【4】魔王誕生と闇の精霊(side:カレン)
「カレン様!あれはいったい。」
蕾が花開き、出てきたのは紛れもない25年前に行方不明になった若者だ。
しかし、その姿は開かれた花と蔦が下半身となった紛れもなく魔物の姿。
「宿り木の負の魔力を取り込んだか・・・。」
私の力で抑えれるだろうか、しかし迷う暇はない。
「我が治癒軍に告ぐ!今すぐ魔力補助を!できる限り、私に注ぎなさい!時間がない!」
カレンは手に持つ、銀に輝く杖を突き刺すと両手で握り詠唱する。
幼少期、一度だけお目にかかった精霊王の1人。
もし、あなたが覚えているならば答えてほしい。
「母なる大地に眠りし精霊よ!
カレン・エヴァーリーフが願う!
我が声に応えその姿を現し給え!
闇の精霊ヴィオネス!」
名を呼ぶと、杖の先端についた紫色の魔石が目を開けられないほどに光りだした。
光が落ち着くと同時に静寂が広がった。
ゆっくりと瞼を開くと、そこは先程までいた場所ではなく薄暗い空間であった。
「え・・・!ここは!?宿り木は!」
「久しいな」
振り向くとそこには、黒に等しいグレーのローブを纏った、白髪混じりの長い黒髪をみつ編み束ねる見た目は自分とさほど変わらない年齢の男が現れた。
頭には三叉に別れた帽子を深く被り、その先端には紫色の丸い宝石が付いている。
「ヴィオネス様!」
「魔力が足りず部下に補わせたか。無茶をする。」
「は!それでは・・・」
「あぁ、すでに一部の精霊王はこの影響で自ら自然に影響が出ないよう眠りに付いた。暴走しそうなやつは全て事が起こる前に自ら封印の形を取った。
眠った精霊王の中には分身を残したやつもいるが・・・まぁ他はいい。
われも時間がない。手短に話すのと、わかっているだろうが・・・」
無理矢理、精霊王を呼び出した代償
「私は死ぬ覚悟は出来てます。」
「・・・お主には、悪い事をした。」
実際、精霊王から神託を聴く神官はいるが実物を見るものは少ない。
実際に呼び出す方法などもしっかりと文献は残っているが、それを補えるほどの魔力がある人間は過去に英雄と呼ばれる人物達ばかりで伝承やおとぎ話に近く、その存在は伝説や神に近い。
なのに何故か、幼少時に一度だけ偶然出会った。
悪戯に精霊が姿を見せたのだ。
そのためか、精霊の加護を授かった。
しかし同族の中で魔力が多少なり多い程度。
加護があっても、呼び出す事もできず、かと言って神託のスキルはなく祈りを捧げる日々。
その姿を見る事はできなくても、いつか死ぬ間際にでも見れたらと杖の先端に、毎日少しずつ魔力を込めた。
魔力は足りず、部下の魔力を借り何とか拝見できた姿は自分の命が代償だ。
「いいえ、わかっております。むしろ、このために今までがあったのでしょう。」
「・・・時間が惜しい、今から話すことを地上に伝えろ。お前の身体は正直・・・どれくらい持つかわからない。」
「あれは、魔王になる。
かなりの恨みがあるのだろう、宿り木と精霊が少しずつ浄化していたはずの負の魔力が答えてしまった。
今はまだ完全に目覚めていない。
精霊王たちが力を使うことにより何とか抑えれるが、今のまま抑えても正直何年持つかわからない。1年か、10年かはたまた100年か何とも言えんがな」
「では魔王が完全に復活したら、どうすれば・・・。」
「もちろん方法はある、すべての精霊王の力が戻る時、魔王は消滅する。魔力や日常も元通りになるだろう。
消滅といっても、魂を救ってやらないとまた復活する可能性があるがな。
これから・・・暫くは魔物も増えるやもしれぬ。
時がきたら、【精霊の鍵】が現れる。
そして、各王たちも動き出すであろう。」
「鍵はいつあらわ・・!」
聞きたい事はまだある、ただ限界なのだろうか視界がかすみ始めヴィオネスの言葉が途切れ途切れになる。
「わ・・は、王では・・・ない。
案・・・オネス。認め・・を・・・王へ・・繋ぐ・・・人・・・たまし・・・す・・てや・・・」
手を伸ばし叫んでみるも、自分の声すら届かず無音だ。
「・・・・・・」
ヴィオネスは、伸ばした手をそっとつかみその手を唇に寄せ何かを一言呟いた。
その表情は暗く、しかし哀愁漂う切ない微笑みだった。
そして、唇の動きから読み取れた言葉。
「すまない、いつかまた・・・・」