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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第二章
45/111

45.未来への願い

 立ち話をしていると、人と肩がぶつかる。周りを見ると、更に人が増えていた。


「はぁ。私達も、そろそろ行こ」

「なにぃカイリ? ため息なんてついてぇ」

「別に」


 なんだかカイリは不満そうにして歩き出す。まぁ、そろそろ時間だ。俺達も人の流れに乗り、外へ出る。

 

 城壁の向こう側、広大な緑の上には多くの人影が見えた。誰もが隣にいる人と星空を眺めている。


「結構いるね」

「街中の光がなくてぇよく見えるからね〜」

「あっ! あそこでリナリアちゃんが手を振ってる」

「はぁ。あの男の威圧感どうにかならないの」

「まぁまぁ、アルさん」


 確かに、なんて思いながら待っているリナリアの傍へ行く。俺達が着くとリナリアは、嬉しそう笑って迎えてくれる。


「そう言えばまだ、二人の事紹介してませんでしたよね?」

「さっきちょっと話したけどね」


 そう言ってジュンは、俺達に体を向き直らせ改まる。


「ジュン・サルディアです。で、こっちが兄のダイヤ・サルディア」

「兄弟?」

「そうですよ」


 少しの間。

 愛想のある妹と愛想の無い兄。瞳の色以外、似ていない。それをきっと皆も思ったのだろう。


「ダイヤは愛想がないですけど、仲良くしてくださいね」

「余計な事言ってんじゃねぇ!! それよりお前らあの時戦場にいたよな? 一般人じゃなくガンガルドの兵隊だったか。あそこで何してたんだ」


 覚えていたのか。困った顔をした隊員達の視線が俺に向く。俺もなんて答えたらいいか分からない。理由を勝手に話していいものか。考え込んでいると、リナリアがダイヤの服の裾を引っ張る。


「ダイヤ」

「なんだよ」

「いいの」

「何がだよ!」


 リナリアはそれ以上何も言わない。ダイヤ髪をくしゃくしゃとした後、諦めるようにはぁとため息を吐く。俺は彼女に理由を話していないから、キルから聞いているのだろうか。

 突然、わぁっと周りの歓声が聞こえた。空を見上げる。

 ひとつ星が流れる。

 そしてそれを合図に、次々と星が流れ出す。


「見て見て!」

「始まりましたね」


 小さな光が尾を引き最後、泡沫の様に儚く消える。幻想的で美しい光景。人のざわめきしか聞こえないのに、流れる音も聞こえるよう。

 リナリアが、声を弾ませて話しかけてくる。


「この星って今、世界中で見られてるの知ってますか!?」

「そうらしいわねぇ」

「不思議ですね。昼間ですとどんな風に見えるのか、見て見たいですね」

「そうですね! 私も見て見たいです」


 リナリアは無邪気に笑う。

 世界を見たい。

 そう夢を語ってくれたあの時と、星を映す青い瞳は同じ瞳であった。

 

「リナ、お願いしなくていいの?」

「あっ! そうだね!」

「私もしないと」

「おぉ! そうだなっ!」


 リナリアとカイリとカミュンが手を組み祈り出す。


「お願いか」

「するだけはタダですよ」

「そうねぇ」


 アルとグレミオとマリーもそう言って静かになる。俺は流れる星を見上げる。

 一瞬の煌めきに命を燃やし、あっという間に消えてしまう。そんな星へ願いをするのは初めてだ。


 カイトが安らかに眠れるように。


 せめてお前が今、なんの苦痛も感じていない事を俺は願う。


 この現象はほんの数分の出来事。

 最後の一つが流れると、いつもと変わらぬ月と星影が浮かぶ空へと変わる。一瞬の静けさの後、人々は語らいたがら、ぞろぞろと街へと戻りだす。

 カイリが皆の顔を覗き込む。


「みんなは何お願いしたの?」

「僕はなんでも出来るくらい、誰よりも強くなりたい。それで隊長の右腕になる」


 それは、知らなかった。でも、アルは本来ここにいるべき人間じゃない。一階の兵ではなく後々は父の立場を継ぎ、もっと上へいく。アルの父親、アイザックさんはいつまでアルをここにいさせるつもりなのだろう。


