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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第二章
47/111

47.この思いは①

 おもむろに瞼を開く。天井に一直線伸びる光が目に入る。それを視線で辿る。窓の外から漏れる日の光に朝か、っと再び視線を天井に戻す。

 いつの間にか寝ていたんだな、起きないと。そう思いつつも起きようという気になれない。

 

 あぁーもう。


 感情任せに髪をくしゃくしゃとする。いろんな気持ちが胸の中に渦巻く。煩わしいとか、気が重いとか。でも、約束したし、行かないととか。

 彼女の顔がふっと頭に浮かぶ。顔がかぁっと熱くなる。


 違うっ!!


 昨日の思いを振り払う。俺はそんな風に思ってない。そう、これはきっと恩があるから、っとよく分からない事を言って終わらせる。

 

 とにかく今何時だ?側にある時計を見る。まだ早いか。でも、とりあえず準備しようと立ち上がり、服のしまってある箪笥の前に立つ。


 何着てこ。


 いや、別に何でもいい。そもそも、俺の普段着なんて似たようなものばかりで、悩む必要はないっと、並ぶ服と睨めっこを始める。

 これとこれで良いや。やっと決めた白いシャツと黒いズボンを手に取り、着替えを済ませた頃にはもういい時間。慌てて残りの支度を済ませる。


 俺は何やってるんだ。準備するだけに無駄に疲れた。


 最後剣をベルトに差し、徒労感を感じながら家を出る。


 ほぼ城壁近く、街の端にある俺の家。

 静かで人気の少ないこの場所をあえて選んだ。表通り付近の家とは違い少しみすぼらしい造りの民家が建ち並ぶ。徐々に小綺麗な店が増え、人通りも多くなっていく。

 大通りに出る。

 昨日の祭典の飾りはもう撤去されたいつもの街並み。街の人は和やかな表情で歩いている。この暖かな気候がそうさせるのかもしれない。

 しばらく歩いて待ち合わせの正門に辿り着く。歩きながら辺りを見渡す。

 

 まだ来てないか。


 通り過ぎる人や馬車の間から彼女の姿を探がすが、見当たらない。

 ここで待っていよう。門の近くの城壁にもたれかかり、腕を組む。やる事のない俺はただ街の様子を眺める。本当に眺めるだけで、出来るだけ無心になる事を心がける。少しでも彼女の事を考えるとまた、昨日の問答が始まってしまう気がした。

 でも胸がそわそわして落ち着かない。

 なんか緊張する。

 いやいやと首を振る。


 そう、無心だ。

 

 どれくらいこうして待っていたか、分からない。街並みを眺めていると行き交う人の間にふわりと揺れる金色の髪が目に入る。こちらに気がついた青い瞳と目が合った。


「ヴァン!」


 ぱっと笑顔を作るリナリアが手を振る。嬉しそうに手を振ってくれるその姿に、自分でも顔が綻ぶのが分かった。が、彼女の隣にいる人物に眉が寄る。馬を引きながら二人がこちらに来る間、俺はずっとそんな顔でそいつを見ていた。相手も同じ。


「なんだ貴様」

「……」


 会って早々この態度。相変わらず冷徹な瞳。ミツカゲから目を逸らす。彼女はこのまま帰るのだからいてもおかしくはない、でも、そうか……いるのかっとそんな気持ちになる。


「ごめんね、ミツカゲも一緒にいいかな?」


 渋々頷く。


「待った?」

「いや」

「そう、よかった」


 ふわりと笑う彼女に何か違和感を感じた。


 なんだろう?


 今日の彼女はいつもと違う。

 私服だから?白のシャツの上に、濃紺色の上着。くるぶし丈の茶色のズボン。なんの変哲もない。ただ腰に下げている剣がとても不釣り合いに感じ、普通の女の子に見える。


 そう、普通の。


 そうだ。今日は一段と女らしくに見える。何故そう思えるのか。頬を少し赤くさせながら俺を見上げるリナリアを熱心に観察する。顔、なのか?でも別に何か特別な事をしている様には見えない。うまく言い表せないけど、何か違う。

 青い瞳の視線がゆっくりと下がる。


「ど、どうしたの? なんか変かな」

「え、いや」

「ヴァンはいつもと雰囲気違うね。私服、だからかな?」


 まるで自分の心の声を聞いている様な彼女の言葉にたじろぐ。妙に素直と言うか。本当に昨日のあの態度はなんだったんだろうか。

 行こっかとリナリアは馬を引いて歩いていく。ついて行こうと門を潜る途中で悪寒を感じた。ミツカゲが横にいる。


「調子に乗るなよ」

「……」

「俺はこれでも我慢している。本当なら今すぐでも斬ってやりたい」

「……」

「リナリア様が接触したのは、貴様が取り込まれ悪魔の力が増すのを防ぐためだ。それを勘違いするな」


 ムッとする。そんな事言われなく分かってる。わざわざどうも。


「今日が終われば……」


 ミツカゲはポツリと呟く。意味深に聞こえた言葉にミツカゲを見ると、目を細めどこか遠くを見ている。切なさが見えるような青い瞳に何故か胸がざわつく。

 

