【11:応急処置をする】
「君たち大丈夫か?」
「あ、八丈先輩。どうやら足首を痛めたみたいです」
「おうそっか。どうだ? 立ち上がれるか?」
「は、はい。ありがとうございます八丈先生」
八丈先輩が手を伸ばして、小豆もそれを握ろうと手を伸ばしてる。
「あ、こら待て。立ち上がるな。このまま無理に歩いたら、傷が悪化するかもしれない。応急手当てするから座っとけ」
「大丈夫だから……」
「そうだよ佐渡。本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろ?」
「いえ。捻挫の応急はすぐにできますから待ってください。無理して万が一悪化したら後悔するから」
「そ、そういうもんか?」
「はい。俺は高校時代部活やってたから信用してください」
「ま、そういうことなら……」
八丈先輩は納得してくれたけど、なんだか小豆が不満顔だ。チラチラと八丈先輩を見てる。
あ、そっか。せっかく憧れの八丈先生と手をつなげるところを俺が邪魔をしたってことだな。でも今はそんなことより、身体の方が大事だ。
「佐渡君、はいこれ!」
「え?」
振り向くと奄美さんが救急箱を手にして立ってた。
「生徒が階段で転んで捻挫したみたいって、言いに来てくれた子がいたからね」
「さ……さすがっす奄美さん」
いやもう感動的なくらい気配りができる人だ。
ありがたい。
救急箱を開ける。
湿布薬にテーピングテープや包帯。
必要なものはひと通りあるな。
「奄美さん。あとサンダルを片足分用意してあげてください。テーピングすると靴が履きにくいので」
「らじゃあー」
奄美さんは可愛く敬礼して走り去った。
いや、ホント美人なのに可愛い人だよな。
「さて……」
小豆の足首を持って、靴と靴下を脱がせる。
「いや、待って!」
「嫌だ。待たない」
小豆の足首に湿布を貼って、テーピングテープをぐるぐる巻いて固定していく。
「んもう、触らないでよ。嫌だって言ってるじゃん」
手元が狂ったらどうすんだよ。
「うるさい! 気が散る! 黙っとけ! お前のためにやってるんだっ!」
憧れの八丈先生の目の前で俺に手当てを受けるのは気が進まないかもしれない。だけどすぐに終わるから、それまで大人しくしといてくれ。
「ふぁ、ふぁい……ごめんなさい。ありがと……」
──ん?
なんだ小豆のヤツ。
急に気の抜けたような声を出しやがって。
顔を見たらさっきよりさらに真っ赤だ。
熟し切ったトマトみたい。
よしよし。何も文句を言わずに黙ってるな。
でもちょっと強く言い過ぎたかな。反省だ。
「だって……恥ずかしいもん……さっきからちゃんとお礼言えなくてごめん」
「ん? なんだって?」
「な、なにも言ってないから! 気にしないで」
何か小声でぶつぶつ言ってたよな?
よく聞き取れなかったけど。
「よし、これでいい。しっかり固めたから、痛みはマシだと思う。だけど治ったわけじゃないから無理すんなよ。ゆっくり歩け」
「あ……うん」
奄美さんが持ってきてくれたサンダルを片足に履かせてあげた。
八丈先輩はそれまで黙って状況を見てたけど、ホッとした顔をした。
「まあひと安心だな。じゃあ俺はこれで」
「あ、ちょっと待ってください八丈先輩」
「ん?」
「彼女の手を引いて、立たせてあげてくださいよ」
「あ、そうだな」
「いや、いいから……」
「遠慮すんなよ小豆。ほら」
憧れの八丈先生の手だぞ。
さっき手を繋ぐのを妨害したことは、これでチャラにしてくれ。
「どうだ?」
「あ、うん……ほとんど痛くない」
自分の足で階段を数段降りても、ふらつきもないし痛みに顔を歪めることもない。大丈夫そうだな。
「よかった。骨折は大丈夫だと思うけど、帰ったら念のため医者に行けよ」
「うん、わかった。ありがと」
「どういたしまして」
「あの……」
「ん? まだなんかあるのか?」
「銀は……身体大丈夫?」
「おう。こう見えても頑丈だからな。心配すんな」
「よかった」
「じゃあ八丈先輩。駅まで彼女を送ってもらえますか?」
「お、おう。わかった」
「いや、いいからいいから!」
「せっかくの機会だ。遠慮すんなよ小豆」
──って、八丈先輩に聞こえたら恥ずかしいだろうから、せっかく耳元で小声で言ったのに。
「ほんっとにいいから!」
小豆は頑なに拒否って一人で帰って行った。
遠慮するなんてらしくない。
俺には遠慮なんかしないくせにな。
まあでも……ギャルとはいえ女の子だ。憧れのイケメンには、しおらしい姿を見せるってことか。
ふぅーん……。
まあいっか。
あ、ところで。
さっき小豆のヤツ、なにげにまた俺を『銀』って一文字呼び捨てしやがったな。
馴れ馴れしすぎるだろ。言っても俺は2歳も年上なんだぞ。
やっぱ俺、ギャルに舐められてるんだなぁ……。
 




