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精霊の住処と鍵師 ~精霊大陸物語~  作者: 冬月 雪南
【第一章 始まり】
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【32】案内人フラッド


次の日、午前中はアルハードの訓練に付き合い午後からは準備に取り掛かった。

ただし、精霊の現れるであろう休息地には最低限の人数に絞り残りは村へと待機となった。


少しずつ会話が少なくなるなか救護用に建てられたテントの傍では学生たちが何だか楽しそうに話をしている。

空を見上げると森の中だというのにそこだけぽっかりと星空がのぞき、輝く月が木々の隙間から開けた場所へと姿を見せようとしていた。

月が頭上に来るにはもう少しばかり時間がかかりそうだった。


精霊の休息地の真ん中は相変わらずぼんやりと光を放ち、その周りは相変わらず魔生泉の影響と精霊が暴れたせいで土や岩がむきだしになっていた。


「落ち着いてるんだな。」


声を掛けてきたマリスを見ると、私以上にそわそわしているのが見るからにわかった。

まるで遠足前の子供ね。


「あなたが落ち着きなさい。緊張感どころか脱力するわよ。」


「当たり前だろ。皆、お前の事を心配してんだぞ。あんな事、2回も起きてみろ。

心配しない方がおかしいだろ。」


念には念をと必要以上に体調を気遣うダニエル。

普段通りを装いきれてないサミュエル。

心配するのを隠すつもりもないマリス。

やるべき事は別なのに時間を作って参加してくれているリャン様。


皆、心配性だな・・・・。

そう思いながら思わず苦笑いがでる。

身寄りがほとんどないのにこれだけの仲間に囲まれて、本当に幸せ者だと痛感する。


「・・・そうね。でも、今回は大丈夫だと思う。」

「お前の大丈夫程、信用できねーもんはないぞ。」

「む・・・本当に信用無いわね。でも何かはあるかもしれないけれど死にはしないわよ。

それより、人数を絞ってこの場所には来てるはずなのに学生も連れてくると思わなかったわ。」


「あぁ、学生ではあるが一応王族としても今の状況をその目でしっかりと見て来いという事らしい。

何事も経験だって事だ。」

「本音は?」

「国としても虚偽報告があるとまずいだろうし経験のない学生のが扱いやすいんじゃねぇの。

ま、その辺は何かあったら俺たちに任せとけば何とかなるだろ。」


ふと学生の方に目をやると、エイミーと目が合った。

ニコニコと手を振る無邪気な姿に思わずこちらも手を振り返した。


「楽しそうね。」

「あれだけ優秀な人たちから実践を聞けるなんて中々ねぇから貴重だろうな。

エルフの学生が時間があれば精霊について聞きたいって言ってたぞ。

まぁ、これからお前が一番忙しくなるだろうから機会があればって一応伝えといたぞ。」


「そう、わかった。ありがとう。」


たわいもない話をしつつも準備を少しずつ進めていく。

月が頭上まで来るのにあと少しだな・・・なんて思いつつ休息地をふと見ると、僅かに明るさが増した気がした。


「ん?妙に静かだ・・・・・!?全員準備しろ!!なんか始まるぞ!」


これだけ星空が広がっているのに、先程まで聞こえた虫や鳥の声が徐々に聞こえなくなった。

マリスが何か話した気がするけれど何だったのだろうか。

振り返るつもりはあったのに目に入るのはあの休息地のみ。


何故だろうか、警戒しなきゃいけない気持ちはあったはずなのに体は勝手にあの光る地に惹かれ無意識に引き寄せられた。

音が無くなり静寂が訪れる。


一歩また一歩と。


「!!・・・!!・・・・」


誰かが傍で何か話してる気がするが何も耳に入ってこない。

聞こうと思う気持ちが頭の隅に追いやられて、目の前にある休息地だけしか考えられなくなる。

警戒しなればと思っているのにまるで体を乗っ取られたようにいう事が効かず、そのまま精霊の休息地にある岩へたどり着いた。

上を見上げると月は真上にある。


『「(いにしえ)の王に仕えし聖霊よ

我が声に答え その姿を現し わが身を導き給え」』


聞いたことも話したこともない呪文が自然と口から発せられる。

それと同時に、同じ言葉を誰かが頭の中で唱えている。

でもそれが誰かはわからない。


『「清き聖なる水の乙女に仕えし 水の精霊案内人 フラッド」』


呪文を言い終えると、ふわふわとした光はやがて水滴となり自分を中心に円を描くように集まりだした。

集まった水滴はやがて緩やかな竜巻状になり頭上へと昇るとくるくると水流を保ったまま大きなリングを描きだした。

光が巻き上がらなくなると同時に今度は小さな雨粒と共に降り注いだ。


『目を・・・・』


耳に心地よい声が聞こえ言われるがまま目を閉じ、ゆっくりと開くとまた以前のようなどこまでも続く青空と波紋を描く足元だった。


「うん?ここはどこか・・・!?あれ?」


体がやっと自分の思い通りに動くことに気がつくと同時に、前回の記憶がよみがえった。


「・・・・向こうで目が覚めたら瀕死かしら。不可抗力とはいえ、また怒られるわね。」


はぁ・・・と盛大な溜息をつくと、今度はしっかりとした声で誰かに話しかけられた。


「今回そんな心配はない。」

「!?」


ぱっと思わず声がするほうに振り向くと、先日の青い狼がすぐそばにいた。