「なら、私の立場は狙われてるのでしょうか?」

「そうだよ。僕が副長になるんだ」

「お前ホントに信者みてぇだな」

「はっ!? じゃぁカミュンは何」

「俺は……いつか俺見てぇに加護がない奴らの為に、なんか出来たらいいなってな」

「へぇ」


 カミュンがそんな事を考えていたなんて。普段の様子からは想像できなかった願いに驚く。


「私は玉の輿ぃ」

「玉の輿? もっと他にないの?」

「そう言うカイリはぁ何願ったのよ〜?」

「えっ、わ、私は」


 マリーらしいななんて考えていると、口篭るカイリと目が合う。


「その、いつか好きな人と結婚して幸せになりたいな……なんて」

「へぇ〜好きな人ぉ? 誰とぉ?」

「だっ誰でもいいでしょっ!!」


 マリーに楽しそうに揶揄われているカイリ。その様子をアルは、ぼうっとした顔で見ているので気になった。


「どうした、アル?」

「いっいえ。なんでもないです。グレミオは何お願いしたの?」

「そうですね。平和になった世界で畑でも作って静かに暮らしたい、ですかね」

「なにそれ、お爺さんみたい。なら、僕が副長になりたいんだから、早く隠居してよ」

「隊長は何お願いしたんっすか!?」

「言わない」


 言いたくはない。


「秘密主義っすねぇ〜」


 皆の願い。それはいつか叶う日が来るだろうか。視線が自然に動く。リナリアは楽しそうに話している。


「二人は何お願いした?」

「……あぁっ!?」

「リナ、お兄ぃに聞くだけ無駄よ」

「そんなもんいいから、もぉ行くぞ!」

「ダ、ダイヤ」


 ダイヤはズカズカと去って行く。ずっとイライラして疲れないのだろうか。ジュンが気まずそうに頭を下げ、ダイヤを追いかけて行く。


「リナリアはよくあんなのと友達でいられるね」

「アルさんそんな風に言ってはダメですよ」

「はは」


 苦笑するリナリアは頭を下げる。


「すみません、みなさん。今日は一緒に見れてよかったです。私もこれで失礼します。短い間でしたが本当にありがとうございました」

「うん、こちらこそありがとう。またいつでも遊びに来てね。今度は一緒にケーキ、食べに行こう」

「はい」

「リナリアさん、お元気で」

「またねぇ〜」

「よく分かんないけど、まぁ頑張って」

「うぅ、リナリアちゃん。また会おうね」


 皆の別れの挨拶を聞いてリナリアは頷き、微笑む。そして瞳を閉じ、胸に手を当て祈りを口にする。


「みなさんにどうか、神の御加護があらん事を」

 

 不思議な空気がこの場に流れる。荘厳な雰囲気を感じるくらいに祈る彼女に、光を感じた。皆口を開かず黙ってリナリアを見ている。俺も黙って彼女を見ていた。


 俺は本当に何もする事ができないのだろうか。


 リナリアは頭を下げ、二人を追いかける。去り際、彼女と目が合う。微笑む口元が動く。


 また明日ね。


 そう言ったように、見えた。

 また明日。

 未来への言葉に、少し胸に光が灯る。


「私達も帰りましょ〜」

「そうだね。今日はみんなで見れて楽しかったね!」

「そうですね」

「まぁね」

「そうだなっ! 一人で見るよりみんなで見た方が楽しいなっ! ね、隊長!!」


 みんなが笑う。

 胸の光が更に大きくなる。


 ……そうだな。


 今年はキルはいない。これからはカイトもいない。それでも、みんながいてくれたから俺は一人じゃなかった。だから、俺は今日の星空を美しいと見れたんだ。


『俺たち以外にもいろんな人と関わって生きてほしいんだ』


『ヴァンがどうしても辛い時にね、誰かがそばにいて欲しい』


 二人が俺に言った願い。

 あの時は必要ないと思ったが、そう願ってくれた二人の思いが少し、分かった気がした。


 歩き出す隊員達の背を見る。


 でも、それは悪魔の血が流れる俺に許される事なのだろうか。


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