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85. 罠

 馬がいななく声と共にフェアリーハウスの前で馬車が止まる。

 御者台から降りてきた御者が馬車のドアを開けてくれる。

 彼の手が差し伸べられ、その手を取り、地面に着地する。


「ありがとう」


 お礼を言うと、何か言いたげにずっと手を握られた。


「心配そうな顔ね。どうしたの?」

「お嬢様、こんな奴と噂になって」

「待って、こんな奴って?」

「クロードとのことに決まっていますよ。メイドたちの間で噂になっています。事実無根なのは知っています。そんな腹黒い奴との噂なんて、お嬢様には似合いません!」


 力強く否定してくれた。かなり心配してくれているのが伺える。

 なるほどということは、クロードと私が恋仲だと勘違いしているのは、アンナだけではなかった。アルベルト様は噂を知っていた。ご当主も知っている可能性が高い。


「私たちは、誰かの罠にはまったのかもしれない」

「真由、どういうことだ?」

「クロードと私のことが噂になっていたということは、もうすでにアルベルト様もご当主も噂を知っていた」


 考えろ。なぜあの時、クロードは笑っていたのか。笑う場面ではなかった。自分の解雇が言い渡されたとき、あの動作は不自然だった。


「クロード、なぜあの場面で笑ったの? あなたの思い描いた結果と違っていて面白かったから?」

「まあ、そうですね。意外な方向に物事が進んで」


 認めた! 仕掛けたのはアルベルト様かご当主なのか。アルベルト様からもらった手紙には、二週間の間に娘と認めてもらえるようにとあった。物事通りに事が進んだのは、ご当主の方だ。二週間を待たずして、屋敷の外に放り出せた。

 コスツス伯爵も一筋縄ではいかない。父かもしれない人だよね。娘だとは微塵も思っていないのがわかる。マーガレットは、母から娘だと認めてもらえなくても、ちゃんと父からは大事にされていた。この洋館も彼女のために建てられている。

 クロードが思い描いたのは、違う未来だったけど、屋敷を追われても面白いと思っている。アルベルト様は屋敷を追われるのは嫌いな人だから、彼はそんなへまはしない。もっと用意周到に準備する。それに「コスツス伯爵は甘くない」とも言っていた。私が追い出されることも考えていた。いや、わかっていたのかもしれない。

 それでも計画を推し進めたのは、あの時に言った言葉がすべてだ。


「面白そうだった」


 嘘は言ってはいない。

 クロードをお使いに出す前に考えついている別案件ください。涙ながらに訴えたいがアルベルト様を喜ばせるだけだ。

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