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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第四章
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99.世界の創生②

 なにを今更……。

 

 これではリナリアを、信じていないみたいじゃないか。

 考えるな。

 これ以上は、俺のことを信じてくれた彼女への裏切りだ。


 ガタッと物音がした。

 ミツカゲが木箱を持ち上げている。どうやらもう片付けるらしい。たくっ、こいつは人の心をかき乱しておいて知らぬ顔だ。

 

「しかし、ここまで傍観されるとは思っていなかった」


 吐息と共に漏れ出た言葉。

 抑揚のない声は、俺に向けられたものではなかった。

 独り言?

 しかし、聞き流せない言葉だ。

 落胆は誰に向けてなのか。

 ミツカゲが当てにできそうな人物……。


「エリンのことか」


 やはり独り言だったのか俺が尋ねるとミツカゲは、一瞬動きを止めた。

 そして、まるで肩に重しでも乗っているよな気怠い動作で、木箱の四隅を丁寧にずらしながら積み始める。


「……いいや。現世で役目を終えたマナたちの管理者だ。さすがにここまでことを起こせば接触してくると考えたが、ルゥレリア様のお話に違わぬ人物のようだ」

「そいつは何者だ?」

「リナリア様が開こうとしているあちらの世界に存在している神だ」


 やはり、神か。

 それ以外考えられなかったが、確かに神がこの世界にいるならば悪魔がこの世界に襲来した時点で手助けがあっていいはずだ。

 リナリアは、天界の長である神の半身。

 ならば、絶対的に守らなければならない存在だというのに。


「確かに、妙だな」

「元々管理者は、この世界に我々が来ることをよくは思っていなかった」

「なぜ」

「さぁな、私には理由がよく分からない。ここへ来てすぐに、エリン様は管理者と接触したがあまりいい顔をされなかったようだ。しかし、この世界は天に近く恩恵を受けやすい。浄化を行うには、恩恵は多ければ多いほどよいから仕方がなかった。だがマリャのせいで道が閉ざされ、世界の均衡は崩れつつある。管理者も早く現状を打開したいと思っているはずなのだが」


 確かに、聞けば聞くほどおかしな話だ。

 いや、もしかしたら。


「してこないではなく、できないんじゃないか」


 もう死んだ。

 そう考えれば自然。

 木箱を積み終えたミツカゲは、ゆっくりと振り向き俺の前に立つ。


「それを確かめる術が私にはない。あちらの世界は神の世界、私がお目にかかることはないからな。だが、おそらく存命であろう」

「何故見ることができないのにそう言える」

「……マナが巡っているからだ」


 ミツカゲは俺ではなく、背後に視線を向け話し出す。背が撫でられたようにぞくっとする。見えないものを見据えるような視線は不気味だ。


「どういう意味だ」

「管理者の役目は、生涯を終えマナに戻った者が兵士に相応しいかどうかの選別だ」

「選別? 選ばれなかった者はどうなる?」

「天へ昇り、ルゥレリア様が全てを削除する。白紙の状態に戻し、そして再び人として生まれ変わるのだ」

「輪廻転生は実際にあるということか。しかし、天への道が閉ざされたこの世界ではもう不可能なんじゃ」


 これはアトラスの疑問。

 エリンにははぐらかされたようだが、ミツカゲは知っているのだろうか。

 

「そうだ。命の循環は不可能になってしまった。それでも新たな命が芽吹いていのはなぜなのか。可能性として管理者自ら行っている可能性が高い」

「管理者が? そんな事ができるのか」

「本来すべきことではない。だがこの世界に存在する神は、エリン様と管理者だ。ルゥレリア様に変わりマナの記憶を削除し、再び人に還すことができるのは神にしかできない。エリン様は違うであろう。だとしたなら、もう管理者しかいない」


 曖昧な部分が多いが、確かにそれしか考えられないか。他の推測をする余地もない。


「なるほど。それが生きている確証か」

「憶測であって確証ではないが、それ以外考えられん。しかし、管理者の手に余る行いた。欠陥も増えるであろうし、なにより全てのマナを転生させるなど不可能だ」

「魂たちはこの世界に溢れているわけだな」

「そうだな」


 管理者は何を考えているのだろう。

 ルゥレリアに代わり、この世界の魂を循環させリナリアの手助けもしない。

 これは直接本人に聞くしか分からないか……まぁ、聞く機会はないだろうが。

 とにかくこれで、アトラスが疑問に思っていた答えが分かった。そして管理者では手に負えず、この世界には転生できないマナが溢れている。

 

 ……カイトも。


「ルゥレリア様の真似事をしている管理者も、もう限界であろう。道が閉ざされ恩恵を受けられなくなった我々の力は、衰弱していく一方だからな」

「アトラスが行き場のない魂はいずれ悪しきものになるか、消滅するかのどちらかだと言っていた」

「依代を失い現世に留まるマナは脆弱だ。さらに先行きが見えない不安が、それを助長させる」

「どのくらいの猶予がある」

「猶予だと?」

「依代を失ったマナが、消失あるいは変化してしまう時間だ」


 カイトが死んで、10日ほど。

 あちらの世界を見ることができないから、カイトが今どうしているか分からない。

 エリンに救ってもらえたのか?

