【1】30年
【第一章 始まり】
歴3248年
あの騒動から30年の月日がたった。
私の名前はリリア・ウィスタリア。
当時、新任だった私も気が付けば48歳。
緑の目にくすんだ癖のある金髪を後ろに束ね、透かし銀細工の髪留めを付けていた。
新任だった私はあの事件当時、わけもわからず上官に連れ立ってあの場所にいた。
あの騒動の後、精霊樹の周りに魔物が現れるようになり、国が見守ることとなった。
騒ぎを起こした村は、精霊樹からも近い小さな村で古くからその恩恵を受け慎ましくも豊かな生活を送ってきた。
しかし、近年雨が少なくなり作物の不作が続きその豊かさが薄れる中、様々は方法を試みたものの中々改善されず結果、村につたわる古い文献などを頼りに行き着いたものが「贄の儀」であった。
精霊樹に、若い乙女を捧げる事により村の豊かさを取り戻すと言う本当にあったかどうかも解らないような夢物語に近い歴史書物だった。
もちろん、村の研究者や若い者は反対したが一度豊かな暮らしを経験する村の年寄りたちは、その甘い蜜を忘れられず成果の出ない研究より手っ取り早く試す価値があると秘密裏に行おうとした結果、今回の騒ぎとなった。
それに気が付いた、村の研究に関わっていた若者が自分たちではどうにも行かず、王都に調査と危険分子となった村の現状を伝え、助けを求めようと留守にした隙に「贄の儀」を行おうとした。
それに、気が付いた村に残る研究者たちは「贄の儀」を行うために監禁された娘を助け出し、その婚約者であった若者と村の外へと逃がした。
しかし、驚いたことに二人の親族の多数が「贄の儀」賛成派で、最後まで反対していたのは娘側の母親と弟、若者の親族に関しては父親のみだった。
無事、村の外に逃がしたつもりが娘の母親が賛成派へと情報を漏らしたのだった。
賛成派が、娘の弟である息子を盾に脅したのだ。
その結果が、あの惨劇の全貌である。
その後、村で「贄の儀」に関わった大半が捕らえられ、残る村人たちは報復と魔物を恐れて村に留まる事をやめ散り散りになり、村は廃村となった。
そして、魔物が急増した精霊樹の周辺からそう離れていない場所に騎士が住まう拠点が出来た。
それはやがて、家族を呼び商人が店を出し、気が付くと大きな都市となった。
そんな場所で、上官に絞られ魔物の盗伐や盗賊の取締りなど冒険者のような毎日を送っていたら。
30年もたってしまった。
ここまで剣一筋になったためだろうか、そこそこの強さに容赦ない振る舞いに気が付けば部下や後輩から「鬼の女神」とまで言われる始末。
それにしても鬼なのか女神なのか意味がわからない。
今では上官も引退し、気が付けばこの都市で騎士団の総司令まで来てしまった。
正直、剣ばかりで他の事にも目を向けてみたいと何度かは思ったが、後任もおらず育ちもせずで結局は剣をとる。
副司令である、マリスから言わせてみれば「お前が納得する人間が現れたら、もうそれは人間ではない。」
失礼にも程があるので、とりあえずその日の夕方より特別夜間訓練を行うことを告げてやった。
涙目で何か話してたが、そんなに泣くほど嬉しいのかと思い夜間訓練ついでに最近賑わす精霊樹付近の魔物盗伐も組んでおいてやった。
うん、訓練もできて盗伐も完了!
なんて効率がいい提案なのだろう。
その日、連れ立った6人には気の毒だが恨むなら自分の上官を恨んでくれ。
指名された6人は絶望的な顔をして気の毒だったので、終了報告の後に特別支給が有る事を耳打ちしておいた。
しらないのはマリスだけで、特別支給の話で目に光が宿る部下と温度差がすごかった。
もちろん後でマリスにも渡すが教えてやらないのは言うまでもなし。
どうせ戦闘中に彼らによって伝わり役立つだろう。
あいつの事だ「あの鬼め!!」とか言いながら、速攻で文句を言うために早く終わらせて帰ってくるのが目に見えていた。