表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第一章
15/111

15.選択

 まるで悪夢の中にでもいるようだ。非現実的な光景に恐怖した。どうしていつもと同じだと思っていたのだろう。完全に油断した。今更ながらここへ来たことを後悔し始める。セラートが喫驚した声を上げる。


「これが……瘴気? これほど巨大なのか」

「いえ、こんな巨大なものは聞いたことがありません。おそらく今までで最大かと」


 そう、これは異常な大きさだ。遠くから地の底から聞こえる様な不気味な声がした。


 瘴魔だ。


 この巨大な瘴気に一体どれほどの瘴魔が現れるのだろう。


「ほっ本当にこの中にいて、大丈夫なのかな?」

「だっ大丈夫……アドニール様のこれが、あるから」

「ヴァン見てっ!!」


 傍にいるカイトが切迫した叫びを上げる。俺は瘴気の方を凝視する。


 なんだ、あれは?


 積乱雲の様な紫の瘴気から何が伸びるのが見えた。ここからだと確認しづらいがあれは……手のように見えた。それが何本も生え、辺りを物色するように地を荒らしている。距離があるとはいえ危機を感じた。


「ヤバい……ヤバい」

「ここにいてはいけない! なんとかここから脱出しないと」


 セラートがドンドンと壁を叩き始める。


「えっ! この中にいた方がいいんじゃないですか!?」

「どっち、どっちだっ!?」

「もぉ、あんたでかいんだからぁ暴れないでよぉ」

「困りましたね」


 皆あたふたと慌て始めだす。俺は微動だせず、ずっと同じ場所に立っていた。

 これに触れるのが恐ろしかった。自分とは対照的な存在。眩い光に触れたら自分はどうなるのだろうかと。一歩足を前に出す。掌を見た後、二歩、三歩と近づいてそれに触れる。

 奇妙な音がした。

 共鳴したように、心の底が震える。

 膜にピシッと亀裂が入った。

 次の瞬間、ガラスが砕ける音が空から降ってくる。パラパラと光のかけらが落ちてきた。


「こっ壊れた!」


 カミュンの叫びに何が起こったのか理解した。俺が壊してしまったのだろうか。それを言おうか迷っていると、宙で止まっていた手を誰かが握る。そちらを見る。カイトが眉を下げながら小さく首を振った。


「急に、どうして」

「今はそれはいい。とにかくこれで自由が効く。行こうか」

「行く?」

「マジで行くんっすか……」

「さっきも言ったけど、引き返してくれて構わない」


 まだ諦めていたなかったのか。流石にこの戦いには意味を見出せない。そんな戦いに皆を連れて行きたくはない。セラートに問う。

 

「考え直してはくれないのですか?」


 セラートは力強い眼光で俺を見据える。ダメだこれは。テコでも動きそうもない。どうしてセラートはこれほどまでアドニールに固執するのだろう。ここは自分の国ではない。行ったところで無駄に命を危険に晒すだけだ。


 でも、それならそれで……。


「分かりました、ご一緒します。ですが隊員達はここへ残します」

「え゛っ!!」


 慌てた様子で皆が俺の傍へ来て、詰め寄ってくる。


「なんですっか!?」

「流石に危険すぎる」

「なら、尚更私達も行きます」

「そうですよ! 僕も一緒に行きますっ!! 置いていかないで下さいっ!」

「そうですよぉ〜そんな気遣いいりませんよぉ」

「ヴァンが来るなって言っても、私達行くから」


 困ったなと小さくため息をする。諦めてくれる様子がない隊員達。それならば。


「死ぬかもしれないんだぞ」


 皆が息を呑むのが分かった。この脅しは効果的だったようだ。まぁ、脅しではなく事実だが。でも、カイリが引いてはくれない。


「それでも、私」

「ここで死にたくないだろ」

「じゃあヴァンは? ヴァンはいいの?」

「俺は別に……困らないから」

「困ら、ない?」


 カイリの声が震え出す。何となく想像できたカイリの表情。だから、俺はカイリの方は見ない。


「どうして、どうしてヴァンは自分の事そんな風に言うの……ヴァンに何かあったら悲しむ人がいるんだよ」

「俺に?」


 カイトを見て目が合う。カイトは自身の胸を掴み泣きそうなくらいに瞳を歪め、俺を見ていた。それを見ていられなくて目を逸らす。肩に手を置かれた。顔を上げると微笑むグレミオがいた。


「一緒に行きますよ」

「グレミオ」

「そうっすよ! そんなら尚更っす!!」

「まぁ〜これも腐れ縁ですよぉ」

「僕はどこまでも隊長について行きますから!!」

「ヴァン、私達は仲間なんだから。一人にはしないよ」


 困ったな、っとまたため息をつく。作戦は見事に失敗した様だ。俺は皆に苦笑する。セラートが口を開いた。


「カイトはここに残ってなさい」

「えっ! セラート様!?」


 カイトは不服そうだが、俺はほっとした。カイトは瘴魔との実戦はない。この状況での戦闘は正直力不足だ。カイトを守り切れる自信も自分にはない。だから俺は一番カイトを連れて行きたくはなかった。


「いえ、僕も」

「カイト」


 俺は首を振る。カイトは顔を下げ唇を噛む。


「カイト。なるべく遠くへ……昼間休みをとったファリュウスとの国境で落ち合おう」

「……分かりました。セラート様お気をつけて」

 

 セラートは微笑み頷く。そして手綱を打ち駆け出す。俺も続こうとするとカイトが駆け寄ってくる。


「ヴァン……お願いだから無茶しないで、危ないと思ったら絶対に逃げて」

「そんなに心配しなくても大丈夫だ。……戦いには慣れてる」


 それはカイトを安心させる為に言った虚勢だ。流石にいつも通りとは言えない。俺は今日もしかしたら死ぬのかもしれないとすら思ってしまう。


 でも、それならそれでいいんだ。


 二人の友を悲しませてしまうという思いよりも、自分の価値を見出せないこの世界に未練はさほどなかった。ただ、二人に恩を返せないことくらい。


「ヴァン、気をつけて……待ってるから。約束だよ」

「あぁ、カイトも気をつけろよ」

「……うん」

 

 カイトは終始憂いた瞳で俺を見ていた。その瞳に別れを告げ、俺たちは深い闇の方へと進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