53. 家の立地条件
エイヴァのことが心をよぎる。
この人は、エイヴァとも知り合いのはずだ。
彼女をあんな目に合わせたのは、こいつだ。
「エイヴァをあんな目に合わせて許せない!」
その一言は、効果を持った。
「あの娘を使って正解だった。本物だ」
その一言にエイヴァを使ったのは、本物かどうか見極めるためだったのか。
それだけのために彼女は利用された。
悔しい思いで涙が流れる。
「連れていけ」
彼の隣にいた二人が私の腕を取り、なぜか店の奥に連れていく。店の奥にある裏口が見えた。
裏口からどこかへ連れて行かれたら、もう二度とこの国へは戻れない気がした。
怖い。そう思って足取りが重くなる。
「早く歩け」
座り込もうとすると無理やり立たされて引きずられるようにして歩かされた。
裏口の扉が開く。
「後始末は……」
後始末はの後の言葉がわからなかったが、隣のフードを被った男が分かったという風に手を挙げた。
その言葉を頭の中で繰り返す。
この家の立地条件を考えた。
彼らはここで捕まることを考えていなかった。逆に彼らをひとりも帰さないために口封じのための家だったのだと気がついた。彼らには姿を見せていない仲間がいるはずだ。そいつらが表の通りも裏通りも塞いでいる。
それを考えたら、体が震え出した。
中にいるみんなはどうなるの? お金をもらってさようならにはならない。あの傭兵の人だって、旅を続けられなくなる。みんなは全員殺されて、明日おはようの挨拶もできない。
「いやーっ!」
その声と同時に小さな精霊が呼び出された。
その精霊は炎を司る。小さいのに威力は絶大。
挨拶代わりと言わんばかりに、手を掴んでいる二人のマントを焦がすようにして炎が燃え上がった。
二人は慌てて手を離した。自分のマントの炎を消すのに夢中だ。
「サラマンダー、力を貸して」
「おうよ」
通りの向こう側にいる人が集まってきた。
手にはたくさんの武器を持っている。
「みんなこちらに来ない程度に焦がしてあげて」
おそろいの黒いマントが焦げる程度に炎を調整してくれたみたいだった。みんな黒いマントを脱ぎだす。
これで黒マントの下がわかるというものだ。
「げぷ」
サラマンダーが満足そうな顔をしている。
「ちょっと何を食べたの! 私の心?」
「みんなを守りたい気持ちを少々、残したから気持ちは残っているよな」
「食べないでお願い」
涙目になりながら、お願いするが、サラマンダーには通用しなかった。
「後から後から湧き上がってくる思いは好物だ。いただきまーす」
サラマンダーの声は、私にしか聞こえないから、奇妙に見えたみたいだ。
肩のサラマンダーが見えない人には、妖精と会話しているようにみえるらしい。
「妖精だ。妖精」
その声に拝む人まで出てくる始末。この後始末をどうしよう。




