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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第二章
27/111

27.新入隊員

 家に帰る。相変わらずに暗く感じる部屋。また布団の上に座り込み、窓の外を眺める。俺は今日のリナリアとの話を思案する。

 正直現実離れした話に頭がついてきてない。リナリアは多分嘘は言ってないとは思う。嘘があるなら目玉の瘴魔だ。でも見極めるのには判断材料が少なすぎる。神とか悪魔とか他の世界なんて不確かなもの、やはり信じるのが難しい。

 はぁとため息をして、立てた膝の間に顔を埋める。

 リナリアはこれから自分の魂の穢れを祓う方法を見つけ、そして心臓を見つけ殺す。彼女は人の姿をした心臓を見つけた時、はたして刃をそいつに突き立てる事ができるのだろうか?俺の事も殺せないのに。


 しかし、アドニールの正体が女だったなんて。


 瘴気の中での事を思い出す。彼女は多分危険を承知で俺達を探しに来てくれた。もう多分会う事はないだろう彼女には一言何か言った方が良かったかもしれない。

 

 ……キルにも謝れていない。


 まだキルの本音も聞けてない。キルは気を遣って俺の前では悲しむそぶりを見せない。……でも父親が、前王が亡くなった時は泣いていたのに。

 そばに落ちている布を頭から被る。結果はどうあれ俺自身は任務の目的を果たすことが出来た。

 胸に悲しみが押し寄せる。

 カイトとの思い出が溢れそうになる。でも、俺の中のカイトは血に塗れ俺を恨んだ目で見てくる。懸命に押し込める。


 考えるのを止めずっと朝が来るのを待っていた。それはとても長く感じた。途中何度か睡魔に負けそうになり微睡むと、カイトが来る。


 カイト、必ずお前の仇は俺が取るから。


 悪魔がいるなら、キルの事も守らないと。だからまだ死ねない。そう自分に言い聞かせても、カイトの無念が晴れるわけじゃない。だから、俺は眠らない。

 

 日が昇りだし、朝が来る。

 世界は何も変わらない。

 カイトがいなくなってもこの世界は何も変わらない。 

 俺は起き上がり支度を始める。剣を腰に差しながら思い出す。


 そう言えばキルが待ってろって言ってたけど、何かあるのか?


 頭を傾げながら家を出る。

 

 石作りの正門の前に着つく。普段と変わらない人々が今日を始めようとしている。ざわめきが自然と耳に入る。人の邪魔にならない隅の方でぼうっとグリップの先をカリカリと親指で弄っていると、名前を呼ばれ顔を上げる。カイリが眉を下げながら駆け足で近寄ってくる。そばに来たカイリは不安そうな目で俺を見る。


「本当にもう大丈夫なの?」

「あぁ」

「無理、しなくていいんだよ。……顔色良くないよ」

「大丈夫だ」


 憐れみを孕む様な瞳から視線を逸らす。隊長ーっ!、っと叫び声が聞こえた。大通りの方を見ると人の中アルが走ってくるのが見えた。そばに着いたアルは息を切らしながら詰め寄ってくる。


「大丈夫なんですか!? 顔色良くないですよっ!! 無理しないでください!」


 カイリと同じ様な事をアルは言うので思わず苦笑してしまった。


「なんだぁ? お前昨日散々早く隊長戻ってこないかな、ってぼやいてたくせに」

「カミュン」


 右の方を向くと、欠伸をしているカミュンがいたことに驚いた。珍しい。時間より早く来たカミュンを初めて見た。アルがうるさいっと言ってカミュンの脛を蹴って、また二人は喧嘩を始めだす。


「でもぉ私も〜隊長が戻って来てもらえてぇ嬉しい〜ですけどねぇ♪」


 背後からマリーの声がしたと思ったら、俺の腕に手を回しぴったりと体に引き寄せてくる。振り払おうとする前にカイリが間に割って入り引き離してくれた。アルとカミュンの口論が熱を上げ、怒号が耳に入ってくる。


「このクソガキ! じゃあ隊長にチクってやる! こいつ昨日やる気出ないとか言って、サボってたんっすよ!!」

「あっ! このっ!」


 アルは俺を恐る恐るチラッと見た後、気まずそうに人差し指同士をツンツンとしだす。


「すみません。でも僕、やっぱり隊長がいないと」

「アルさんだけじゃないですよ」


 最後にグレミオが来た。それも珍しい。


「心配ですけどね、やはりこの隊の隊長は貴方ですから」


 そう思ってくれる事を素直に嬉しいと思えない自分。みんなは俺の本当の姿を知らない。知らないから……こうしていられるんだ。ふとリナリアが頭を過ぎる。あいつが俺を受け入れたのも、自分の立場が似ているからだ。