 もし声が届かず今もなお彷徨っているのなら、一刻を争う状況だ。カイトに残された猶予はどれ程あるのだろうか。


「……マナ自身が持つ精神力次第であろう。長く耐えられるものもいれば、すぐに消えるものもいる」


 ならカイトは大丈夫、大丈夫だ。

 誰にでも真っ直ぐに優しくいられるカイトは強い人だ。

 自分の身を犠牲にして、俺を助けてくれた。罪滅ぼしもあるが、友人であるカイトのことも必ず救いたい。

 大丈夫、大丈夫。

 悪魔を倒すまでカイトはカイトのままできっといてくれる。

 

「まぁそんな奴らは、兵になる資格はない」


 人が真剣に考えごとをしているというのに、こいつは水を刺すような言葉を。

 イラつく。

 それは神の都合であって、誰も兵士になって戦いたいですと言っていない。こっちから願い下げでいい迷惑だ。

 

「それはお前たちの都合だろう。兵士になることを目指して、人は生きていない。そもそも資格ってなんだ」

「さっき言ったとおりだ。優秀で従順、それと信仰心がある者もか」

「神の都合ばかりだな。兵士になるよりも、転生できるのならば弾かれた方がマシかもな」

「……全てではない」


 ポツリと出た言葉は重い。


「現世で悪を働いた者、人として生まれた時になんらかの不具合で加護の力を消失してしまった者は、管理者が消去する」


 消去?

 削除ではなく、消去。

 まるで悪魔が吐いたような言葉に悪寒が走る。

 

「消去って、どういうことだ」

「意味通り、マナを消去する。ルゥレリア様のお手を少しでも煩わせないために、なにより悪しき者をおそばへ近づけるなどと許されない」


 それはすなわち、本当の死。

 カミュンとアトラスの顔が浮かぶ。

 加護の力がない忌み子として、疎まれ生きづらくとも懸命に生きてきた。

 現世でも厄介者扱いされて、生まれ変わることすら許されないなんて。余りにも酷い仕打ちで無慈悲だ。


「悪事を働いた奴は自業自得だが、加護を受けなかった者には慈悲はないのか? それは本人が望んだこと」

「他人の心配など、貴様はしている場合ではないぞ」


 叱責するような口調に、思わず言葉を飲み込んでしまう。

 顔を下げ、フードの中の隠れるようにするミツカゲからは苛立ちや憤りを感じる。

 なんだいきなり?

 怒っているのはこっちなんだ。

 一呼吸おいて、ミツカゲは顔を上げる。

 交わった視線に、息を飲んだ。

 

「貴様も、同じなのだ。こちら側に来ることは決してない。例え今後現世で多大な功績を残したとしても、名を残すような強き者だとしても、悪魔の貴様は堕ちるだけだ」


 いつも突き放すだけで、微塵の哀れみも映さない凍てついた瞳で俺を見るくせに……どうして今はそんなに憐れむような目をする。

 そんな目をされたら俺は死んだらどうなるのか、なんてだいたい想像がついてしまう。

 だから聞かない。いや、口が開かなかった。

 固く強張った口は、恐怖からなのか。

 しかし、なら悪魔の俺が加護の力を行使できているのは不自然じゃないか?


「なら何故俺は、加護の力を扱える」


 人であることに縋ろうとしているのが明白な愚かな問いだ。


「貴様の魂はマナではない」

「しかし現に」

「ならば、治癒ができるか?」


 だからなんだという言葉。

 だが、それが余計な問答を省いた答えな気がした。


「本来、マナの力において治癒は原則使えるはずだ。それができないのならば、やはり加護の力ではない。それは、悪魔の力だ。貴様は加護の力だと思い込んでいる……心当たりはないか」


 あぁ、そうか、そういうことか。

 そう思わせたのは両親だ。

 父は風の加護を授かり、母は父と同じだと言って二人揃って使い方を教えてくれた。

 信じて疑わなかった。

 だから、疑問に思うこともない。

 父と母は、上手く力を使いこなした時に褒めてくれた。

 この力は風の加護、操り方を間違えるなと厳しく指導した父。

 貴方は加護を受けているのよと微笑む母。

 この記憶は、ただの消えかけていた単調な思い出であったのに。


「依代は人の肉体であっても、貴様は人ではない。だが、人でいたいと思うのならば、それ以上はやめておけ。それがリナリア様の願いでもある」

「これ以上堕ちることがあるのか」


 皮肉を込めた言葉に、ミツカゲは眉を寄せるだけで言い返してはこない。

 分かっている。

 両親が俺の未来のためについた優しい嘘だってこと。それでもその愛を今は素直に受け止めることができない。

 しかし……。

 

 死んだら、もう二度と交わることはないのか。

 

 リナリアを守るために、死ぬことは怖くない。

 だが堕ちた先に彼女はいなくて、希望のない世界が俺の終着なんだ。

 空を見上げれば、やはりこの狭い路地の中では何も見ることができない。

 願いも、希望も全ては闇の中に沈澱し消えてしまう。

 

 あぁ、世の中本当に不条理なことばかりだな。

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