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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第一章
16/111

16.意味の模索

 戦地に入る。血の生臭さと腐敗臭に咽せ返る。瘴魔の悍ましい咆哮、騎士達の叫び、爆発音に体を震え上がらせる。ここまで酷い戦場に踏み入るのは初めてだ。緊張感が増す。瘴気の大きさから予想はしていたが、瘴魔の数が多すぎる。地を黒く染める瘴魔達は瘴気から、途切れる事なく出現している様だ。


 まるで戦争だ。


 瘴気に触れぬよう兵士達は距離を取って戦闘をしているが、そうでなくとも押されている。上を見上げる。瘴気から伸びる真っ黒な手は、人一人を軽く捻り潰す程の大きさだ。それは、地に手を伸ばし何かを探している様に見えた。

 先で大きな爆発音がする。

 空から光が降ってきた。

 また見上げる。

 虚空に巨大な魔法陣が展開されていた。そこから雨の様に光の刃が地に降り注ぐ。同時に落雷が起こり、そこに居る瘴魔達の体が宙に跳ね上がった。これは、アドニールとミツカゲなのだろう。初めて目にした力。同じ人とは思えない。桁違いの力だ。あいつらがいなければ、この場は戦いにすらなっていなかっただろう。


「アドニールはあっちだっ!!」


 セラートは瘴魔の群れに攻撃を加えながら自ら道を作り、進んでいく。


「総隊長っ! これ以上は」


 まだ、騎士たちが奮闘している戦地だが、これ以上先は瘴魔達がひしめき合っている。


「総隊長っ!」

「いや、このまま行く!」


 セラートは更にスピードを上げる。全く、もう少し冷静な人だと思っていたが。一体何が彼をここまで突き動かすのだろう。

 瘴気から伸びる手は、アドニールがいる方を集中的に狙っていだす。これから最も危険な場所へ行かなければならない。前を見るセラートと距離が空いていた。離されぬようスピードを上げようとした時、感じた。横から何か来る。

 急いで手綱を引く。

 燃え盛る炎が通過した。

 熱風が体に当たる。

 もう一発来る。

 避けきれないので迎え撃つ。

 風を起こしそれにぶつかる。

 相殺され大きな爆発が起こる。

 突風に構える。


「何やってんだっ!!」


 怒号が聞こえた。


「俺の攻撃範囲に入るなっていつも言ってんだろ……って、一般人がなんでここにいるっ!?」


 赤い髪の男が馬に乗り、俺たちのそばまで来た。見たところファリュウスの騎士のようだ。そばに来た男の張った瞳と目が合う。炎を彷彿とさせるほどに赤く、力強い瞳であった。


「お兄ぃっ!! 大丈夫!?」


 後からもう一人、凛としたこちらも赤い瞳をした黒髪の女がそばへ駆け寄ってくる。赤髪の男は黒髪の女に軽く返事を返し、俺たちに向き直る。


「お前ら……もしかしてさっきあいつが見に行ったやつらか」


 怪訝な瞳で俺たちを見回す。この話の意味はよく分からないので面倒だ。とにかく今はセラートを追わないと。


「行くぞ」

「あっ! おいっ!! てっめぇら死んでも俺は知らねぇからなっ!」

「えっ!? お兄ぃほっとくの!?」

「死にたい奴らの面倒なんて今見てられっか!!」


 背後から聞こえた赤髪の男の言葉が胸を突く。


 死にたい。


 生に執着しているつもりはない。でも、俺はそう思っているのだろうか。何故だか胸が締め付けられた。


 最前線に入る。

 この場はもう乱戦状態だ。


「隊長! 上をっ!」


 グレミオが叫んだ。上を向く。

 宙をうねる様に黒い手が数本彷徨っていた。それが急にこちら目がけて落ちてくる。躱す。ドンっと近くで地にぶつかる衝突音がした。アドニールの方を狙っていた黒い手がこちらまで来てしまった。それが行手を阻む。完璧にセラートを見失ってしまった。


「この手邪魔だなっ!」

「おいチビ助っ! あんま手ばっか見てると馬から落ちるぞ」

「あっ! お前!! 今どさくさに紛れてチビって」

「今そんな言い合いしないでっ!!」

「でもぉ、やけに多くなぁい?」


 狙う手の数が増え出す。


 ……狙われてる?


