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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第二章
30/111

30.名を呼ぶ誰かがいる世界

 瘴魔との一戦を終えた後、俺達は付近を捜索した。出会した瘴魔との戦闘にリナリアは終始大人しくしており、なるべく目立たぬ様にしようとしている事が感じられた。俺は先程ハンター達が言った事が気になったので、斬った瘴魔をしばらく観察をしてみたが特に何か起こることはなかった。そしてやはり、瘴気も起きない。この事は帰ったらリナリアに聞くことにする。とりあえず与えられた任務は遂行出来たので日が落ちかけた頃、俺たちは首都アデルダへと帰還した。

 

 いつものこの時間よりも人影が多い街中は浮き立っていた。店先では明日の祭典を祝おうと、外壁に星をモチーフとした飾りで着飾らせていた。大通りに沿う様に建てられた街灯にも青地に金色の大きな星が描かれた旗が吊るされ、柔らかな風に揺られている。

 俺達は繋ぎ場へと馬を戻し、今日はここで解散する。報告書のついでに回収した異物を届けようと俺は、くたびれた鞄を肩に掛ける。


「お手伝いましょうか?」


 グレミオが気遣ってくれるが、そんなに重くはないので俺は首を振って断る。それよりリナリアに聞きたい事があるので、どう切り出そうかと頭を悩ませる。またカミュンに話しかけられ困った顔をしている彼女をじっと見ていると、カイリが声をかけてきた。カイリはどこか憂いた瞳で俺を見ている。


「どうした?」

「……ううん、ごめん。なんでもない」

「?」

「そうだ。リナリアの歓迎会しないとね」

「わ、私ですか!?」


 カイリはふわりとリナリアに微笑む。リナリアは肩を跳ねさせいやいや、っと言った感じで両手を体の前で振る。


「いいですよ! そんなに長くはいないので」

「長くいないって、どれくらい? そもそもリナリアは何でここに入ったの?」

「えぇっと」


 アルの質問にあわあわとしたリナリアに皆の視線が集まる。小さな体がますます縮こまっていく。皆と同じように俺も答えを待っていたが、突然リナリアはお疲れ様でした!っと声を上げ、この場から去ろうとしだした。俺は逃さないとリナリアの前に立つ。恐る恐る青い瞳が俺を見上げる。その目は強張っていた。


「どっどうしましたか?」

「話がある。一緒に来てくれ」

「え゛っ! ……また今度じゃダメですか?」

「ダメだ」

「え〜.!! なにぃ? リナリアちゃんだけなのぉ?」

「別に大した話じゃないから、気にするな」

「つまんなぁい」

「まぁまぁ。なら、我々は行きましょうか」


 グレミオが皆を帰そうと促してくれる。皆は顔を見合わせた後お疲れ様です、っと言いながらグレミオ以外思い切れないような足取りでこの場を離れ出す。最後まで残っていたカイリはどこか切なさを感じる瞳でまた明日ね、っと言って背を向け皆の後を追う。

 外灯に照らされる人混みへ皆の背が消えて行くのを見た後、俺はリナリアに行くぞっと視線を送る。リナリア目を細め渋々と言った感じで歩き出す。

 街の人とすれ違う中、隣を歩くリナリアが小さな声で尋ねてくる。


「聞きたい事って何かな?」

「とぼけるな。他にも言ってない事があるだろ?」

「い、言ってない事? あったかな」


 今日分かった事がある。それはリナリアは何か隠し事があると目が泳ぐ。顔を下げるリナリアをそっと覗き込む。


 ほら、やっぱり。


 明らかに動揺している。とぼけるリナリアへ心の中でバレバレなんだと突っ込む。


「それより、これからどこに行くの?」

「とりあえずこのこの異物と一緒に報告書を作って渡す」

「誰に渡すの?」

「……いつもは総隊長に直接渡す」

「それは、セラートさん?」


 はっきりとした口調でリナリアが尋ねてくる。俺は頷く。あれからセラートはどうしているのだろうか?隊員達は何も言っていなかったから、そのまま職務に就いているのだろうか。どっちにしろ今は会い辛い。


