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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第二章
52/111

52.初めて恋心(リナリア視点)

 ※今回45話の後、リナリアの視点になります。

 星を見終わって街へ戻る人混みの中、追いついたダイヤのしかめ面をじっとみる。みんな今日の祭典を楽しんでいるのに、こんな顔をしているのはダイヤだけ。


「ねぇ、ダイヤ。どうしてそんなに怒ってるの?」

「怒ってねぇっ!」

「本当?」

「ほっときなさい、リナ。いつもの事なんだから」


 いつもの事だけど、今日は一段と機嫌が悪いなぁ。ダイヤは本当はいい人なのに、みんなに誤解されちゃった。

 人の流れから外れ、二人が街の外に繋いでいた馬のそばに着く。二人はもう帰っちゃう。今日の夜空は明るいけど、帰りは大丈夫かな?


「わざわざ来てもらってごめんね。もう帰っちゃうの? 泊まってけないの?」

「いいの、いいの。観光もできて、楽しかったし。まぁ、帰っても今やる事ないけどトワ様一人だし、このまま帰るわ」

「そう。トワによろしくね。明日には帰るから」

「うん、伝えとく」


 それと、っとジュンちゃんは馬に掛けてある鞄に手を入れる。そこから白い箱を出して私に差し出す。なんだろう?


「はいっ! 誕生日おめでう、リナ」

「わぁ! ありがとう、ジュンちゃん!」


 嬉しい、誕生日プレゼントだ!薄いけど、両手で抱えるくらい大きい。箱の形じゃ中身は何か分からない。何が入ってるのかな?

 

「明日でもよかったのに」

「早くリナに渡したくって。中身見てよ」

「うん!」


 何かな!? 何かな!?


 シュルシュルと解けるリボンの音が、更に胸を高揚させる。箱を開ける。

 

 わぁっ!


 目に入るのはハイネックの襟と、胸元についた細い白いリボン。お洋服だ!ダイヤが手を出す。箱を持ってくれるのかな?ダイヤは本当に優しいな。甘えて箱を渡し、私は中身を広げ全体を見る。袖口が絞ってある長袖のワンピース。スカートが白いシフォンの生地か重ねられていて、なんて可愛いワンピースなんだろう。


「可愛い」

「でしょー♪ リナ持ってる服全部その、なんて言うか素朴だからさ」

「まぁ……でも、私に似合うかなぁ」

「似合うって! ね? お兄ぃ」

「なっ、知んねぇっ!!」

「はぁ。こういう時くらい素直に言っときなさいよ」

「るせえっな!!」


 二人は言い争いを始める。まぁ、いいや。私はもらった服を自分に当てる。普段着ることが無い服に胸が煌めく。当てながら一回くるんと回る。ふわりとシフォンのスカートが揺れる。満更でもない。


 ヴァンに見せたら、どう思うかな?


 彼の前ではアドニールでいる私と、男の隊服を着てる私でしか会ってない。きっと私の事、女として見てないだろうな。まぁ、敢えてそうしてきたからしょうがないけど。


 見せたいな。


 いや、ダメダメっ。流石に明日は、浮かれた気持ちで行くわけにはいかない。

 明日ヴァンは大丈夫かな。カイトさんの死に向き合う事は、彼にとってとても辛い事。瘴気の中でカイトさんが死んでしまった事も悲劇なのに、目の前で瘴魔に変化しようとする所まで見てしまった。大切な友達のそんな姿を目の当たりにした彼の事を思うと、悲痛な思いになる。そして、何もできなかった自分の不甲斐なさも消える事はない。だからせめて、カイトさんへ祈りだけでも捧げてたいと思って聞いたけど、まさかヴァンが誘ってくれるとは思わなかったな。

 

 ヴァンとは、明日でしばらく会えないな。このまま一緒にいれたら良いのにな。


 でも、いつまでも悪魔を抑え込めない。心臓がここにいる以上、悪魔はまた来る。本当ならすぐに闇を祓える人を探さないといけないのに、私は彼の事を優先して何もしてない。使命を放棄してる様で罪悪感だな。

 ヴァンもそう思ってるかな。私の事、情けない奴って思ってないかな。あぁ、最近ずっとヴァンの事ばっかり考えちゃうよ。


 私、ヴァンの事……やっぱりそうなのかな。


 いくら恋愛に縁遠い私だって、そうじゃないのかなって思わずにはいられない。こんなに男の人を気になった事がない。でも、まだ自信がない。そうだよって誰かに言って欲しい。

