29. ツンデレ
「俺は大歓迎だけどな。メアリーと一緒なら、町はずれでも森の中でも」
メアリーを見るとぷいっと彼から顔を背けている。真っ赤な顔を見られまいとしている様子が見てとれる。私からも顔は見えないが首すじがほんのりと赤い。その様子もかわいくてたまらないらしく、バートンさんの顔が緩んでいく。顔を覗きこもうとして、拒否られている。
キッチンの空気がさらに暑くなった気がした。
「一緒に暮らそう」
メアリーの手を掴もうとして、彼女の手を握ることができなかった。席を交代してあげたかった。あからさまにそんなことをするときっとメアリーは嫌がる。メアリーの心もバートンさんにあるようだし、二人のことはそっと見守ろうと思う。
「普通にプロポーズ? バートン……」
カイさんがあきれた様子で、メアリーに悟られないように言葉を呑み込むと黙って中庭を指さした。
カイさんも気の利いたことをするものだと感心してしまった。私だったら、誰もいないところで口説いてほしい。
メアリーの側にいき、跪いて手を差し出した。メアリーも手を出さないと思っていたのだが、これ以上の羞恥に耐えられなくなったらしく、おとなしく手を出した。
バートンさん、メアリーが嫌なのは場所を選ばないで、いきなりプロポーズするところかもしれません。プロポーズしたらどうにかなると考えているのかも場所を選ぶように伝えた方がよさそうだった。
「さてとこれからを考えよう」
メアリーが座っていた席が空いたので、カイさんは私の隣の席に座りなおした。
「これから?」
「その手の印は消えない。だから、一緒にいよう」
「いやいや、そんな消去法じゃダメでしょ」
身を乗り出されて、長椅子の端っこに追いやられる。
息を吸い込むとカイさんが言った。
「好きだから一緒にいよう」
しばらく頭の整理をするのに時間がかかった。
「あの、ジェットコースターみたいな体験をしたからでしょう? 吊り橋体験でドキドキしたのを恋したのだと勘違いする」
「いや、違う。あれからしばらく時間が経っている。しまった! ある意味そのときに告白しておけば! いや猫だったし」
あの頭の中、駄々洩れなんですが、大丈夫でしょうか。
「とにかく吊り橋体験は、一緒にドキドキしたときにアプローチしなければ意味がない。俺の心臓の音聞く? すごいよ」
そう言うと私の頭をぎゅっと抱きしめた。バランスを崩してそのまま彼の胸へ倒れ込む。本当だ。心臓の音が少し早い気がする。
「猫になっているときに俺の背中にぽつりと何かが落ちてきた。何だろうと目をあげるとそれは涙だった。マユが泣くと俺も悲しい。痛みが体全体を走る。この気持ちは何だろうな。いつ育ったんだろう」




