65. 幼馴染
アンナの顔が見る間に真っ赤になった。
「一体何なのよーっ! あなたたちの関係は?」
「え? 幼馴染じゃないの?」
その言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
咳ばらいをひとつ。それで少し落ち着いた様子で話し出す。
「そうね。ただの幼馴染よね。小さい頃に一緒に遊んだ」
「アンナは覚えているの?」
「え? 覚えていないの? こんな印象的な子を?」
「印象的?」
確かに銀色の髪とダークグリーンの瞳は目立つ容姿だが、それ以外に何か心に強く残るようなことがあっただろうか。
「こちらが優しくしていたら、無視されて面倒くさそうな顔をしていて、一緒に仲間に入れたら、ひとりだけ木登りして遠くを眺めていた。ひとりでいることが多かったわよね。だから、あなたたちがそんなに仲良しなのが不思議なのだけど」
あれ? 私の中の男の子と印象が違う。私の中のあの子は、いつも泣いていた。
クロードを振り向くとさっと視線をそらせた。目線を合わせようと視線をそらせた方に移動をすると、また違う方向を向いてしまう。それを何回か繰り返した後でわかったことがある。私の中のクロード像は、作られた彼の姿だったのだ。面倒くさそうな顔をして、遠くを眺めているのがどこか彼らしく思えた。暖炉の側で暖めてもらったときに体中の傷を見てしまったのと、小さな彼が泣いていた姿が重なってしまっていた。
「今、泣いていないならいいの」
そっぽを向いている彼の耳が少しずつ赤くなるのがわかった。彼の背中を優しく二回触るとアンナの手を握り、応接間に向かう。
「アンナ、お茶にしよう」
「お姉さまでしょう?」
「お……アンナ」
「……」
廊下で黙ったまま、見つめ合う。
「そうよね。マーガレットは、頑なな子だった。自分の思った通りにしか動かない子どもだった。あんなに素直な子じゃなかった」
頑なな子はきっと私のことだ。素直はマーガレットのこと。
「また会いに来てくれるといいね」
「お茶にしましょう。さあてかなり厳しく行くわよ。明日は本番だし、時間がないわよ」
お茶の時間がくつろぎタイムだと思っていたのは、私だけだった。お茶の作法を叩き込まれることになろうとは、思いもよらなかった。
誰なの。お茶の時間をとってくれたアンナに感謝しながら、気晴らしと思った人! それは自分だった。
いつになったら、この特訓の時間が終わるのかわからないまま、時間は過ぎていく。お茶のおかわりを持ってきてくれたメアリーにうるんだ瞳で視線を投げかけたが、頑張れというような胸の前でガッツポーズを作り、ウインクをひとつ残して去っていった。
美容と健康に悪そうな時間まで特訓は続き、ベッドに入ったのは夜半過ぎ、寝不足のまま朝を迎えた。化粧しても消えない目の下のクマをどうしてくれるのと思いながら、朝食の席に着く。アンナもてっきり目の下にクマを作っていると思ったのだが、彼女はできない体質らしく、同じ姉妹なのにこうも体の作りが違うのかと違いを突き付けられ、ショックを隠し切れない朝になった。




