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【42:銀次の誕生日会】

「……てなことがあったんだよ! 面白いだろ!?」


 八丈先輩は話が上手いな。

 それに面白体験のネタも豊富だ。

 さすが高スペック陽キャ男子。

 こんなに面白い人だったとは。


 奄美さんも大笑いしてる。


「ホント面白いね〜 ね、佐渡君」

「あ、はい。そうですね」


 なんかさっきから、奄美さんが会話の端々《はしばし》に俺に語りかけてくるんだけど。

 その度に八丈先輩が悔しそうな顔して、より一層面白い話をしようと頑張ってる。


 でも奄美さんはその度に俺に笑いかけるから、八丈先輩の必死さが申し訳ない。

 ホントごめんなさい八丈先輩。


 竹富は竹富で、焦った顔で俺と奄美さんを見比べてるし。

 でもさすがに小豆に対するみたいに、突っかかったり不満げな顔はしない。


 奄美さんは先輩だし、スーパーウーマンだからかな。竹富も自分を抑えてるみたいだ。


 なんか俺、『奄美バリア』に守られてるみたいな気分だ。


「じゃあ佐渡君、飲んどこうか!」

「はい……」

「よしよし! いい飲みっぷりよ。私もグイっといっちゃお」


 奄美さん楽しそうでよかった。

 だけどちょっと飲み過ぎじゃないですか?

 こんな弾けた感じの奄美さんは初めて見た。


 ワイワイ楽しんでる俺と奄美さんを見て、八丈先輩が俺に話しかけてきた。


「なあ佐渡。お前、彼女いるのか?」


 突然なに?


 一瞬場が凍りついた。

 竹富はフリーズしてる。

 だけど奄美さんは──


「もうなに言ってんのよ八丈君! こんな素敵な男性に彼女がいないわけないでしょ! ねぇ、佐渡君!」


 うわ、なにを言い出すんだよ奄美さん。

 ここで小豆あずきのことをカミングアウトするのはマズくないか?


 竹富は嫉妬に狂いそうだし、八丈先輩には茶化されそうだ。


「ほぉ! どんな子なんだよ佐渡」


 ほら、興味津々な顔してる。

 ヤベ。


「えっ? あ……いや……」


 どうしよう。困った。


「そんなの内緒だよ八丈君。ねっ、佐渡君!」


 あ、腕にしがみつかないでください奄美さん。

 俺を覗き込む顔が赤い。

 もしかして、かなり酔ってんのかな?


「ええっ? なんでみどりだけ知ってんだよ?」

「それはね……ん〜内緒。ね、佐渡君!」

「あ、はい……」


 奄美さんは俺の耳元に口を近づけてごにょごにょと。


「香川さんのことは内緒にしとこ。その方が無難だから」

「そうですね」


 俺も声をひそめて答える。

 俺たちが内緒話をしてるのを見て、八丈先輩は焦った顔をした。


「ま、まさか……佐渡の彼女ってみどり……?」

「さあ、どうかなぁ。ね、佐渡君」


 ちょっと待って。

 それってまるでホントに奄美さんが彼女みたいに聞こえますよ!


 そんな勘違いされたらえらいことになる。

 ほら竹富なんか、青ざめて完全に凍結してる。

 パーフェクトフリーズ状態。

 ヤバいって!


「いや奄美さん。冗談はやめてくださいよ」

「そうだねー 冗談だよねぇ。ね、佐渡君っ。うふふ」


 だから。

 冗談じゃないように見えるその態度。

 やめてくださいよ。


 八丈先輩と竹富が、とうとう呆れたような顔してる。大丈夫かよ?


