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33. 冒険の後の夜

「バートンがスープを作ってくれているみたいだったけど、今日食べれそうにない」


 そう言いながら、カイさんの視線の先が中庭を向く。私もその視線を追っていくと中庭のベンチに二人で座っている姿が見えた。二人は何かを話し込んでいる。とても聞けるような雰囲気ではない。

 あのスープは食べていいものだとは思うけど、バートンさんに聞かないと明日の朝の仕込みだと言われたら、今の時間から作り直しになる。それはつらい。


「今日はもう遅いから寝よう」


 さっきからあくびをかみ殺していたのを悟られたみたいだった。

 大事な話をしているのにと我慢していたのがわかっていたみたい。

 寂しい理由を聞こうとしたが眠気が一気にやってきて去ってくれそうにもない。

 目をこするのをやめられない。カイさんの手がダメだよというように目をこすっていた右手をやさしく握る。


「すごく眠そう」


 背中に手を当てて、手を繋がれて、引っ張っていかれるままになる。

 目をつぶると、心地のいいベッドの上にいるようなふわふわした感じで、一歩一歩足を前に出す。

 それに合わせて、ゆっくりした歩調で気を使いながら歩いてくれているのがわかる。


「今夜は冒険だったな」


 カイさんの言葉が夢の中で聞こえる。

 そうだね。いろいろあったね。もうダメかと思ったけど無事に帰ってこれてよかった。

 言葉には出していないけど、夢の中で返事をする。


「扉の前まで来たよ」


 扉を開ける音が聞こえた。そこで安心してしまったのか膝に力が入らなくなる。カイさんが支えてくれているのか床に崩れ落ちた衝撃はこなかった。 

 もうダメだ。眠い。崩れ落ちるように意識を手放そうとした。でも、寂しそうなカイさんの顔が頭から離れない。


「仕方ないな」


 お姫さま抱っこ? 足がふわりと浮いて宙をさまよっているみたい。


「うぉ、結構重い」


 目をつぶっているのに音だけがはっきり聞こえているような感じがする。

 ベッドがきしむ音が聞こえた。私の重みでスプリングが沈んだ音。

 足から靴を脱がせてくれる。

 

「真由、おやすみ」


 小さい子にするみたいに頭をひとしきり撫でるとベッドから離れる音がした。

 彼のTシャツの手の袖を掴む。

 目を開けたくてももう開けられなくて、半分開こうとするがすぐに目が閉じてしまう。


「……カイさん、手を握って」


 寝ぼけながらもやっとのことで伝えた。

 手を握ってほしかったわけではなく、ただ寂しそうな彼と手を繋いでいたかった。

 妖精の国で彼が見せた顔が思い出される。


「手を握っているからゆっくりおやすみ」


 いや、そうではなくて、寂しいときは寂しいと言ってほしい。そう言わないと伝わらないのにそう思いながらも瞼は重く、額にキスの感覚がしたような気がしたが、意識をすぐに手放した。眠さにはかなわなかった。




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