 二人を見る。まだ、喧嘩してる。落ち着かない様子のダイヤと、冷ややかな表情のジュンちゃん。

 恥ずかしいけど、二人に聞いてみよう。


「早く、お兄ぃもわ」

「ねぇジュンちゃん、ダイヤ。ちょっと相談があって」

「えっ、相談? 急にどうしたの?」


 目をぱちくりさせながら二人が私を見る。うぅ、緊張する。


「その、あのね、最近ちょっとおかしくて」

「おかしい?」

「そんなのいつもの事だろ」

「そうじゃないのっ!」


 変わってるって言われるけど、そういう事じゃないの!


「心臓がドキドキして、胸が苦しくなって、体が熱くなるんだけど、何だと思う?」

「えっ?」

「お前病気か? 大丈夫かよ」

「病気」


 頬をさすりながら考える。病気なの?でも、普段はいつもと変わりないし元気だし、何より風邪なんて引いた事ない。恥ずかしくていきなり全部言えなかったけど、やっぱりこれだけじゃ分かんないかな。


「ミツカゲ様に言ったの?」

「い、言ってない」


 言えない。言えるわけない。


「調子良くないなら言った方がいいよ。いつからなの?」

「いつ、から」


 それは分かりきってる。ヴァンのお部屋で話したあの時から。思い出すだけでも体が熱くなって、ドキドキしちゃう。


「その、昨日の夜」

「腹出して寝て、風邪引いたんじゃねぇか」

「出してないっ!」

「なんか変なもの食べてない? リナ」

「食べてないっ!」


 私の事を何だと思っているの。もう、19なんだよ。私の欲しい答えを二人は一向にくれない。ええいっ!恥ずかしいけど、こうなったら全部言っちゃおう。


「でも、この時からってのは分かってて。その、昨日の夜ヴァンのお部屋にお邪魔して、二人で話したの」

「えっ!?」

「はぁっ!?」


 二人の驚愕した声に、覚悟して言ったけど羞恥心で胸がいっぱいになる。今までの私から想像できないと思う。男の人と親しくなるのを避けてきた私が、夜男の人の部屋に入るなんて。驚くのも分かるけど、そんな風に驚かないでぇ。


「リナ、なんでまた」

「お前何やってんだっ!!」

「だって、どうしても話したい事があったから」

「話したい事?」


 これは言えない。ヴァンの秘密は絶対に守らないと。話を戻そう。


「それでね、話してる間は楽しかったの。自分の夢を話したり、本の話とかしたりして。ヴァンも本が好きだから! ……でも」

「でも?」

「ヴァン途中で寝ちゃって。そのぉ……私に寄りかって」

「はぁーーーーーーーっっ!?!?」


 わぁ!鼓膜が破れるっ。耳を塞いだけど、耳鳴りする。だからそんな風に驚かないでぇ。


「あのクソ野郎っ!! 何考えてんだっ!!」

「わっわざとじゃないんだよっ! ヴァンずっと寝れてなかったし、しようとして、した訳じゃないの」

「それで?」

「それでって?」


 ぽかんと難しい顔をするジュンちゃんを見る。


「どう、思ったの?」

「鬱陶しかったんだろ? お前、そう言うの嫌いじゃねぇか」


 胸がぎゅっとなる。

 違う。違うんだよ。その時の私は、きっと二人が想像してるのとはだいぶ違う。

 私に寄りかかって眠る彼の顔がすごく近くて、胸がドキドキした。それは嫌悪とかじゃなくて、なんて言うのかな……そう、ときめいた。


「びっくりしたけどでも、違うの。すごく胸がドキドキしたの。それは嫌とかじゃなくてね。なんか、こぉそのぉときめいたというか」


 だからねぇ、ジュンちゃん、ダイヤ。この気持ちはやっぱりそうなのかな?こんな気持ちになった事ないよ。

 会えると嬉しいの。でも、見られると恥ずかしくて。他の女の人と話してるともやもやするし。それから、触れられたら心臓が飛び出そうになるの。あとあと、笑ってくれると胸がきゅんっとなって。自分じゃ抑えられなくて、どうしようも出来ないの。だから、そうなのかな?この気持ちはそうだと思う?答えをくれる?


