表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/129

52. 瞳の色

 路地裏の小さな空き家はドアが壊されていた。

 お店だったのか、棚がたくさんあり、取り残されたテーブルと椅子には蜘蛛の巣が張り巡らされている。

 かび臭いにおいと壁の崩れ具合は、しばらく誰も住んでいなかったことを示している。

 無法地帯の明らかな不法侵入、この地区は治安があまりよくないのか。

 少し薄暗くなりかけた道のため、それも確認できないでいた。


「アルベルト様」


 やめましょうよと言う弱音を吐こうとした。

 

「ちゃんと役目をこなしたら、店をひとつ君にあげよう」

「店?」

「あれ? 貴族の令嬢役をこなすことに少し戸惑いがちの君がやりたいことは、こっちかと思って提案したのだけど? 外した?」

「その提案、のりました」


 この依頼が終わったら、自由に生きるのもいいなと思っていたところを突かれた。

 本当だ。相手の欲しい物を目の前に出すとは、このことかと身をもって体験した。

 

「本当にこの場所なのか?」

 

 バートンさんの疑問はもっともだった。

 路地裏の薄暗い場所なのはいいのだが、この家は行き止まりの道の一番奥にあった。

 逃げるのには適していない場所だった。


「ここです。間違いありません」


 傭兵をひとり、案内役として連れてきていた。

 相手に寝返ることがないと言っていた。

 でも、それさえもあやしく感じる。


「そうか。ではここで待つしかないな」

 

 ため息と同時にバートンさんは壁に寄り掛かる。

 クロードは、あちこちを探索しだした。

 レイナは、私の隣でフードを目深に被ったまま、動かない。

 アルベルト様は注意深く、あちこちに目線を向けているのがわかる。


 その四人が同時にひとつの扉に向かって視線を向けた。

 空気が変わる。

 

「ちゃんと連れてきたようだな」


 人数は四人。みんな黒いマントを纏っている。


 ひとりがまっすぐに迷わずに私の前に立ちふさがる。

 顎を掴まれて上を向いた格好になった。

 フードの下の顔には、戦場でできた傷なのか頬から横に向けて傷跡があった。

 ごつごつした手は、剣をいつも持って振っているかのような感じだ。

 背が高く、短髪の髪、男の特徴を掴もうと瞳に刻みこむ。

 光るような眼光、私は蛇に睨まれた蛙状態だった。

 心の端から端まで読まれているような嫌な気分になる。

 動け、私。がんばれ。

 条件がいいものほどリスクが高いということに嫌というほど感じる。お店をひとつ持てるという好条件にほだされるのではなかった。

 これは命に係わる問題だ。冷汗が背中を伝って流れるのを感じる。

 顔を思い切り背ける。偽物だとわかってしまうと殺されかねない。


「偽物ではないか?」


 疑問形の言葉に心臓が大きな音を立てた。


「瞳の色が違っているような気がする」


 図星だった。同じ色合いだが、彼女の瞳の色は、ライトブラウン。光が当たると金色に見える。私の瞳は、ダークブラウン。暗いところでは、さらに暗みを増して黒に見える。

 今、彼の目に映るのは、黒い瞳のマーガレットだ。


「この町で聞き込みをして情報収集をしました。お屋敷では屋敷の奥に大事に守られていましたから、間違いないと思います」

「俺と話をするときは、そちらはフードを取れ」


 傭兵をひとり連れてきて正解だった。彼はフードを取った。


「瞳が暗い色だ」

「光のあるところではないからでしょう」


 よし、うまいこと言った。

 でも、この人は、マーガレットを知っている人物。この人も貴族ということになる。

 近くで彼女を見たことがある人物。舞踏会で踊ったことがある?

 踊ると彼女の瞳の色合いもじっくりと見つめることができる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