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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第一章
18/111

18.黒と目玉

 ここが瘴気の中。

 

 薄紫の霧が立ち込める。見えない空から雷鳴が聞こえる。それ以外何もない世界。少し強い風が唸りを上げ、舞い上げられる砂が顔に当たる。幸い外で見るより中の霧は薄く、多少は見通せる。

 

「カイト! どこにいる!?」


 返事はない。風の吹く音しか聞こえない。


「カイトーー!!」


 あの手は、カイトをどうしたのだろうか?落とされたりしてないか。更に危害を加えられていないだろうか。


「カイト……無事でいてくれ」


 どうしてこうなってしまった。

 どこで選択を間違えたのだろう。

 どうしていたらこうならなかったのだろう。


 さらに奥深くへ進む。


 だんだんと霧が濃くなってきた気がする。悪くなる視界、自分が今どこにいるかも分からない。


 俺はカイトに近づけているのか?


 不安が胸を覆い出す。


 それでも、行かないと。


 駆け足だった馬の足並みが急に止まる。ガクッと前に体が倒れる。

 

「? どうしたんだ」


 手綱や足で合図を送っても、なんの反応も示さない。顔を覗こうとした時、突然馬のバランスが崩れそのまま横に倒れた。受け身をとり立ち上がる。倒れた馬を見た。口からは大量の泡を吹き、目は真っ赤に腫れ今にも破裂しそうだ。ビクビクと痙攣する体の皮膚が剥け、徐々に赤黒く変色していく。悪夢の様な光景を、瞬きしないで見つめていた。次第にぼこぼこと体が大きく変形し、姿を変える。

 そう、これは先ほどまで対峙していた瘴魔そのものだった。

 

"瘴気に入ると瘴魔になる"


 そんな言葉が頭の中でこだまする。


「ビッギャアァア゛ア」


 瘴魔と化した異形が俺に襲いかかってくる。

 

 悪い……俺のせいだ。

 

 せめて苦しまぬようと、瘴魔が振り上げた拳を避け、その隙に首めがけて一刀を入れる。頭をなくした体はその場で崩れ落ち、動かなくなる。その骸を見つめカイトがもしも、もう、なんて考えはやめる。

 自分の足でさらに奥へ進む。

 ふと前方の霧の中、何かの影が見えた。

 

 カイト!?


 影の大きさから違うのは分かる。それでも希望が持てるなら何でもすがりたかった。

 近くに来て分かったその影の正体に唖然とした。それは小屋であった。ボロボロに朽ちた小屋。何ともこの場には不釣り合いで、不気味に思う。木でできた壁はところどころ剥がれ落ち、中を確認しようと穴を覗くがよくは見えない。もしかしたらここに避難していかもしれない。朽ちた扉を勢いよく引く。

 薄暗い部屋の中でも、小さな空間なので見れば分かった。中には……何も無かった。希望は霞の様に消える。扉を閉めようとした時、気配を感じた。この部屋の隅に唯一寝床があった。それに目を向ける。かけられている廃れた布が僅かに動いた。鼓動が早まる。静かに鞘から剣を抜き、切っ先をそこへ向ける。もぞもぞとしていた動きが止まり、何かがそこから現れる。

 それは真っ黒であった。ひたすらに黒い。その黒い体についた食われそうなほど大きな一つの目玉が、キョロキョロとした後で俺を見た。思わず呼吸が止まる。


「瘴魔か」

「瘴魔?」


 驚いた……こいつ喋れるのか?


 今まで斬ってきた瘴魔は理性や自我を失い、ただの殺戮と化した怪物だった。なのにこいつは喋ったのだ。一つ目の下がぱっくりと割れる。


「君、誰?」

「お前こそ、何なんだ」


 声が震えてしまう。目玉の瘴魔が寝床から降りる。全身を確認できた。樽のような体に細い手足は取ってつけた様にそこにある。それでもしっかりした足取りで俺の方へ近寄ってくる。いつでも斬れる様に構える。


「変だなぁ。ここへは自分が呼んだ人しか来られないのに」


 俺を見上げながらない顎をさする様な仕草をしている。この瘴魔は正気なのか?そうだ、こいつはカイトを知っているだろうか。


「ここに緑の目をした茶色の髪の男が来なかったか?」

「ん? さっきも言ったけどここへは呼んだ人しか来られない。多分、自分はその人を呼んでいない」

「……」


 つまりは見ていないってことか。扉の方へ向かう。ぐっと後ろに体が引かれた。


「ねぇ、待ってよ」

「触るなっ!」


 背を掴んだ黒い腕を振り払う。瞼の無い目が大きく張った。見上げた目玉が俺を映す。思わず一歩後ずさる。


「君……」

「なっなんだ」

「マリャなの?」

「マリャ?」


 何を聞かれているのか、全く分からない。マリャなんて知らない。聞いたこともない。


「……そうか。彼女を呼ぶと君も来てしまうんだね。……これは考えていなかった」


 言ってる意味が分からない。正気かとも思ったがそうでは無いのか。いや、それより今はこんな事で時間を使ってる場合じゃない。早くカイトを見つけないと。


「どこ行くの?」

「お前には関係ない」


 扉から出ようとすると、目玉の瘴魔が今度はぎゅっと腕を掴んできた。振り払う。


「だから、触るなっ!!」

「何だか弱く感じる……こんなものなのかな」

「なっ!?」

「君、何者? マリャじゃないの?」


 もう限界だ。付き合いきれない。こんな問答意味がない。俺は扉から飛び出る。背から張り上げた声がした。


「自分のことはできたら内緒にして欲しいんだけどっ!」

「知るかっ!」


 無駄な時間を使ってしまった。


 カイト、どこにいるんだ。

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