「二人とも何してるの?」


 小首を傾げながらリナリアが戻って来る。


「なんでもありませんよ」

「……また、ヴァンに酷い事言ってない?」

「言っていませんよ。早く用を済ませて帰りましょう」


 歩き出すミツカゲをリナリアは怪しむ様な目で見ている。俺もそんな目で冷酷男の背を見る。


「ミツカゲがいろいろごめんね」

「別に。気にしてない」


 申し訳なさそうに謝る彼女にはそう言うが、あそこまで敵意剥き出しにされるとこっちだって良い気はしない。でも、あれが普通なんだ。キルとカイト、そして彼女が特別優しいんだ。


「あれが普通だ」

「普通?」

「本当の俺のことを知れば皆、あぁなる」


 そう、みんな。隊の仲間だって、セラートだってヘイダムだって皆、ミツカゲと同じ様になる。

 人間だった父。悪魔だった母を愛したせいで、殺された。今まで普通に接してくれた人、キルの父だって誰も助けてはくれなかった。それがこの世界の現実なんだ。


「……ヴァンはヴァンだよ」

「えっ?」


 思わぬ言葉にリナリアを見る。


「今のままの貴方がみんな好き。だから、貴方が何者でもみんな変わらない。その」


 ぼそぼそと聞き取れない声で何かを言いながら、恥じらう様に下を向く彼女。

 その言葉は何よりも嬉しかった。

 自分の事がずっと大嫌い。それでもいいと彼女が言ってくれる事に、また救われる。


 ありがとう。


 本当はそう言いたかったけど、なんだか自分まで恥ずかしくなって、顔を逸らす事しかできない。逸らした視線の先、立ち止まってこちらを凄い剣幕で睨むミツカゲと目が合う。すぅっと体の熱が引く。


「……行くか」

「う、うん」


 街の外に出る。馬に跨りリナリアが横について弾む声で話しかけてくる。


「じゃあ、道案内よろしくお願いします! 隊長」

「もう、俺はリナリアの隊長じゃないだろ」

「ふふ、まだいいでしょ?」

「おい、馬はどうした」

「俺は歩く。ここからそう遠くない」

「貴様、ふざけてるのか」


 そんな事言ったってしょうがない。いつも使ってる馬は国のものだ。個人で勝手に使えない。俺自身街の外に出かける事なんてないので、個人でも持ってない。

 考え込むような顔をしているリナリアに尋ねる。


「悪いな。それでもいいか?」

「えっ、うん。大丈夫だよ」

「なら行くか」

「あ、お花は?」

「あっちでも売ってる」

「よかった。持ちながら移動するとお花、ちっちゃうから」

「そうだな」

「カイトさんに喜んでもらえるといいね」

「あぁ」

「おい、早くしろ!」

「分かってる!!」


 うるさいなっ!!


 人が話をしてるっているのに、やっぱりどっかに行ってくれないだろうか。


 碧落の下、平原にどこまでも続く街道を歩み始める。荷馬車を連れる商人や旅人のような格好をした人とすれ違いながら、彼女と並んで歩く。

 リナリアはどこか嬉しそうにして、馬に揺られている。俺はと言えば背後からずっと殺気を感じなんとも言えない気分だが、もう気にするのはやめた。俺には確かに悪魔の血が流れているが、だからってこいつの下手に出るつもりはない。


「いい天気になってよかったね」

「そう言えば、キルに会えたのか?」


 彼女を見上げる。リナリアは視線を落とし、どこか憂いた瞳で頷く。


「貴方に昨日はごめんって伝えてって」

「……そうか。キルはもう調子は良さそうなのか?」

「どう、なのかな。キル自身は大丈夫って言ってたけど」


 俺も会いに行かないと。でも会って何を話したら良いのかはまだ、分からない。


「ねぇ、ヴァン」

「なんだ」

「ヴァンは昨日何お願いしたの?」


 願い。というよりも祈りに近いかも知れない。


「カイトへの祈りだ。リナリアは?」

「私は……世界を守れますようにって。でも、それを神様に任されたのに神様に願うのはおかしいかな?」

「別に、いいんじゃないか」


 神でもなんでも、叶えてくれるなら叶えて欲しい。俺は何も、出来ないから。


「うん。ヴァンがもうあんな事をしない為にも、私」

「あんな事?」

「私は貴方が何者でも貴方は貴方だって思ってる。でももう、あの力は使って欲しくない。ヴァンがいなくなっちゃいそうで……怖いの」


 あの時。それは闇の力の暴発の事か。あれは自分で意思でしたことではないし、俺ももう使いたくない。闇に引っ張られる。それを強く感じ、俺自身ももう元の自分に戻れないような気がした。


「何故貴方を守るのか」


 ぽつりとリナリアが言う。


「ヴァンにあの時聞かれて答えられなかった。確かにキルとの約束もあったけど、ずっと他にもある気がしてたの。それはなんだか分からなかったけど、今はね少し分かったの」

「なに?」


 リナリアは答えない。ただ優しい瞳で俺を見て笑うだけ。そこまで言って、言わないなんて。文句の一つも言いたいのに黙ってしまうのは、彼女の笑みに気づきたくない思いが溢れそうになるので、それを抑える事に必至になるから。

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