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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第一章
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5.また来よう①

 瘴気の発生した場所数箇所回り、狩り残した瘴魔を討伐し帰還する。帰ってから城内の一室の中で俺は、隊員と押し問答をしている。


「本当に大丈夫か?」

「本当に大丈夫ですよ。心配しないで下さい。ちゃんと書いて提出しますから」


 皆は俺を帰らせようとしてくれるが、他人に自分の仕事を任せた事がないのでやはり心配だった。


「隊長ー俺達もいますし大丈夫ですって! もう、待たせちまいますよっ!」


 カミュンが俺の背中をぎゅうぎゅう押して遂に強行手段をとり始める。体格差もあるが、カミュンはやはり力が強いので抗えない。


「分かったから、押すな。じゃぁ」


 まだ喋っている途中だったのに、カミュンが俺を部屋から押し出した途端バタンと扉を閉めた。廊下に取り残された俺は、しばし無言で扉を見つめる。


 大丈夫だろうか。


 だがこうしていてもしょうがないので俺は、後ろ髪を引かれながら約束の場所まで歩みを始める。


 城から出て空を仰ぐ。空はすっかり黒に覆われ、星が瞬いている。まだまだたくさんの人々が行き交う時間。こんな時間に街中を歩くのは久しぶりなのと、友に会える事になんだかんだ足取りは弾む。

 顔を赤くし、肩を組みながら歌う中年の男達。

 子を真ん中にし、手を繋いで楽しそうに歩く家族。

 仲睦まじげに寄り添い歩く恋人。

 そんな人々を横目にして大通りから路地裏に入る。人影が減った石畳の道を歩いていると、壁にツタが生えた建物が目に入る。古ぼけた木製の開き扉の上に、この店の店主こと店名が書かれた看板の前に立つ。人の笑い声が聞こえてくる。開き戸を押し中に入ると、一層明るい声が飛び交う。皆酒を交わし高らかに笑っている。


「いらっしゃい、ってヴァンじゃない! 久しぶりねぇ!」


店いっぱいの笑い声に負けないくらいの声で店主カミールがカウンター越しに話しかけてくる。


「噂で聞いたよー零隊の隊長になったんだってぇ! えらい出世したもんだね! 凄いじゃないか」

「ありがとうございます」

「カイトならもう来てるよ! あっちのテーブルに座ってるから」


 俺は指差された店の奥にあるテーブルに向かう。カウンターを曲がった先に、どこかそわそわして落ち着かない様子で座るカイトがいた。


「ヴァンここ! ここ!」


 俺に気付き手を振っている。俺は他の客を避けながら、カイトが待つテーブルまで行き遅れた事を謝罪する。今日は遅れてばかりな気がする。


「お疲れ様。大丈夫! 僕もね、今来たところだから。ほら、座ってよ」


 カイトに促され俺は二つあった椅子のうち一つ、カイトの正面になる方に腰掛ける。座ると早速カイトがなに飲む?とメニュー表を渡してきた。俺はそれを見ずに答える。


「水でいいよ」

「水!? お酒飲まないの?」

「明日はおかしな任務があるだろ」

「おかしなって……でも、そうかぁ」


 カイトは残念そうにして、擦り切れた紙と睨めっこしている。そして片手を上げ、近くの店員に水で割った酒を二つ頼む。


「おい」

「まぁまぁ、薄いから大丈夫! それにここはお酒を出す店なんだから頼まなくちゃ!」

「はぁ」

「それにしても二人でくるの久しぶりだね。キルも来れたらいいのにね」

「普通に無理だろ」

「はは、そうだね。でも二人で来たこと話したらまた、拗ねちゃうかも」

「あの時はめんどくさかったな」

「ふふ、キルったら」


 昔話に花を咲かせる。懐かしさが蘇る。最近の疲れも憂いも今だけは忘れられた。話し込んでいるとドンっと机の上に二つグラスが置かれる。


「はぁい! お待たせぇ!」

「ありがとうございます」

「あと、ご飯も持ってくるからね!」

「ご飯?」


 カミールの言葉にカイトと顔を見合わす。しばらくしてカミールが両手に料理を持って来る。こんがりと焼かれた鶏の肉と大盛りの炒飯が置かれる。鶏肉と香辛料のいい匂いがする。


