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精霊の住処と鍵師 ~精霊大陸物語~  作者: 冬月 雪南
【第一章 始まり】
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【5】別れ


「・・・!・・・!」


ボンヤリとした視界が少しずつ戻り、気がつくと自分がもとの場所にいる事に気がついた。


「カレン様!」


その声に一気に覚醒したが、体は激痛で言葉を話そうとした瞬間、口から大量の血がこみ上げた。


「・・・っ!ゴホッゴッ・・」


これだけは伝えなければならない。


「ま・・・魔王、せいれ・・・」


喉が熱く、話そうとしても上手く言葉に出来ない。

話そうと焦るほど身体には痛みが走り、言葉の変わりに口からは多量の血が出た。


「カレン様!話さないで!早く!魔力・・違う、治癒をっ!」


その時、ふと視界の奥にヴィオネスの姿が見えた。

となりには禍々しい、スハラの姿もある。

寂しそうに笑い、ローブを片手でつまみまるで執事のようなお辞儀をすると同時に体がふわりと少し軽くなるのがわかった。

そして、足元からキラキラと光を放ち彼らは消えていった。



「カレン様、喋らないで!治癒師が来ます!」


身体は動かないが、何故だか気持ちが不思議なくらい晴れやかだった。

精霊の宿り木がいつも通りに戻り、穏やかな風が流れている。

こんなにも空は青いのに、ポタポタと頬を伝う水滴はいつまでも止まらなかった。

原因は大粒の涙を流しながらオロオロするリリアだった。


「落ち着きなさい。なに・・いい年の騎士・・が、泣いているの・・・ですか。」


ぶんぶんと頭を横に振り、泣きじゃくるその姿は48歳には見えない。

むしろ幼く見えた。

一緒に暮らし始めた頃を思い出す。


しかし、そんな事を考えている時間はない。

しっかり息を吸い、呼吸を整えると周りに助けて貰いながら半身を起こした。


「しっかりなさい・・・!あなたは何者か名乗りなさい!」


そう、今は悲しんでいる場合ではない。

できる限りの痩せ我慢と力を振り絞り、彼女を見つめた。

すると両手で自分の顔を勢いよく叩くとキッとこちらを向き


「王立騎士団【光焔】所属、第2都市総司令、リリア・ウィスタリアです!」


「よろしい!」


リリアの目に力が入った事を確認すると周りを見渡した。


「今から・・・私が言う事を、あなた達はしっかりと記憶しなさい。」


「魔王が復活します。それは1ヶ月か10年、あるいは100年先かもしれませんが必ず。精霊の鍵が現れます。時に備えな・・さ・・い・・・。今ま・・で、の・・・資料や、けんきゅ・・は、りりが・・・。王を探す・・前に、精霊の案内人と言われし精霊を探しなさい。ヴィオネスは案内人です。」


かわいいリリア、幼い頃から母のように慕う彼女は可愛くてしかたなかった。


「さぁ・・・最後よ。手を・・・、また泣いているの?さぁ、はや・・・く」


ぐずぐずと泣きながら、力なく向けられた手のひらにそっと手を向かい合わせた。


すると、自分の空間の中にある荷物を彼女の空間へと移動させる。

その瞬間、ふわりと体から魔力が抜けるのがわかり急激に体から重くなった。

目もほとんど見えない。


しかし不思議と気持ちは穏やかだった。


「わら・・・て、だい・・・じ・・・ぶ・・・すこ・・し・・・ねむ・・・」


そう、少し眠るだけよ。

泣かないで・・・ほら、歌ってあげるわ。

そしたら怖くないでしょう。


「ひが・・・くれ・・・ やみよに・・・ちいさ・・・な、ともしび や・・・さし・・く き・・こ・・・える ははの・・・うた・・・・ご・・・」



----------------------------------

side:リリア




カレン様が亡くなった。


カレン様が呪文を唱えると、カレン様を中心に爆風のような風と光が放たれた。


やがて風が収まり目を開くと景色はいつも通り空は雲一つない晴天、精霊の宿り木は先程までの禍々しい色はなく穏やかに揺れ、まるで何もなかったかのようだった。


「いったい何が・・・、カレン様は何を・・・!?」


声を掛けようと、カレン様に目を向けた瞬間だった。

支えていた杖がパサリと草むらに倒れると、崩れるように彼女が倒れこんだ。

杖の先端にあった紫の宝飾は、色を失い粉々になっていた。


「カレン様!!!」


何があった?どうしてこうなった?

目を開くと先程までの魔物が消え、カレン様が倒れた。

もうそれが全てを物語っているが、何が起こったのかどうしても頭が追い付かない。


「いや・・・いやよ!!カレン様!!目を・・・目がっ」


一瞬の出来事だった。

彼女は魔王復活の前兆を語ると、その場で死亡が確認された。

その後は、総司令として事後処理に追われた。

泣いている暇などその後はなかった。


そして今、やっと落ち着いて彼女が眠るお墓へと来た。


彼女の部屋で見つけた遺言にそって、お墓は森の中にある「精霊の泉」側の墓地へと葬られた。

私にとって、母のようだった存在。


「また・・・、一人になるのね。」


ポツリと思わず溢れた言葉には誰も応える者はいない。


私が彼女に出会ったのは10歳のころ。

小さな辺境の村で、平和な毎日を過ごしていた。

しかし村はある日、魔獣に襲われた。

カレン様達が率いる騎士団がくる頃には生きたものは私と、私を守ろうと必死に庇う兄のように慕った村の青年のみ。

その彼も結局、傷が癒えきれず数日後に亡くなった。


そんな私を引き取り、育て上げてくれた彼女は師匠であり母であった。


いつまでも、落ち込んではいられない。


「カレン様・・・、あなたの意志は私が引き受けます。」


墓前で両膝を付き、握った右手を左手で優しく包み込むと、軽く頭を下げ、その手に額をそっと乗せると目を閉じて祈りを捧げた。


※騎士団について※


国の定めで能力に合わせ5つの所属に分けられる。

しかし、実際は「白・黒」以外は各地に配属される。

派遣された土地や環境に合わせて、それぞれの能力が生かされるように配慮し、また1カ所に能力が出来る限り偏らないようにしている。



【光焔こうえん・ライト】

武力中心とした騎士団


【蒼天そうてん・アジュール】

魔力中心とした騎士団


【白羽しらは・ホワイト】

王に属する騎士団


【翠嵐すいらん・グリーン】

治癒・補助を中心とした騎士団


【黒染こくせん・ブラック】

隠密中心とした騎士団

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