70. 未確認のフェアリー本
「なぜ、その恰好なのですか?」
クローゼットを開いて着替えているところを見つかってしまった。メアリーの低い声は珍しい。
「セオと山へ行ってきます」
「ドレスはどうしたのですか?」
「ドレスで山は登れないから、これがいいんだって、それに囚人服じゃないし」
「異世界の服というのは理解しています。その収縮性を研究する前にボロボロになりそうで心配なのです」
あれ? そっちの心配?
もっとこう違う言葉で問い詰められると思っていた。そう思って、ちらりとメアリーの顔を見ると、険しい表情がこれから起こることを物語っている。
先手必勝!
「破かないように気をつけます」
「そのような恰好では」
メアリーが何かを決定してしまう前に走り去ることに決めた。
黒い足元まであるドレスにエプロンの彼女とスポーツウェア姿の私では、どちらが有利かは一目瞭然だ。
「ごめんなさい。あとで聞く」
「真由!」
台所に行くと食料調達中のセオに会った。食料調達というから街まで行けるのかと浮足立っていたら、すごくご近所だっただけに悲しい。
「セオ、早く行こう!」
「まだ待て。足りてない」
「ダメなの。今出ないともう山に行けない。メアリーがすごい形相で追ってくるの」
「おっとじゃあ、ここまでで三日後また来る。バートン、それまでに例の物揃えておいてくれ」
「了解っと。嬢ちゃん、本当にこいつと行くのか?」
「うん。行ってくる」
「あとでカイ向かわせるからな」
「え? 何で?」
「セオ、男として見られていないぞ」
「まあ、しょうがないよな。その手についた約束の印があるってことは、カイと恋仲ということだろう?」
「複雑な事情でな。一方通行かな。今のところ」
「ほう? それはまた珍しい」
小さいお屋敷だ。すぐにメアリーが扉向こうまで来ていることはわかっている。
「セオ、早く!」
「畑のハーブも少々もらっていくぞ」
勢いよく裏口の扉を出ると、セオがハーブを選んでいるのがもどかしくて先に走っていく。
森に向けて走っていくと、また妖精の国に帰りたいような気持ちになりそうで、少し止まって彼を待つ。フェアリーハウスの様子を伺いながら、メアリーが追いかけてこないか様子を見ていると、スーツ姿で走り込んでくる人を見かけてしまった。思わず森の木の後ろに隠れる。目の前をすごい勢いで走っていくクロードの姿をごめんなさいと思いながら見送る。
どうしても伯爵家の書庫に未確認のフェアリー関係の本を確認したい。
きっと壁中にたくさんの書物がある様子を思い浮かべると顔がにやけてくる。
三日間は、読書三昧の生活を楽しめそうだった。




