんからは想像できない、素敵な言葉ですね」

「二人ともうるさいっ!!」


 キッと二人を睨んだ後、アルは俺を見て微笑む。


「大丈夫ですよ。隊長は強くて素敵な人で、僕の一番尊敬する人ですから」

「へっ! 身長もあるしな」

「殺す」


 憤怒の表情でカミュンの脛を蹴り上げるアルをぼうっと眺める。アルはちゃんと自分の気持ちに向き合える。他人が勝手に決めた相手でも好きだと言って思えるお前は、俺と違って立派だよ。

 ふとグレミオと目が合う。こうなったのもお前が余計な事を口走るからだ。


 お前のせいだぞ。


 そう睨むとグレミオはふふ、っとくすぐったそうに笑い、俺に向けぐっと親指を立てる。


「応援してますからね」

「ふざけるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