 二人に申し訳ない。


 ──と思ったら二人で会話し始めた。


 これ以上突っ込んだら、なにかとまずいと思ったのかもしれない。


「あ、八丈さん。これ美味しいですよ」

「ホントだね。祐子ちゃん、こっちも旨いぞ」

「ホントだぁ」


 しかも結構笑いも出てるし、楽しそうな雰囲気だ。

 無理矢理取り繕ってるのかもしれないけど。


 でもちょっとホッとした。



 飲み会は途中から、八丈先輩・竹富カップルと奄美さん・俺コンビに別れて会話をする感じになった。


 八丈先輩と竹富も、せっかくの美味しい料理を無駄にしたくないようだし、とにかく飲み会を楽しもうとする態度が見える。


 修羅場になったらどうしようとヒヤヒヤしたけど、とりあえずは収まってよかった。



***


 飲み会が終わって店を出た。


「えっと……みどり、一緒にか……」

「そうだ八丈君。竹富さんをちゃんと家まで送ってあげてね!」

「あ……ああ、わかった」


 きっと八丈先輩は奄美さんと一緒に帰ろうとしたんだろう。

 だけど奄美さんの機先を制するセリフで、思わず同意してしまったって感じ。


 竹富はちょっと恨めしそうな目で奄美さんを見たけど、この人には敵わないと思ったんだろう。

 素直に受け入れた。


「じゃあ八丈さん、よろしくお願いします」


 そう言って二人で帰って行った。

 俺は奄美さんと二人で駅まで歩く。


「今日はすみませんでした。竹富から俺を守ってくれたんですよね?」

「まあね。香川さんのことを考えたら、竹富さんの攻撃から佐渡君を守らなきゃだからね」


 やっぱりそうか。


「でもあんなこと言ってよかったんですか? まるで奄美さんが俺の彼女みたいに言っちゃって」

「そうは言ってないし、嘘はついてない」

「そりゃそうですけど。でも二人とも、完全に勘違いしてますよ」

「あはは、そうだね」


 なんでそんなにあっけらかんと笑ってるんだ?

 俺の彼女だと勘違いされるなんて、奄美さんにとっちゃ嬉しくないだろ。


「八丈先輩は青い顔してたし、ちょっと申し訳ないです」

「ん……実は八丈君、あれから何度か『やっぱり付き合ってくれ』って言ってきたのよ。その度にきっぱりと断ってるのに、全然諦めてくれないのよね」

「そうなんですか!?」


 あまりのしつこさ……いや熱心さにびっくりだ。


「だからこれくらいの荒療治した方が、彼も諦めてくれるかなって思ったのよ。それがホントに彼のためだと思う」


 心配りのできる奄美さんが、八丈先輩の前でなんであんな態度を取るのか疑問だったけど。

 そういう事情があったんだな。


 でもそれって……


「奄美さん。それならこれからも、八丈先輩に勘違いさせたままでいるつもりですか?」

「うん、そうだよ。そうすれば竹富さんも佐渡君に手を出しにくいだろうし一石二鳥でしょ」

「ま……マジっすか?」


 なんてことを言い出すんだよこの人。


「あと半年ちょっとして受験が終わったら、香川さんも塾を辞めるでしょ。そしたら佐渡君も堂々と彼女と付き合えるし。それまでは私を隠れ蓑にしてくれたら、塾でも問題起きないし。一石二鳥どころか三鳥だわ」

「いや、そんなの奄美さんに迷惑かけるからダメですよ」

「香川さんには佐渡君からちゃんと説明してくれたら、私はなんの問題もないよ」

「いやいや。奄美さんほどの素敵な女性が、俺と付き合ってるって誤解されるなんて、問題あるでしょ」

「誤解されるのが問題? なんならホントに付き合っとく?」


 ──え? なんだって?


 いや、そんなことあり得ないし。

 またいつものからかいだよな。


「ダメですよ奄美さん。そんな冗談言っちゃ」

「ああーっ、ドキドキしなかったか残念! さすが両想いの可愛い彼女ができると違うねぇー」

「な、なに言ってんすか」

「ああ、ついこの前までそんな冗談を言ったら、佐渡君はどぎまぎしてたのになぁ。可愛かったのになぁ。お姉さんは寂しぞっ」


 いやあの。ほっぺを指先でツンツンするのやめてもらえますか?

 恥ずかしすぎる。


 それとそんなに拗ねたような顔しないでください。

 冗談だとわかっててもドキドキするから。

 この人ホントに可愛いな。


「とにかく香川さんが塾を辞める時まで、八丈君と竹富さんの誤解を解くのは置いときましょう。それでいいよね?」

「まあ、奄美さんがホントにそれでいいなら」

「はいっ、じゃあ決まり!」


 なんか変なことになっちゃったなぁ。

 でもそれが俺にとっても奄美さんにも都合がいいなら、まあいいか。

 小豆にはちゃんと説明しとかなきゃな。


 そんなこんなで俺の二十歳はたちの誕生日は、一生忘れられない一日となったのである。

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