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78. 影の功労者

「カイのお許しが出たことだし、それにその方法しかないと彼は思っているようだから、僕がお手伝いしてもいいよ」


 にっこりとした王子様スマイルが余計に不安を掻き立てる。


「えっと何をしたら……」

「真由は偶然を装いコスツス伯爵に会うことだね。カイ、君はその場に居合わせない方がいいけど、黒猫一匹ぐらいだったらいてもいなくても問題なしだと思うけどね」


 遠回しに黒猫になってスタンバイしておけと聞こえる。


「じゃあ、決行日は明日ということで用意をしておいてくれ」

「早くないですか?」

「二週間だよね? 君に与えられた時間」


 三日間、セオと過ごして山を下りてきた。二日間、アルベルト様に頼むのか頼まないのかの押し問答をして過ごしてしまった。残す日数は、九日間となっている。その可能性を試してみて、ダメだったら、次を試すということをやらないといけない時期にきている。

 ぐっと唇を噛む。迷ってはいられない。やるかやらないのか、今選択するのだ。


「やります」


 自分の決意を言葉に出し表明する。

 アルベルトは、その言葉を待っていましたとばかりに唇が片方だけ上がる不敵な笑みを浮かべた。


「君にしてはいい返事だね」


 この人の言いなりになって動くのは正直面白くない。だが、他に選択する余裕がない。これしかないのだったら、全力で挑むしかないのではないか。


「さてとクロードを借りるよ。クロードに使いに行ってもらわなくてはいけなくなったからね。彼にとっては過酷な旅になるだろうね」

「一体何を?」

「そこ聞いちゃうの? うーん。どうしようかな。聞かない方がいいと思うけどな」

「真由、聞かない方がいい。行こう」


 カイから腕を引かれて、渋々後についていく。

 

「ここに来て五年だ。大体の予想はつく。俺たちの計画を実行しようというのなら、アルベルト様がまず手紙を書く。それをクロードが先方の屋敷に持っていく。明日といういきなり不躾な手紙だが、先方は応じるしかない。大きな貸しがあるからな」

「クロードは馬に乗って?」

「そう、奴が一番骨を折ることになる」


 クロードのいつものすました顔が崩れる瞬間を見てみたいかもしれない。これは貴重な体験だ。

 アルベルト様が手紙を渡す瞬間を見ていたけど、彼の顔は崩れることはなく、普通の顔をしてコートを羽織ると出て行ってしまった。


「ああ、クロードは常にアルベルト様の用事を請け負っているからな。慣れてるけど、今頃馬に乗りながら盛大なため息ぐらいついているかもな」

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