「ねぇ、ジュンちゃん、ダイヤ。私ヴァンの事どう思ってるのかな?」

「リナ。それを私に聞くの?」

「えっ、ダメかな?」

「それは自分で考えなさい。本当の答えを知ってるのは、リナだけなんだから」


 どうして、そんな顔するんだろう。ジュンちゃんの目は切なそうに見える。

 私の思ってる気持ちとは、違うのかな?


「でも、だって……私」

「自分で見つけないと。でも、そっか。ちょっと会わなかっただけなのにね」

「くだらねぇ」

「え、ダイヤ?」


 思わず体が強張った。それほどダイヤの声はすごく怒ってる。いつもの事、じゃなくて初めてくらいに。怖い顔もしてる。でも、どこか悲しそう。どうしたの?


「先、行く。じゃぁな」

「ダッダイヤ!? 待ってよっ!」


 私を見ないで箱を押し付け、馬に乗って一人で行っちゃった。どうしたんだろう。私、何か悪い事したのかな。


「ダイヤ、すごく怒ってる。なんか悪い事言ったかな」

「気にしないの……いつもの事よ」

「そうかな」


 首を傾げる。そうは思えないけど。


「リナ、一つだけ助言してあげる」

「何?」

「素直にならないと、思ってるだけじゃ何も変わらないよ。相手はリナの事待ってはくれないんだから」

「ジュンちゃん」

「もたもたしてると相手には好きな人ができて、恋人もできるかもよ?」

「えぇっ!?」

「だって、彼モテそうだし」

「えぇっ!!!!」


 それは嫌だよ。想像するだけで、胸が苦しくなって泣きそうだよ。


「リナも、誰かさんみたいにならないようにね」

「誰かさん? 誰かさんって」

「ふふ、じゃあねリナ。明日アナスタシアで待ってるから」


 ジュンちゃんは馬に跨り手を振って、闇に消えて行く。私は二人がいなくなったそこを見つめ考える。

 誰かさんはよく分からないけど、ジュンちゃんの言う事はもっともだ。今日の私はとことん素直じゃなかった。あからさまに避けちゃったし、叫んじゃったし、聞かれてもいいのって言っちゃうし。朝は特にひどくて、考えれば考えるほど可愛くなかった。

 

 鬱陶しかったかな?嫌われたかな?

 

 憂鬱になってくる。

 そもそもヴァンは好きな人いないのかな?いないって勝手に思ってたけど。もし、いたらどうしよう。カイリさんと、マリーさんとは仲良さそうだったし。逆に二人はヴァンの事どう思ってるんだろう。私と違ってこれからもずっと一緒にいられるし、可愛いし、いいな。


 胸だって。


 自分の凹凸の無い胸を見る。ただでさえ無いのに、いつもの癖で更に布を巻き、押さえつける所業。スタイルが良くて、大人っぽい素敵な二人。比べてちんちくりんで子供っぽい私。勝ち目ないよ。

 

 私はどうしたら、良いんだろう?


 いつもどこか難しそうな顔をして、素っ気ない彼。どうしたら振り向いてもらえるか見当もつかない。急に積極的にいったら彼の場合嫌がりそうだし、他にやる事あるだろ、って叱られるのが想像できる。

 はぁ、と落胆。もう心折れるよ、ジュンちゃん。


「リナリア様」


 この声はミツカゲかな?振り向くともう人影が消えた平原の中、目部下までフードを被ったミツカゲが歩いてくる。


「ミツカゲ、どこにいたの? ミツカゲも一緒に星見ようって言ったのに」


 ミツカゲはフードを深く被り直して、更に顔が見えなくなる。


「嫌ですよ。あの男と一緒になどと」

「そんな風に言わないでよ」


 もう、すぐにヴァンの事敵視するんだから。本当は仲良くして欲しいのにな。想像した。笑い合う二人。これは、ちょっと面白いなぁ。つい口元にだしてしまう。


「どうされました?」

「な、何でもないよ」

「そうですか? では、街へ戻りましょうか」

「うん」

 

 街の中に戻ると流星群が終わった後でも人は多いし、まだまだ賑やか。いい匂いがするな。薄い小麦の生地でクリームをいっぱい巻いたお菓子や、串で刺された大きなお肉が美味しそう。自分でも目が輝くのが分かる。他にも今日ならではの星をモチーフにした雑貨や綺麗なアクセサリーが売ってる。目を引かれるお店がいっぱいで歩くだけでも楽しいな。昨日はちょっとだけでもヴァンと一緒に見れて嬉しかったな。そうだ。明日の事ミツカゲにも言わないと。でも、きっと怒るだろうな。


