表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/129

49. 流木

「バートン、それは僕の仕事のようだ」

「アルベルト様」


 バートンがお辞儀をして、一歩下がる。


「アルベルト・デュフォン」


 男が呟いた。彼の名前を呟いた瞬間、語尾が少し震えていたのがわかった。

 そこから、彼がアルベルト様に恐れを抱いているのが伝わってきた。


「僕の名前を知っているようだね。じゃあ、次期当主が誰かも知っていてこの狼藉なのかな?」


 飛び切りの笑顔がこんなにも怖いと感じたことはなかった。

 アルベルトの笑顔がいきなり崩れて、男をじっと見る。


「し、知らなかったんだ。頼まれたんだ。この報酬が飛び切りよかったから、全員信者でも何でもない!」

「ほう? この依頼主は誰かわかるのか?」

「知らない」

「自分の依頼主を知らない? それがまかり通るとでも?」

「前払いだった。後払い金は別にもらう予定だった」

「これをどう処理するつもりだ? どっちにつく方がお得なのかわかるな」

「わかる。女を連れていけば、後払いでお金が入る。俺たちはただの流れの用心棒だ」


 どんな悪事を働いたら、ひとりの男がここまでおびえるほどになるのだろう。

 アルベルト様には逆らわないでおこうと胸に誓った瞬間だった。

 でも、さっきから何だろう。アルベルト様が私をじっとみつめているような気がする。

 話の流れからわかるだろうと言った雰囲気だ。

 ここは私が囮になりますと言うところだろうが、無理と言うしかない。

 

「用心棒がなぜそんな仕事をしている。人を守るのが仕事のお前たちが? なぜだ?」


 バートンさんの悲鳴のような声が聞こえる。胸の中で泣いているような悲痛な声。


「仕事が急に減り出した。この町に流れついたときはゼロと言ってもいい状況だった。だから、仕事を選べなかったんだ」

「そんな言い訳、聞きたいと思うのか?」

「同業者ならわかるだろう。今の状況がどんなものなのか」

「今は同業者じゃねえが、苦しい時でも俺は自分の信念を曲げなかった」


 バートンさんは彼らと同業者だった。流れの用心棒が彼の元の職業。それがなぜ料理人になったのだろう。


「ひとつの場所に落ち着いたらどうだ?」

「無理だ」


 バートンさんの提案をあっさりと撥ねつける。


「俺はひとつのところでは、満足がいかなくなっている。旅している瞬間が生きている感じがする」

「そうか。それがお前の生き方か」


 バートンさんは、ひとつの場所に落ち着くことを考えて、ここに流れ着いた。漂流していた流木が大きな広い砂浜に流れ着いた状態になった。それはどんな気分だったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