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60. おかえりなさい

 私はこの世界へ呼ばれたと思っていた。

 もし、仮に私がマーガレットだとしたら、この世界へ呼ばれたのではなく帰ってきた。

 あちらの世界で、いろいろなこととお別れをしなければならなかった理由が、元々異世界の人間だったからなのか。

 お父さん、お母さん、ぷく、ごめんなさい。私が原因だった。


「真由、誰かとお別れした理由が自分のせいだと思っているなら違うからな」

「違わない。きっと私がいたからうまくいかなかった」

「真由がいたから、幸せになった人間だっている」

「いない。もういないの。どこにもいない」

「いる。まずは俺! 次にメアリー、バートン、アンナ、ついでにアルベルト様とクロード」


 涙が流れそうになり、唇を噛んで、そっぽを向いていた私を無理やり、自分の方に向かせる。

 カイの笑顔、周りをゆっくりと見回すと、みんな笑顔で私を見ている。


「真由、おかえりなさい」


 メアリーが泣き笑いになりながら、抱きしめてくれる。人の心の温かさは、急に冷えてどうしようもないときに胸を包んでくれる。暖かい毛布にくるまって、温かいココアを飲んだような気分だ。


「嬢ちゃん、おかえり。ここがふるさとでよかったな」


 バートンさんが料理の手を止めて、長いエプロンで手をふきながら、少し濡れた手で頭をなでてくれた。髪が濡れた気がするのは気のせいではないだろう。


「マーガレット、いいえ真由? おかえりなさい。まだ納得はしていないけど、たまには、一緒にお茶してもよくてよ」


 そっぽを向きながら、赤い髪の持ち主は、ちらりと真由を見つめる。


「アンナ、私はここにいてもいいの?」

「あなたは私の妹でしょ。どこか知らない場所に行くのは私が許さないわ」

「君には大いに役に立ってもらわなくてはいけないからね」


 二階から聞こえてきた言葉に反射的に顔を見てしまった。聞こえないふりをした方がよかったことに後悔しながら、反応をしてしまった自分を呪った。今後、アルベルト様とは距離をとった方がいい。


「マーガレット、おかえりなさい」


 壁に寄り掛かりながら、エイヴァが姿を現した。

 彼女の側にいき、手を伸ばして体を支える。


「エイヴァ、大丈夫なの」

「大丈夫よ」

「でも、私はマーガレットではないの」


 エイヴァはマユの顔をよく見るように自分の手と手でそっと包み込んだ。エイヴァの手の暖かさが伝わってきた。


「そうね。あなたは、あのマーガレットとは別人ね。姿形はよく似ているけど、違う人。でも、小さい頃に遊んだのは、あなたのような気がするわ。あなたは花のように明るく笑うけど、マーガレットはどこか寂しそうに笑うの。だから、ほっとけないのよ。側にいないとどこかに行ってしまいそうな危ういところがあった」


 中庭で話していたので、やはり屋敷全体にわかってしまった。

 最初から誰かに宣言をするように、この場所を選んだ。

 無関係でないからと言って、強引に誘われた理由もこれならわかる。


「マーガレットが言っていたの。私は帰りたくても彼女が帰ってこないと帰れない。だから、私は私を忘れることにした。故郷を恋しいと思ってしまうからと言っていた。何のことだかわからなかったけど、今やっとでわかった。マーガレットはやっとで自分の帰る場所を見つけたのね。よかった」


 風がその言葉を攫っていくようにして、中庭を吹き抜けた。

 壁に囲まれた場所に吹いてきた突風を不思議そうに思っていたら、妖精たちの笑い声がかすかに聞こえた。

 エイヴァの言葉は、きっとマーガレットに届く。

 いたずらな妖精がきまぐれに起こした風に乗せて、彼女の耳に届けてくれる。



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