「前回は・・・むりやりこの場所に連れてくることになり、すまなかった。

魔力量は元に戻せても、髪の色は戻らないかもしれん。」

「いえ・・・というか魔力、戻るのですか?」

「あぁ、問題ない。時がたてば回復する。」

「あの・・・・。」


「ふむ、そうだな・・・なぜ大丈夫かというのは、

1,精霊(こっち)(そちら)と繋がる事を希望したから

2,そのため呼び出しには精霊の力方が大きく作用している

3,正しい召喚詠唱を行ったから

まぁ、ざっくり言うとこんなとこだろうか。」


「正しい・・・・詠唱。

以前、精霊を呼び出そうとして亡くなった方がいるのですが、もしや・・・。」

「精霊の名は?』

「闇の精霊ヴィオネスです。」

「あぁ、詠唱を間違えたのだな。ヴィオネスは案内人であってただの精霊ではない。

しかも、「鍵」ではなかったのだろう。

今の時代は下級精霊を呼ぶ方法すら伝わっていないのだな。

さて、そろそろ本題に入らせてもらう。

すでに魔王化したものが復活する予兆が徐々に高まっている。それは知っているな。」


「は、はい。以前、ヴィオネス様を召喚なさろうとして・・・亡くなった方から聞き及んでいます。」


「・・・・さて、どこから話したものか。」


狼の精霊はその場で伏せ、前足で鼻先を触りながら目を閉じてあーでもないこうでもないとブツブツと悩みだした。

精霊に対してこんなことは思ってはいけないだろうけど、どう見ても狼と言うより表情豊かな可愛い大型犬に見えてきた。

可愛い、モフりたいなぁなんて思っていたら思わず顔が緩んでしまった。


「さて、とりあえずお前に対して大事なことを話そ・・・近くないか?」

「はっ!すいません。」


ついつい触りたくなってかなり至近距離まで近づいてしゃがみ込んでしまった。

あぶないあぶない。


「まぁいい座れ。」


そう言って狼が視線を横にそらすと、その先にざばっと透明な人ひとり座るには十分なでっぱりが現れた。


「は、はい。」


言われるがままそのでっぱりに恐る恐る座ると、見た目とは裏腹に少し上質なソファくらい座り心地はよかった。

・・・水魔法で再現できるかしら、野営にいいかも。


「まずは、自己紹介といこう。俺は水の精霊案内人フラッドという。

フラッドと気軽に呼んでもらってかまわない。」


「わかりました。私の名はリリア・ウィスタリアと申します。リリアとお呼びください。」


「リリアだな。もうちょっと砕けた話し方でもいいのだがな。

さて、リリアは『案内人』とは何か知っているか?」


(精霊の案内人と言われし精霊を探しなさい。)


カレン様が残した言葉より、様々な文献を調べた中で『案内人』という言葉が古い文献からはいくつか見つかっていた。

絵姿から見ると精霊王へと導いてくれる、もしくは王の隣に控えるものが『案内人』。

ただすべての文献に記述があるわけではなく精霊王は2人いるという記述だったり、精霊王を従える精霊など様々ではあるが、分かりやすい解釈は最上位種である精霊王と接触するためには案内人に認められなければならないのだろう。

王様に会うには認められた者のみ、まぁ国と一緒ね。


「古い文献を色々と調べましたが精霊王に一番近い精霊・・・・。

私は様々な伝承や文献を調べていて気が付いたのですが、精霊王とは別に上位種となる『案内人』といわれる精霊が存在するのがわかりました。

ただ、同格というより王に仕える存在・・・人間でいう宰相や側近のような感じでしょうか。」


「そうだな『精霊王に仕える側近』というのが一番近いのかもしれない。

我々は王に仕える・・・もしくは王が認める者のみを導く者。

精霊案内人とは、精霊の最上級である精霊王へとつなぐ精霊であり精霊であって精霊ではない。」

「せ・・・・精霊であって精霊ではない・・・・。え?」

「案内人は純粋な精霊とは違い、この地で生き抜いた記憶をもつのだ。」

「元は人であったという事ですか!?」


「それもまた違うのだが、まぁそれはおいおいとして。

案内人とは、精霊が認める『精霊の鍵』を導く役割を持つもの。

鍵と認められた者は案内人により精霊の住処へ招かれる。」


「せ、精霊王とお会いする事ができるのですか!?」

「簡単に言えば、認められた者のみだがな。」


「ん?」


目の前にいる狼は水の精霊案内人と名乗った。

精霊王に会う資格は鍵であること。

カレン様はヴィオネスを召喚しようとして亡くなり鍵ではなかった。


「・・・・え、もしかして・・・・いやいやまさか。」


ぱっとフラッドの方を見ると、ふさふさのしっぽを軽く揺らしながらじっとこちらを見ていた。


「あなたは水の精霊王の案内人で、案内人に会うためには正しい詠唱と鍵の資格が必要であると。」

「そうだな。」


うんうんと、フラッドが頷きながら私が理解するのを待ってくれていた。

いやでもそんなうそでしょ?と思いつつ、事実を口に出した。


「今、私は正しい詠唱をして水の精霊王の案内人であるあなたと会っている?」

「うむ、あっているな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」


そんなまさか恐れ多すぎない!?そんなことありえるの?


「おぬしは、水の精霊王に会う資格がある水の精霊王の『鍵』となる。」


「う・・・・うそ。」



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