「みんな揃いましたし行きましょうか」

「待って」

「? どうしましたか?」


 グレミオが首を傾げながら尋ねてくるので、俺はキルに待つよう言われた事を伝える。皆曇った顔を互いに見合わせる。


「何かな」

「さぁ〜」

「検討つきませんねぇ」

「まさか、キル様が来るわけじゃないよね?」

「そうだと思うが」


 皆ソワソワと落ち着かない様子で話していると、一人いつの間にかそばに立っていた。そいつは茶色のローブを羽織り目深までフードを被っていたがすぐに誰か分かる。キルはフードの裾を持ち僅かに上げ、ニカッと笑う。


「おはようさん」

「キル!?」


 隊員達が慌てて膝をつこうとするの、キルが手を前に出して制止させる。キルは首を小さく振った後、人差し指を口元に当てる。


「キル、どうしたんだ!?」

「待ってろって言ったろ?」

「いや、そうだけど! なんで来るんだ!?」

「な、なんだよ。俺が来ちゃいけないのかよ」

「一人で危ないじゃないかっ!」

「ん? 一人じゃないけど」


 キルは後を向き、辺りを見渡しだす。


「おっかしーな。さっきまでいたのに」

「誰が?」

「あぁ。今日から零隊に新しく隊員を一人入隊させる」

「はっ?」


 思わず気の抜けた声が出てしまった。なんで、どうしてと言いたいが、俺に権限はないから言われたら受け入れるしかない。でも。


「そんな事、聞いてない」

「今言ったからな」

「なんで、今」


 キルは口角を上げる。フードから僅かに見える凛々しい紫の瞳は、何度か見たことがある何か企む時の目。キルはフードの裾を引っ張り、目元を再び隠す。


「正式に入隊させるわけじゃない。ちょっとの間だから面倒見てやってくれ……まぁそんな必要ない奴を連れて来たからな」

「……はぁ。それで、何処にいるんだ」

「分からん。いなくなった」

「はっ?」


 なんだそいつはと、キルと同じ様に大通りの方に視線を向ける。建物と建物の隙間から、小さな人影が飛び出すのが見えた。人影に紛れここからではよくは見えないが隊服を着ていた。そいつは引っ張られているのか腕を後ろに引かれている様子。それを振り払った。弾みで大きく一歩、前に転げ落ちる様に出て、そのままこちらへ駆け寄ってくる。どんどん鮮明に見えたそいつに唖然とした。

 そいつは乱れた袖を整えながらキルの横に立ち、小恥ずかしそうに笑う。俺は顔が引き攣った。


「こいつが新しい隊員だ。よろしくな」

「えぇっと、よろしくお願い」


 挨拶を言い終える前に俺はそいつとキルの腕を掴み、無理やり引っ張り建物の間の影に連れ込む。二人に向き合い俺は思いをぶつける。


「どういう事だっ!」


 俺の怒号に二人は目を丸くする。


「そんなに怒んなよ。腕痛い」

「怒ってないっ! でも、おかしいだろ!?」

「何が?」


 キルは掴まれた腕を振りながらあっけらかんとした返事を返してくるだけ。ならっと問題児を見る。


「どういう事だ!? リナリアっ!」

「あぁっと、ええっと」


 困った顔をしたリナリアに問い詰める。リナリアはオタオタと視線を彷徨わせるだけだ。


「心臓を見つけるんじゃなかったのか!?」

「……もちろん、そうだけど」

「こんな馬鹿なことしてる暇あるのか!?」

「ばっ馬鹿」


 リナリアは頬をかきながら苦笑いをして、ゆっくり俺から視線を逸らす。


「とにかく、早く自分の国に帰れ」

「私は……今は帰らない」

「あのなっ!」

「おい」


 殺気が混じる身震いする声。これはミツカゲだ。忘れてた。リナリアから視線を上げる。路地の奥にミツカゲがやはりいた。


「さっきから聞いていればなんだ貴様。リナリア様にその口の聞き方に態度。あと触れるな」

「ミツカゲ!」


 リナリアが慌ててミツカゲのそばへ駆け出し、体を押す。


「約束したでしょ? 見てるだけって」

「ですが!」

「守ってよー」


 守るという言葉にミツカゲをぐぅっとした表情で口を噤む。黙らせることに成功したリナリアが俺のそばに来て青い瞳で見上げる。


「とにかく少しの間だからよろしくね」

「なっ、冗談だろ!」

「冗談じゃないよ。今日から貴方は私の隊長さん」

「なっ」


 俺は頭を抑える。同時にミツカゲも同じ仕草をした。ミツカゲもそれに気がついたのか目が合う。すぐさま冷酷な瞳で俺を睨んでくるので視線を逸らす。キルはフードを深く被り直し、陽気に手を振ってくる。


