97. 棚作成の名目
「おはようございます!」
職場になるはずのドアを勢いよく開ける。
何かに当たった?
ドアの裏側をそうっと見ると、寝転がって眠っている人を発見した。
「タナーさん? 大丈夫ですか?」
床に寝転がり、起きる気配がない。
「どうしよう」
私の後から入ってきたのは、クロード、キャルム、黒猫だった。
小さな工房なので、三人と一匹が入ってくるといっぱいいっぱいになる。
誰かがくしゃみを始めた。花粉症みたいにひどい。
床に寝転がって、猫と同目線にいるタナーさんから聞こえてきた。
「猫、はっくしょい。猫、外、くしょい」
どうやら猫アレルギーみたいだった。
カイを抱き上げて、外に出す。
外に出た瞬間、人間に変身してお店の中に入ろうとする。
「カイ、今日お仕事だよね?」
「どんな奴か見ないと安心できないからな」
カイのドアの開け方が勢い良すぎて、まだ起き上がったものの立ち上がっていないタナーさんにドアが当たった。
「あ、すまん」
かなり不興を買ったみたいで、寝起きで機嫌が悪かったせいもあるのか睨まれた。
「弟子入り禁止」
「ええ! 昨日はとりあえずよろしくって」
昨日の乱闘事件はなかったことにして、スルーしてみる。
「大人数は店に入りきれない。それに君たちは何なんだ!」
「真由の付き人、クロード・クロフォードです」
「真由の護衛のキャルム・ブラウンでっす」
「真由の恋人、カイ・キヌヅカ」
後ろからカイに抱きしめられたと同時に拳に力が入る。
カイより頭ひとつ分高いクロードがカイの耳を引っ張る。
「痛い。痛いって」
「余計なことをするな。さっさと仕事に行け」
カイの耳を引っ張りながら、片手でドアを開ける。
外に出ると同時にクロードとカイがにらみ合っている。
かなり戦いなれているクロードに分があることぐらい、カイはわかっている。
適当なところで逃げ出すだろうと思って放っておく。
「いや、自己紹介しろってことじゃない。ひとりで来れないなら出ていけ。棚の分はきっちり払ってもらうからな」
やっぱり請求された。
ここまでくるとなかったことにはできないので、謝罪をして許してもらうしかない。
「昨日はすみませんでした。損害分はきっちりお支払いします。森の近くで、町に近い場所にベッドとキッチン付きの部屋を間借りできるところはないでしょうか?」
ここで部屋を間借りできないか聞くのには、理由がある。
ひとつは同情を引くため、もうひとつはクロードと来た理由付けに使うためだ。
彼は少し気難しい男かもしれないが、人でなしではない……と思う。
「知らない」
「訳があって宿無しなんです。今、親戚のクロードの家にお邪魔しております。彼は心配症なので付き添ってきてもらいました。キャルムは、今日、町を案内してもらうことになっています。打ち合わせがまだだったので、ついてきてもらいました。キャルムはこちらに用事があるんですよね。そのついでです」
「それで? 恋人は来る必要があったのか?」
否定すると、かなり説明しないといけない。
それは得策でないと思い、恋人設定はそのままにする。
「ああ、彼はタナーさんとは初対面なので、ご挨拶したいと言っていましたので、それに……」
窓の外をちらりと見ると、カイが黒猫に変身して逃げるところだった。
「もう帰ったみたいです」
笑顔を無理やり作る。ここは正念場だ。失敗すると職なしになってしまう。それだけは避けたい。
「キャルムに関しては、結構何でもできます。昨日、壊れた棚を直したいと言っていました。今日木材を仕入れてきます。明日から棚の修理にクロードと二人で取り掛かります」
これで二人と一緒に来た名目が立った。
タナーさんが急に手のひらを返したようにして、にっこりと笑った。
その笑顔を理由がわかるのは、少し後になってからだった。




