【31】小さな思い出
村へは順調に進み予定通りに到着した。
今回は学生たちがいるのも考慮し、早朝に出発し日が沈み切る前には到着するように考えていたが思っていた以上に優秀で、日が傾き始め空がまだ青から赤へと変わる前には村の入口にはついていた。
各自荷物を置き軽く打ち合わせを行うと夕食の時間までは自由とした。
しかし、そのほとんどが村を周りつつ片付けの手伝いへと赴いた。
拠点は前回、私が運び込まれた医務室や救護室のある村が管理する建物に。
以前は村の規模の割にそこそこ立派な病院だったそうだが過疎が進むにつれて常駐する医者もいなくなり今では緊急時か1ヶ月~2ヶ月に一度、契約している治癒師が訪問して村人の体調を見てくれているらしい。
そのわりには建物の管理が行き届いており普段は無人とは思えないほど綺麗だと思っていたら、歴史ある建物を老朽化させないためにも入口ロビーは村人のいこいの場として利用されており、その他に1階にある空部屋やキッチンなどもイベントや話し合いの場とし使用したりと村の誰でも利用できる施設として活用しているとの事だった。
1階はリャン様と治療にあたるダニエル含む医療班が使用し、学生を含む他のメンバーは全員2階へと割り当てられた。
医療班に関しては村が契約していた医者に事情を説明し今回、怪我の経過観察以外にも日常診察や健康診断等やれる事は全て行う話になっているらしくダニエル達は慌ただしく診察室のチェックを行っていた。
リリアは2階の一室に荷物を置くととりあえず1階のロビーへと向かった。
『現地に行ってお前がすることは大人しくすることだ。いいな!絶対一人で行動すんなよ!』
マリスに散々釘を刺され、不満な顔をすれば治療に当たってくれた人たちにあきれた顔と残念な目線を向けられた。
「はぁ・・・、流石にわかってる。」
光のさす奥の半円型になっている窓を見ると、木で出来た透かし細工となっており扉の上や柱にもかなり繊細な装飾が施されていた。
奥行きは広くはないがその扉の奥はガラス張りの温室のようになっていて木を基調としたソファやテーブルが設置してあった。
「これは・・・歴史的な物かしら。凄いわね・・・。」
近づいてみると柱の足元や低い位置には、リスや蝶などの可愛らしい彫刻が入っていた。
扉の細工に比べると下の方にある動物たちはややゆがんでおり、それも一つ一つが個性的ではあるが周りに施された蔦や木がそれをうまく溶け込むように彫り込んであった。
「こっちの足元には狼ね、こっちはヘビ・・じゃないわね、トカゲかしら。」
「頭上の方には鳥類の彫刻もありますよ。」
思わずしゃがみ込み、柱の一つ一つを見ていると後ろから見かけた事のある青年が声を掛けてきた。
「あなたは、確かアルハードくんだったかしら。」
「はい!無事に回復されたようでなによりです!
・・・この細工すごいですよね。芸術はさっぱりな俺ですら息をのむ素晴らしさだと思います。
昔からここは村の憩いの場で、俺たちにとっても特別な場所なんです。」
前回、ここの救護室でお世話になったものの色々な事がありすぎて、村をゆっくり回るどころかさらにぶっ倒れたのち目が覚めたらフォレストにいたもんだから今みたいに余裕をもって見るのは初めてだった。
「・・・そう、村の歴史的象徴ね。木の細工がとてもすごいわ。製作者はさぞ腕に自信があった方でしょう。」
「その足元の狼は俺が彫ったんですよ。」
笑いながら、リリアの横にしゃがみ込んだアルハードはそっと足元にある少しいびつな狼を手でそっとなでた。
「この細工のほとんどは、道具屋の店主が作ったんです。
そしてその足元の少しいびつな動物や花の彫刻は、この村の子供たちが店主に教えてもらいながら彫った思い出の象徴なんです。
・・・今回、助けに間に合わず亡くなってしまいましたが・・・・。」
もし1秒でも早く駆けつけていれば
もしあの時に、少しの違和感に気が付けば
もし・・・もしあの時・・・・
これからの人生、たくさん振り返ることがあるだろう。
私がそうだったように。
同じ経験をしても、やっぱりこんな時はどう声を掛けたらいいのかわからない。
「そうね、今はただ・・・」
思い出に浸り故人を偲び来世での再会を祈るのみ。
思わず、自分の事もなつかしむとアルハードが立ち上がり一歩下がると頭を下げた。
「どうしたの?」
「お願いします!!俺に戦い方を教えてください!
