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36. 羽衣

 次の日の朝、メアリーが持ってきたものは私が妖精の国でバスタオルだと思って巻いていたものだった。

 太陽の光に当たると七色に光って、とてもきれいな代物だ。


「何か高そうよね」

「白鳥の羽衣かもしれないとクロードと話していたところです」


 白鳥の羽衣とは初めて聞いた。お宝アイテムみたいな名前で冷や汗が出る。

 

「え? じゃあお宝を妖精の国から持ち出したってことになる?」


 アイテムゲット! って訳じゃなさそう。勝手に持ち出した責任を問われそうで怖くなる。


「そうかもしれません」

「どうしたらいいんだろう」

「ウィンターガーデンにいきましょう」


 メアリーの意図が読めずに後をついていく。食堂を抜けて中庭、その先にあるのは大きな温室だった。

 温室だからウィンターガーデン。何だか素敵な言い回しだ。

 木のぬくもりが感じさせられる建物。たくさんの窓ガラスがはまっている温室。所々にステンドグラスがはめ込んである。食堂から見えていたから気になっていた場所だ。お茶をしていたのかテーブルが置いてある。椅子は窓のところにあるウインドウベンチを利用していたみたいだ。クッションが置いてある。


「妖精王がお越しになっていた場所です」

 

 ウィンドウベンチは二つ。L字型に曲がって制作されている。その周りには蔦がたくさん生えている。

 

「ここに置いておけば大丈夫かと思います」

「妖精王は新月の夜に来ていた?」

「いいえ、結構頻繁に」


 そこで知ったのだった。いつの時期でも彼は頻繁に人間界に行けるという事実。約束をした日は新月の夜。その日に限定した訳を考えていた。

 その日までにやっておくことがある? 何だろう?

 メアリーに伝える。


「私にはさっぱり見当がつきません。でも、クロードなら何かを考えつくかもしれません」


 昨日からクロードとは顔を合わせていない。


「昨日のことで気まずい思いをされているのであれば、図書室があるので行かれてはいかがでしょうか。後でお茶をお持ちしますよ。スコーンも一緒に」

「ありがとう」


 メアリーと別れて、図書室へ向かう。その途中で部屋の中なのに帽子をかぶったカイさんと会った。

 自然と顔が赤くなる。

 どうしよう。帽子があれば、つばで隠せるのにと思いながらすれ違う。

 

「あのさ、真由」

「はい」


 下を向いていた顔をまっすぐに向ける。でも、彼の方を向けない。


「こっちを向いて」


 腕を引かれて彼の方を向かざるを得なくなった。帽子で彼の顔がよく見えなかったが、彼の方からは見えたらしい。


「元気そうで安心した。またね」


 頭を撫でられるとカイさんは台所へと向かう。

 もっと話しかけられると思っていたから、拍子抜けしてしまった。でも、この赤い顔を指摘されなくてよかった。

 心臓が熱くなっているのは、きっと昨日のことを引きずっているせいだ。

 そう自分に言い聞かせながら、図書室の両開きの扉をそっと開ける。

 入ると人とぶつかりそうになった。


「ごめんなさい」


 顔を上げて謝る。

 背がとても高い。百八十センチぐらいはありそうだった。金色の短髪に青い瞳、絵本の中の王子様が抜け出てきたような人だ。

 目を奪われる。


「本当にマーガレットによく似ている」



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