 根拠はないが、そう感じた。自分が狙われていると。

 俺がいると隊員達に余計な危険が及んでしまう。後ろを振り向く。ピッタリと着いてくるグレミオと目が合う。


「お前達はセラートを追えっ!!」

「えっ! 隊長!?」

「ヴァンっ!!」


 急遽進行方向を変える。瘴魔の僅かな隙間に入り込みそのまま突き進む。

 後ろを見る。

 やはり追って来てる。

 止まれば捕まる。

 進路を塞がれているので、そこに疾風を放つ。

 瘴魔が飛んで道が開く。

 そこを全速力で駆け抜ける。

 左手前に視線を向けた時、巨大な瘴魔が見えた。

 その足元に腰を抜かした騎士が見えた。

 通り過ぎる。

 多分殺される。あの騎士は後数秒後死んでしまう。


"悲しむ人がいるんだよ"


 先程カイリに言われた言葉が脳裏に蘇る。


「――くっ!」


 手綱を引く。

 向きを変える。

 迫っていた手と対峙する。ギリギリ躱しくぐり抜け、先ほど騎士がいた右手の脇に入る。

 まだ生きていた。だが、振り上げた大きな爪は騎士を捉えている。騎士は上を見上げるだけで、動く様子はない。

 加護の力は騎士と瘴魔の距離が近すぎるので使えない。

 剣を抜く。

 風の力を纏わせ、異形に向け投げる。

 宙を割き、真っ直ぐに飛んだ。

 振り上げていた、右手に当たる。

 体がふらつき、隙ができた。

 馬から飛び降り、高く飛ぶ。

 刺さった剣のグリップを握り、体重を乗せそのまま腕を切り落とす。

 怯んだ体にすかさず斬り込む。

 瘴魔は断末魔を上げ地に伏した。

 急いで振り向き、まだ腰を抜かしている騎士の腕を掴み、立ち上がらせる。小柄な騎士であった。


「大丈夫か」


 返事がない。オレンジ色の瞳が瞬きせず俺を見る。はっと目が開らいた。


「あっありがとうございます」

「すぐここを離れろ。少し後退すれば仲間がいたぞ」

「はっはい」


 騎士の背後に瘴魔が見えた。刃のように研がれた骨を露出させ、それを振り上げた。騎士を突き飛ばし、それを受ける。甲高い金属音が鳴る。


「その馬に乗ってけっ!」

「でも、貴方は!?」

「いいから早く行けっ!」


 騎士は馬へと駆け出す。そして手綱を打ち逃げていくのが見えた。攻撃を受けている間に、異形達はこちらへ突撃してくる。

 全力を出す。

 自身に風を纏わせる。己を中心に吹き荒ぶ風の威力で周りにいた瘴魔達が吹き飛ぶ。

 起き上がってくる奴を斬っていく。斬っていく。


 俺は何をしているのだろう。一人で、何の意味があって戦うのだろうか。


 瘴魔の攻撃避け、醜い体に刃を立てる。赤紫の血飛沫を浴びる。


 いや、俺にはお似合いなのかもしれない。


 群がり出す瘴魔を斬り続ける。


 でも、どうせ死ぬなら。


 斬った。とにかく斬り続けた。


 せめて、二人の為であったらよかったのに。


 気がつけば自分の周りに黒の骸の海ができていた。それでも、敵が減る事はない。ぐるりと囲う異形の目が俺を見据え、雄叫びを上げながら駆けてくる。休む暇もない。


 流石に……キツい。どこまでやれるか。


 赤紫に染まった手を服でぬぐい、剣をぎゅっと持ち直す。駆け出そうとしたその時。


 ――危ない――


 自身に警告された。

 でも気がつくのが、遅かった。

 見上げた時には黒しか見えなかった。


 間に合わない。


 死を感じた時に思った事は、友二人への感謝と謝罪だけであった。それだけ。

 急にドンっと体が横に飛んだ。すぐそばで地にぶつかる衝突音がして、砂埃を浴びる。俺はそのまま地に転がった。


 何が起こった?


 ぐらぐら揺れる思考で考える。


「ヴァン! 大丈夫!?」


 ここにいるはずない、聞き慣れた声に一気に意識が覚醒した。慌てて体を起こす。砂煙の向こうに栗色が見えた。


「間に合って、良かった」


 そこには手をこちらに伸ばしたカイトがいた。眉を下げながら微笑んでいるカイトの体はよく見ると傷だらけであった。


 カイト……カイトっ!?


 どうしてここへ?なんで?その怪我はどうしたんだ?


 危ないから。


 手の届かない友に叫ぼうとした。

 なのに急に消えた。

 胸を抉る様な衝撃音が耳を突く。

 また砂煙が上がり、突風が吹く。

 反射で目を瞑る。

 目を開く。

 音が聞こえなくなった。

 ただ、自身の大きく跳ねる鼓動の音だけ聞こえる。

 カイトがいた場所を凝視する。

 そこには地に黒い手があるだけだ。

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