もうこれ以上、死なせたくないんです!!この村には戦える者が少ないんです!」
「・・・あなた、ギルド登録は?」
「成人はしていますが、特に登録はしてません。
生活は狩りで手に入れた素材を、昔から出入りしてくれている商人に購入してもらっているので・・・。
村の子供たちは皆、成人すると街や都に出稼ぎに行ってしまいます。
ここにいる孤児院の子たちは他の地域に比べるときっと恵まれているんだと思います。
先生がが学校で教えてくれるような授業をしてくれるおかげもあって村の大人の顔きき以外にも、出入りする商人や治癒師の方が仕事を斡旋してくれたりと何かと気にかけてくれているんです。
でも・・・俺はここで育ててもらった恩を返したいんです。」
成人し、騎士団やギルドに所属することを考えなかったわけではないのだろう。
村は見た感じ、年配の方が多く孤児院もあるわりに真ん中の若い世帯が極端に少ない。
今回の村は元より狩りが主流となる村だったからこそ年配でもそこそこ動ける人がいたため、これだけの被害で済んだのは正直奇跡的だと思う。
「・・・騎士になるという選択はあまりないのね。」
「正直、小さい頃は憧れはありました。でも、今回の事でなおさら痛感したんです。
この村には戦える者が少なく、今後同じ事は起きないと言い切れない。
強くなりたいんです!
でも、そのために村から出て騎士やギルド所属をすると村はいざと言う時、守れない・・・!
でもっ・・・・!」
今のままじゃ、守るどころか自分の身だって危ない。
騎士が厳しくてもギルドに所属したら、ベテランら訓練を依頼すればいくらでも少額で学ぶことはできる。
依頼で来てもらうのも手だが金額がそれなりにかかるのと、誰が来るのかもわからない。
それならば今、あの時目の前で美しい剣技と魔法で救ってくれたこの人ならば・・・・。
「うー・・・・ん。」
(よわったな・・・。)
騎士団の訓練は基本的に所属したものにしかできない。
もちろんボランティアや学院に指導には行くが、個人での依頼になるとしっかりと騎士団を通すか報酬ももちろん発生するためギルトとその辺は変わらない。
ここにいる間だけでも教えてあげてもいいけど、この場合はどうするべきなのかしら。
「いいじゃねーか。ここにいる間だけでも訓練してやったら。」
声のする方を見るとマリスが近づいてきた。
「マリス・・・。
「そう固く考えるなって。・・・そうだな、お前は明日の夜までは大人しくししてねーとだめだろ。
と言ってもどうせ、部屋にこもってられねーんだから運動に付き合ってもらったらいいだろ?
ま、よーするに渡りに船だ。」
「えっと、アルハードとか言ったな。」
「は、はい!」
「こいつはなぁ・・・前回、どれだけの仲間に心配かけてるか見てんだろー?
すぐ無茶するし大人しくしてられねーし、言う事聞かねーんだわ。」
マリスが頭の上に腕を乗せて体重を掛けてくると思わず前のめりになった。
「ちょっ・・・!失礼ね。これでも、元総司令なんだから自分の事くらい・・・。」
「自分の事くらいなんだって?毎回毎回どんだけ周りに心配かけてんだ、あ?」
「ちょっ・・・いたいいたいいたい!!!わかってるわよ。悪かったと思ってる!」
ガバっと体制を戻し、マリスに向かって抗議しようとしたところ、顔面を手でつかまれて軽く力を入れられた。
その様子を、アルハードがオロオロとどうしたらいいのか見守っていると、荷物整理を終えた学生たちがワイワイと階段から降りてきた。
「あ!お二人見つけましたよ!すぐに見つかってよかったです!」
「まぁ、エイミー。お話し中の方にそんな大声で話しかけてはいけませんわ。」
「あっ!そうですね!すすすいません!」
「・・・・もう遅い。」
「お話し中なのに中断してすいませ・・・マリス様、流石に女性の顔を鷲掴みするのはどうかと。」
「おう、お前たち荷も・・・・うぐっ!おまぁ・・・ごはっ!」
マリスの手が緩んだところで、鳩尾に一発入れよろけたところを体制を整える前に回し蹴りを綺麗に入れてやった。
「ごめんなさいね。ちょっとしたスキンシップよ。
そういえば荷物整理が終わったら、村長に挨拶するついでに村の案内をして貰うのだったわね。
マリス、学生たちが待ってるわよ。
アルハード、そうね・・・とりあえず今から少し見てあげるわ。
ここの裏手にある庭でいいかしら?」
「はい!!ありがとうございます!!」
「お前・・・・ほかに言うことあるだろ。」
起き上がったマリスにがっしりと後ろから肩をつかまれたが言いたい事なんて山ほどあるに決まってる。
