28. 不幸中の幸い
「俺、異世界から来ました。黙っててすみませんでした」
「え? カイ、異世界人なの?」
「約束の印をつけなきゃいけないほど切羽詰まった状況だったのか?」
つめよる二人にカイさんの視線がどうしたものかと泳ぎはじめた。
「切羽詰まった状況かと言われるとそうかな?」
冷や汗が出ているよね。クロードには知られているので、この二人にわかるのも時間の問題だと思うのだけど、はっきりといいにくいのは確かだ。反省しているのもわかっている。
「マーガレットの手にしたキスがそんな意味を持つものだなんて知らなかったから」
「!!」
声もなく、二人が立ち上がる。状況が読めたのか二人とも顔を見合わせてため息をつきながら座った。
「カイだからね」
「いつか何かをやると思っていた。仕方ないのか」
何か言われているよ。カイさん。
「それより、カイ。マーガレット様でしょ」
小さい声でメアリーに注意を受けている。
「へいへい」
やる気があるようなないような返事の仕方にメアリーがため息をつく。
二人の視線が私の手に集中する。
「あと二人に話して置かないといけないことがあるの。私もカイと一緒の世界から来た異世界人です。黙っててごめんなさい」
「!!」
また二人ともまたしても声もなく立ち上がった。顔を見合わせると
「不幸中の幸いと考えるべきか? メアリー?」
「幸いと考えるべきね」
二人でわかる言葉で会話をしている。
ここで気が合っているねとか茶化すと追い出されそうなので口を噤む。
「どういうこと?」
「二人とも元の世界に帰らなくていい。だから不幸中の幸いってことだ」
「異世界の人はこちらで自分の仕事を終えると元の世界に戻ります。帰らなくていい場合は、約束の印を刻んだときだけです。二人がこちらの世界にいてくれてとても心強い。二人ともフェアリーが見えるみたいだし、このままここで一緒に働いてくれたら」
「いや、メアリー。そんな遠回しの言葉では伝わらないぞ。二人とも好きだからと言わないと伝わらない」
バートンさんの言葉にメアリーが照れた顔をしている。その言葉を紡ぐことが恥ずかしかったようだ。
バートンさんは、メアリーのことをよく理解している。
「このフェアリーハウスはマーガレットがいたから、妖精が遊びに来ていたのよね?」
「まあ、それもありますけど、私たちも見える人も普通に暮らそうと思うと少し大変です」
「普通に暮らせないの? でもメアリーは町に住んでいるから大丈夫だよね?」
「お隣さんとは少し離れていますよ」
がっくりと項垂れた。私の計画がことごとく崩れていく。
いつかこのお屋敷を飛び出して、町で暮らそうという夢は、終わってしまったみたいだ。ひとり暮らしはしていたから、こちらでも問題ないと思っていた。少し離れたところに家を借りないといけなくなったら、知らない土地にひとりきりは寂しい。お隣さんがいるから、安心して暮らせるというのも私の中にある。