「会えるの? なら私もついて行きたい」

「なんで?」

「もう一度会って確かめたいの」

「確かめる? 何を」

「見つけたぞっ!!」


 突然背後から聞こえた怒号に肩が跳ねる。立ち止まり後ろを振り向くと肩を大きく跳ねさせ、険しい顔をした男がいた。その男の燃える様な赤い瞳にはっとした。


 こいつ……あの時、戦場にいた。


 確かセラートを追っている途中で出会したはず。リナリアが何でここに、っと言いながらすかさず俺の後ろへ隠れるのが分かった。そいつは声を上げながらズカズカとこちらへ迫ってくる。それは体を引かしたくなるほどの気迫であった。太く押し付けた様な声が間髪なく飛んでくる。


「勝手にいなくなりやがって! どんだけ探したと思ってんだっ!! こんな所で何してんだ!? その格好は何だっ!!」

「ダイヤ。や、やめてよ。こんな街中で」

「うるせぇ! いいからこっち来いっ!」

「い、今は嫌っ!」


 俺の目の前で仁王立つダイヤと呼ばれた青年。俺はそいつを目を細めて伺う。赤と白を基調とした厳格のある制服の上からでも分かる鍛えられた体。ただでさえ目つきが悪いのに、その体格がより一層人を怖気つかす。太く逞しい手が俺の右へ伸びる。リナリアが俺の服を掴み反対方向へ引っ張り逃げた。男は次に俺の左側に手を伸ばす。また、服が反対方向に引っ張られる。俺を盾にリナリアが左、右っと動いてるのが分かったのは目の前にいる男がそんな動きをしているから。持っている鉄の異物がガチャガチャと鳴る。俺はなるべく男から体を引かす。


 なんなんだ。


 飲み込めない状況に戸惑っていると、赤い瞳が俺を睨みつけてきた。


「てめぇ邪魔だなっ! そこ退けっ!!」

「なっ」


 いきなり怒鳴られる。俺が悪いのか?勝手に不快に思われる。何て災難。リナリアのそばには何で、こんな感情剥き出しの奴ばっかりなのか。俺は思った。こいつとは何があっても馴れ合う事はないと。

 リナリアが一瞬の隙をついて駆け出した。それを待ちやがれっ!と男が追いかけていく。周りの人々同様に俺もどんどんと遠くなって行く二人を見つめる。


「何なんだ」

「ごめんなさい」


 誰かが通り過ぎざまに謝ってきた。駆けていく黒髪の女。短く切られた前髪から一瞬見えた赤い瞳。この女もあの時今の男と一緒にいた。……分かったのはそれだけ。今の出来事にどっと疲れが押し寄せる。はぁと大きくため息。まったく人騒がせな。しかもうまいことリナリアにも逃げられた。俺は二人が消えた方へ歩き出す。後を追う事は億劫だ。追ったところであのダイヤとかいう男がいたら話もできるか分からない。とりあえずこのガラクタを届けよう。どうせ明日も来るんだろう。


 ……ん?


 いや、来るのか?具体的にいつまでいるなんて聞いてない。もう明日はいないかもしれない。困ったな。やはり追いかけた方がいいのかと思案しながら街中を歩く。

 ふと子供の楽しそうな笑い声が耳に入り、煉瓦の道を見ていた視線を上げる。

 目を細める。

 やけに眩しく見える街中。

 大切な人と過ごすのが恒例になる明日の聖夜祭。約束がある人々は笑顔で明日を待ち侘びている。平和で幸せに満ちた世界。何も変わらない世界。カイトがいなくなったこの世界。鞄からガチャガチャと鳴る鉄の音がやけに大きく聞こえる。耳障りで責め立てられる様に聞こえた。煌びやかなこの世界に俺はいないみたい。

 

「あの! 待ってください!!」


 その呼び止めは、俺にかけられている気がした。足を止め一歩下がり路地の方を見る。一人小さな人影が花束を抱えてこちらに駆け寄ってくる。そいつは俺の前で立ち止まり、ぱっと抱えている花束から顔を出す。


「やっと、貴方に会えました」


 黄昏を思わせる瞳がふわりと笑う。

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