「カミールこれなに?」


 突然頼んでもない料理が運ばれてきて、カイトが不思議そうに尋ねる。


「これはヴァンが隊長になった私からのお祝い! 今日は奢ってあげる」

「ホント!? やったぁ! よかったねぇ! ヴァン!」

「そんな、いいんですか?」

「いいのいいの! その代わりこれからもまた二人で来て頂戴ね!」

「はい、ありがとうございます」


 気持ちのいい笑顔を見せた後、カミールはカウンターに戻り他の客の相手をしだす。並べられたご馳走を前にカイトは目を輝かせる。


「こんなにご馳走食べれるなんて嬉しいなぁ! ヴァン様々だね」

「なんだそれ」

「それじゃあ、乾杯しよ! ヴァンの隊長就任祝いに!」

「別に今日その為に集まった訳じゃないだろう」

「相変わらず刺々してる〜 カンパーイ!!」


 カイトは俺の持ってるグラスに強引にぶつけ、そのまま酒を旨そうに喉に通している。俺は軽く口をつける。


「それで? 話したい事ってなに?」


 にこにこと上機嫌のカイトにすぐに今日の本題を聞く。カイトは顔を赤く染めだす。


「それ、もう聞いちゃうの? もうちょっと待ってよ」

「はぁ?」


 なんだそれ?


 俺は呆れながらカイトを見る。


「ところで、最近どう?」


 こいつ意地でも言わないつもりか。話したいことを話さない矛盾に俺はもどかしい気持ちになるが、こうなったら付き合うしかない。


「別に、仕事が忙しいくらい。カイトこそ総隊長の補佐になって大変なんじゃないか」

「まぁ、慣れない仕事ばっかりで大変な事も多いけど、やり甲斐も感じてるよ! それよりさ、零隊の噂は聞いてるよ。すごい活躍だね」

「命令に従ってやってるだけだけどな」

「ふふ、ヴァンらしいね。隊員の人達とも上手くやってるみたいで本当によかったよ」

「……最初は大変だったけど」

 

 隊長に任命された際に隊員の経歴に目を通したが、カイリを除いて揃いも揃って曲者揃い。初めの頃は皆マイペースと言うか、言うことを聞かないわで好き勝手やっていた。誰にも言わないが何度辞めたいと思ったか。なんだかんだでやっと最近、隊としてまとまってきたと感じる。


「僕はねこの話が出たとき反対だったよ。キルとセラート様がヴァンなら大丈夫って言ってたけど、やっぱり心配だった。でも、今朝の様子を見て二人の言ったたことは間違ってなかったと思ったよ。きっとヴァン以外零隊の隊長にはなれなかったよ」

「そう、か」


 正直まだ隊として未熟だが、そう言ってもらえるとなんだか少し安心する。


「ヴァンの作った報告書、僕もいつも目を通してるんだ」

「えっ、あぁ」

「いつも隊員の事細かく書いてあるよね。あれは隊員達に対して僕達の不安要素を作らない為?」

「まぁ、その方がお互いやりやすいだろ」

「そこまで気が回るのはやっぱりヴァンはすごいよ。みんなの事大切に思ってるんだね」


 その言葉は心に引っかかる。大切とはどんな意味合いでなのだろうか。もちろん部下として大切には思っているが、そこには責任があるからだ。


「立場に沿った事をやってるだけだ」


 俺の返答に、カイトはくすぐったそうに笑う。


「僕はヴァンのそういう真面目なところ好きだよ」


 なんだか急に胸がムズムズする。答え辛いなぁっとグラスを口元に運ぶ。


「ところでさ」

「なに」

「ご飯食べていい?」

「……あぁ」

「いやぁ〜もうさっきからお腹ペコペコでさ!」


 目の前の料理を手当たり次第に口に運んで美味しいと幸せなそうな顔をする。あまりにも美味しそうに食べるので、俺も目の前の鶏肉に手を伸ばしそれにかぶりつく。うん、確かに美味しい。 

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