「じゃっ、俺は行くかな」

「おいっ!」

「いいか、主人に何かしてみろ。お前を斬るからな。俺は、ずっと見張っている」

「なっ」

「迷惑にはならない様にするから」

「……」


 もう迷惑だと言いたい。

 はぁ最悪だ。


 キルは行ってしまうし、ミツカゲはずっと殺意ある目で見てくるし、リナリアは早く行こうと俺の服の裾を引っ張ってくる。この状況を打破する解決策がない俺は諦め、重たい足取りで隊員達の元へ向かう。俺の心情とは裏腹に、ふわふわした髪を弾ませながらご機嫌な様子で隣を歩くリナリア。こいつは自分の状況が分かってるのだろうか?それともあまりの過酷な運命に気でも触れてしまったのかとさえ思ってしまう。オタオタと戸惑いの色を見せる隊員達の前に立つ。リナリアはすぐに口を開く。


「今日から配属になりましたリナリア・レテノールです。短い間になると思いますが、よろしくお願いします」

 

 すらすらと軽く挨拶をするリナリアを怪訝な目で見る。


 本当に何を企んでいるんだ?


 バラしてやろうかと悪巧みを思いつくが、その前に多分俺はミツカゲに襲われる気がする。一体何処で見てるんだと辺りを見渡すが、気配が分からない。流石に過保護だけな奴ではないか。

 皆しばらく唖然とした様にリナリアを見つめていた。カミュンが顔を急激に赤に染め上げ可愛い、と声を漏らす。確かに綺麗な顔立ちなんだろうけど、可愛いとかよく分からない。リナリアが一歩下がり、体を少し俺に隠れる様にする。


「あっあぁ、すみません。よろしくお願いします。私は副長のグレミオ・バルキンです」

「私はカイリ・クレイバーだよ。カイリって呼んでね!」

「マリーだよぉ。よろしくねえ」

「僕はアルフレッド・ゴーデスト。なんて呼んでくれてもいいけど、みんなはアルって呼んでる」

「おっ俺はカミュンだ!」


 カイリとマリーは俺に隠れる様にしているリナリアのそばに近寄り、あれこれ質問し出す。俺から離れリナリアは嬉しそうに笑いだす。


「ねぇねぇ! リナリアって今いくつ?」

「どうしてぇそんなにお肌綺麗なのぉ? なんかやってるぅ?」

「リナリアさんはどうしてここに配属になられたのですか?」

「身長低いよね? いくつ?」

「リナリアちゃん、好きな食べ物何!?」


 目を丸くさせながら気押される様にリナリアは体を引かせている。こんなんじゃいつまでも先へ進まない。俺は皆を促す。隊員達はパラパラと歩き出す。

 

 正門の外、馬にかけた荷を確認しているとカイリが声をかけてくる。


「ヴァン、リナリアと知り合いなの?」


 カイリの質問に眉が寄る。どうしたもんかな……なんて言えばいいんだろう。考えた末とりあえず顔見知りとだけ言っておく。もう馬に跨っているリナリアを見る。そばでカミュンがしつこく話しかけており、明らかに困った顔をしている。一応釘を刺しておこうかな。知らないうちにミツカゲに殺されていたら大変だ。


「カミュン」

「あっ、なんっすか? 隊長」

「ちょっと」


 カミュンをリナリアから引き離し、他の隊員にも一応知ってもらおうと聞こえる様に声を高めにする。


「リナリアにはあまり近づかないほうが身の為だ」

「えっ!? 身の為!?」

「その……嫌がる事をしないほういい」

「え゛!? 嫌っすか!?」

「……普通に。出来るだけ距離をとって接してくれ」

「どうしてっすか!?」

「いいから!」


 隠し事をしながらは上手く伝えられなかった。案の定カミュンはぽかんとした表情で俺を見る。視界の隅にいたアルも目を丸くして俺を見ていた。次にグレミオもマリーも。最後カイリを見るとあからさまに顔を背けられた。リナリアのおかげで最悪な復帰ができた。俺はリナリアのそばに近寄り耳打ちする声で話しかける。


「本当に何がしたいんだ」

「……」


 リナリアは俺の胸くらいの小さな背。だから俺を見下ろしている彼女はどこか違って見えた。何かは分からないけど。リナリアは空を仰ぎながら少しの間だから、っと風にかき消されそうな小さな声で言う。それ以上は何も言わないで、また俺を見下ろしてふわりと微笑む。それにやはりあの泥だらけのローブのあいつを想起させるんだ。

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