「ねぇ、明日の事なんだけど」

「明日ですか? どうかされましたか?」

「その、ミツカゲは怒るかも知れないけど」

「はぁ、嫌ですね。その言い方は」

「明日もう一度キルの所に行って、それからカイトさんにお花を手向けて帰ろうと思うの……ヴァンと一緒に」

「リナリア様」


 ピシャリとした声。やっぱりなぁ、っと小言を言われるのを覚悟する。


「もう、あの男に関わるのはやめて下さい。もう目的は果たせましたよね?」


 うん、ミツカゲのおかげで。もう少し優しく伝えて欲しかったけど。


「分かっていますか? 奴はあの悪魔の血が流れているのですよ。同情、する気持ちは分かりますが、リナリア様の命を狙う邪悪で、穢らわしい悪魔なんですよ」

「ミツカゲ! 彼は悪魔じゃないよ。それに私は同情とかじゃなくて……ただ」


 ただ、力になりたいだけ。私にできる事は少ないけど。

 

「お願いミツカゲ。約束もしてるし、どうしても行きたいの」

「……はぁ。いいでしょう」


 やった!意外にもミツカゲはあっさり承諾してくれた。最近ミツカゲは優しい。もともと優しいけど、今までだったら無理そうな私の我儘を受け入れてくれる。でも、たまにふと悲しい目をする事が増えた気がする。困らせてるかな?


「ですが、私もお供します」

「えっ!? ミツカゲも一緒に!?」

「これ以上は譲歩出来ませんからね」

「でも」

「でも、は聞けません」


 これ以上はダメだ。こうなるとミツカゲは折れない。トワは結構許容してくれるんだけどな。

 ミツカゲが急に立ち止まる。私も立ち止まり、ミツカゲの視線を辿る。あれは私が昨日食べ損ねたシュークリームのお店。まさか、ミツカゲ食べたいのかな?


「あれは昨日リナリア様が、食べたいと仰っていたものでは?」

「え、あ、うん」


 そういう事か。ショーケースを見る。まだ、今日は残ってる。もちろん食べたい。すごく食べたいと切望して見る。


「食べますか?」


 悩む。でも、それは一瞬。


 ヴァンと一緒に食べたい。


 と言うよりも、これを口実にしようと今閃いた。だから今日は買わないの。


「今日はいいの」

「ですが」

「また今度にするよ」


 次ここに来たら買いに行くの付き合ってって約束したいな。言えるかな?でも、言えても嫌だって断られそう……はぁ。


 やっぱり、私。ヴァンの事好きなんだな。


 この思いに気づかないようにしてた訳じゃない。でも、知らなかったから……この気持ちが急に降ってきて、びっくりして、戸惑って、分からなくて。


 急に、なのかな?


 思えば私は結構前から、彼の事が気になってた。もしかしたら、写真で見た時からだったりして。

 ふとヴァンにどうして守るのかと問われた事を思い出す。あの時答えられなかった。確かに彼の言う通り、キルとの約束もあると思うけど彼を守らなくちゃと思うのは、それ以外にもある気がしてた。ずっと引っかかってすっきりしなかったけど、それはもしかしたらこの気持ちのせいだったのかも。発見できて、なんだか嬉しいな。

 でも、初恋の彼とも明日でしばらくお別れ。次はいつ会えるか分からない。本来なかったチャンス。せめて悔いが残らない様、ジュンちゃんの助言通り明日は素直になろう。


 うん、素直……かぁ。

 

 それでもやっぱりこの思いだけは、伝える事はできないだろうな。会えない間、ヴァンは他の誰かを好きになって、伝える事なくこの恋は終わってしまうかもしれない。誰かを好きになるって、こんなにも辛くて苦しくなるなんて知らなかったな。それを私は今まで蔑ろにしてきた。知ろうとしてこなかった。そばにいる事が叶わない彼の事を好きになってしまったのは、そんな私への罰なのかもしれない。

 闇夜に浮かぶ欠けた月を眺める。まるでヴァンの瞳のような黄金。全ての人を照らすこの月のように貴方が、私だけを見る事はきっとないんだろうな。

 お互いが好きになるってすごい事なんだね、ヴァン。

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