「あら、言いたい事も聞きたい事も山ほどあるけど、先に手を出したのはあなたでしょう。
そうね・・・言いたい事といえば、例えば本来の同行者がフェリシアで・・・・モガ」
「だぁぁ!!!悪かった!だからその事はフェリシアには・・・ってなんでお前が知ってるんだよ!」
「さぁ?何ででしょうね。あとは、そうねあなたが先日、本屋で購入しようとしてた・・・・。」
「ほほほほほほ本屋くらい行くだろう!お前は俺の何を知ってるんだ!?」
話してる途中でマリスが正面に回り込み両肩をがっしりと掴まれた。
それを冷たい目で見てやる。
・・・先日、本屋から何も持たずに出てきたのを見かけ入れ替わりに店へと入ったら、店内にいた騎士たちがコソコソと話してるの聞いちゃったのよね。
(なるほど・・・マリス様はこういった子がいいのか。)
(俺はこっちの子のがいいな、こうスレンダーな感じが・・・)
・・・何とは言わないが可哀想だから声を掛けるのはやめておいた優しさを褒めてやりたい。
多分マリスの目当ては違う本だっただろうけど、絶対あの会話には混じってただろう。
何をしていたかは謎だが。
「さぁ、行くわよ。あなたも、学生さんたちを待たせずにいってらっしゃいな。」
「まて!本当にお前、どこから何を聞いたんだぁぁ・・・!」
「あなたたち、迷惑かけるけどこれでも一応、総司令としては頼りになるはずだから。
それと何かあったら私に相談してもらっても構わないわ。頑張ってね。」
ヒラヒラと手を振り、そのまま温室を横切って外へと出た。
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リリアの綺麗に決まった回し蹴りを見て、学生たちはついつい「おぉ・・・。」と感心する声を上げ、思わず拍手をしそうになった。
とりあえず、やり取りが終わるまで待機しつつコソコソと話をしながら待つことにした。
「リリア様もかなり優秀とは聞いておりますが、マリス様がこれほど頭が上がらないとは、やはりお強いのでしょうね。」
「何事かと思いましたがすごいですね!。しかもあれほどの美人で強いとか!憧れちゃいます!
リリア様にお会いした事ある子に聞きましたが、騎士を目指す女生徒が『あんな人になりたい』と言うのもうなずけますね!・・・ただ、アイアンクローをされてるとこに遭遇するとは思いませんでしたが。」
リリアとマリスのやり取りを見ながら、きゃっきゃっ楽しそうに話す女子学生2人とは対照的に、若干引き気味の表情をしたアラステアがイシリオンにだけこっそり話しかけた。
「おい、俺には恐ろしく見えたが。」
「・・・どの時代も女性は強者。俺はオリヴィアには勝てないよ。
まぁ、ただお前には負ける気はないが。」
イシリオンはわずかながらニヤリと表情を変えると、意味の分かったアラステアはカチンときてついつい大きい声で食らいついた。
「なっ・・・・、言っとくけどそこは俺も譲らないからな。
まったく何でいつもそんなに余裕なんだよ。」
「余裕なんていつもないさ。ただ、顔にださないだけ。
好きな人に関しては、人より頑張らないとだめなのがわかってるから。
今回の遠征では積極的にいくさ。」
一国の宰相の溺愛する娘。
アラステアが望めば、すぐ手に入るだろう。
俺はただの変わり者のエルフで、たまたまあのカレン様の親族なだけ。
彼女だって政略結婚の可能性だってあるのがわかっている身だ。
アラステアは、これからも交流があるだろう。
エイミーも女友達として会うに理由などいらない。
じゃぁ俺は?卒業したら、男女でなどそう安々と気軽に会えないだろう。
ましては彼女は貴族だ。
だからこそ卒業までには、出来る事をしないと俺には接点がなくなってしまう。
「なっ・・・おまっ!くっ・・・友人と言えど、そこは譲れないからな。
あ、かといって俺が王族だからとか友人だからとかで、手を抜くのは禁止だからな。」
アラステアのいい所だな。
王族なのにそれを鼻にかけない、その気軽さがありがたい。
やりようによっては、俺なんてライバルにすらならないんだろうがな。
「ふ・・・、望むところだ。」
「よし、気を取り直してお前たちも村長のところへ行くぞー!。」
いつの間にか、全然違う話をしているうちにリリア様と村の方は出て行っていた。
「よし、頑張るか。」
そう言いながらニッと笑い拳を出したアラステアの手に、ふと笑いながらそっと自分の拳をコツリと合わせてた。
きっと、その言葉には色んな事が含まれているのがお互いにわかっているから。




