43. ファーストフラッシュ
台所へ行くと紅茶を楽しんでいるカイさんの姿が見えた。
音を立てて心臓が声をあげる。この動悸は、好きだと言われて見ていてと言われて生じている動悸だ。自分に言い聞かせるようにして胸を押さえる。
振り向いたカイさんの顔に青あざができていた。
「真由!」
カイさんは、驚いた声を出した後に帽子をかぶったけど、誰によるものなのかは一目瞭然だった。
あのとき、誰にも見られないまま、無事にベランダを抜け出したのに私が声を上げたためにみんなに気づかれてしまった。カイさんの後を追いかけて行ったのはクロードだった。
帽子の上から、ポンポンと弾むように頭を撫でる。
「ごめんなさい」
帽子を勢いよく脱ぐと私の顔を見てカイさんは笑った。
「大丈夫だから」
笑ったのに目を伏せて、恥ずかしそうに横を向いた。
カイさんは、すれ違う時もあざを見られないように帽子を脱がずに通り過ぎた。その時に努力したことが水の泡となって消えてしまった。
それで拗ねているのかなと思って様子を見る。
メアリーが席を立って、ティーソーサーとカップを用意してくれる。バートンさんがお湯を沸かした後に紅茶を選んでいる。いつもすぐに紅茶を手に取って淹れてくれる彼にしては珍しく迷っている様子だ。
どうしたのだろうと思っているとメアリーが横に行ってこれがいいというように指をさした。
バートンさんが振り向いたと同時に目が合った。
「嬢ちゃんの好みでいくといつものアールグレイなんだけど、今日はスコーンに入っているから別のものがいいなと迷っていた。カイも同じ紅茶じゃつまらないし、さっき淹れたのと別となるとな」
そう言ってまだ迷っているような素振りだ。
メアリーが指さした紅茶の缶を手に取りながら、元に戻した。
「さすがメアリーお目が高いと言いたいところなんだけど、選んでくれた茶葉は値段がなぁ。いつもの普段使いの紅茶より高いとなると、こんないい物を飲んでいいのかなとか葛藤がな」
「いいの。これを飲みましょう」
メアリーのきっぱりとした口調にバートンさんの天秤が飲む方に傾いた。
「今日だけ特別な」
ウインクをするとティーポットに惜しみなくスプーン山盛りの茶葉を入れて、少し前に沸いて止めてあったお湯を注ぐ。少しぬるめのような気がする。いつもよりも時間を置かず、少し早めにティーカップに注がれる紅茶を見ていた。いつもとは違う香り、爽やかな瑞々しい感じがする。飲んでみるとすっきりとした味わいの若葉の木々のざわめきを感じる紅茶だ。
「ファーストフラッシュという早摘みの茶葉の味わいだ」
「いろいろな紅茶を試してみるのもいいですね。おいしい」
「それよりアルベルト様との対面は大丈夫だったか?」
えっと、このタイミングでアルベルト様と出会ったことを知っているということは、メアリーの顔を見る。メアリーは目をそらして下を向く。
そう言えば図書室に行くように勧めたのはメアリーだったと気がつく。
「ごめんなさい。真由。クロードに言われて」
本当にあいつは腹が立つ。身内のメアリーがどんな扱いを受けているかを知っていて、いやわざとか決心をつけさせたかったのか。あと私とアルベルト様を引き合わせることもしたかったとしか思えない。
感謝してもしきれない部分もあるけど、やはり腹が立つ相手だ。
思考が読めないのもかなり嫌な部分だ。




