31. 答えは
正しい答えを見つけること、運命の人とは何なのか、自分なりに考えてみた。
答えがわからなくなってくると、義務感でみんなの頬を舐めてみる。
手当たり次第に老若男女問わずにいろんな人の顔を舐めた。
バートンとクロード以外の人という限定付き。いや、あいつら二人だけは、除外したかったかったし、舐める気にもならねぇ。
わかったのは、ひとつ。猫にはみんな優しい。抱き上げてぎゅっとしてくれる。抱き上げなくても餌をくれたり、追い払われるときもあったけど、それなりに自由を楽しんだ。
抱きしめてもらうということは、こんなにも安心する。人の心臓の音は、やさしい音。聞くと安心して眠る。これではまるで幼子のようだ。
黒猫の姿で真由と出会ったとき、最初はマーガレットだと思った。客間ではなく、マーガレットの部屋にいたし、彼女のドレスを着ている。
黒猫である俺に触ろうとメアリーのアドバイス通りに人差し指をそっと差し出した。小首をかしげて覗き込む仕草、大丈夫かな、引っかかれないかなとちょっと心配になりながら、指をそっと出しているのがよくわかる。かわいい物に触りたい一心なのが伝わってきた。何故か瞳が濡れているような気がした。その瞳に見惚れてしまった自分が急に恥ずかしくなり、もふもふの肉球で叩き落とす。黒猫でよかった。耳が熱くなっているから、きっと人の形をしていたら、顔と耳が真っ赤になっている。触られると胸の鼓動が伝わりそうで悟られないように声をかけた。
「久しぶりじゃねーか。マーガレット」
本人は、マーガレットじゃないと言い出した。
こんなよく似た他人がいていいのか。双子じゃないのだし、そう思って、顔が近づいたときにぺろりと頬を舐めた。マーガレットなら元の姿に戻らない。何か記憶をなくしたのか。そう思っていたら、昼間なのに元の姿に戻ってしまった。そこでようやくマーガレットではないということに気がつく。そう言えば、瞳が違っている。マーガレットの瞳は不思議な光彩をしている。彼女の瞳は黒に近い茶色だ。
マーガレットではないと知った瞬間、大きな音をたてて心臓がはねた気がした。
真由という響きを聞いたときに懐かしくて泣きそうになった。日本に帰れなくなって、帰りたいと思っている。
「ヘンゼルくんがいてくれたらなあ」
ヘンゼルとグレーテルのような帰り道はどこにもない。だが帰れる場所は見つけられそうだった。




