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21. マーガレットがここにいる理由

「マーガレット、里帰りできない?」

「いえ、私はこの地から出られない」

「私、アンナに騙されてここまで来てしまったのよ。マーガレットのことで思い詰めているようだから一回帰って話をしてくれない。そうしないと第二の私がまた騙されてここまで運ばれてくるかもしれない」


 あとひとり話をしてほしい人がいる。

 クロードとも話をしてほしい。何かあの人もこじらせている感がある。


「そう言えばクロードはどうなったんだろう。こちらに来るのに手を伸ばしていたのに手袋だけを掴んでここまできちゃった」


 左手に持っていた手袋をみんなに見せながら、クロードのことが少し心配になった。


「あの者はこの地を踏む者ではない!」


 強い口調で言われて、びっくりして一歩下がってしまった。

 出口で妖精の国への道をふさがれちゃった感じかな。よかった。無事でいてくれた。でも、マーガレットへの想い妖精王にばれちゃってる感じはします。

 カイさんが片膝をついて、頭を垂れた。


「この地を統べるお方、妖精王。人間界の自然もたまには視察されてはいかがでしょうか。コスツス家はあなたとの約束どおり、森の自然を美しく保っています。おれは庭師の仕事をこれから全うしてきれいな庭を造ります。もちろん妖精たちが遊びにきてもゴミひとつ落ちていないようにする。それは約束する。でも、アンナ様の妹はひとりだけ、マーガレット様しかいない。彼女を説得できるのもひとりだけだ。そうしないと関係のない人間が満月の夜になるたびにあちこちのフェアリーリングから迷いこむことになります」


 あちこちで問題しか起こさないと思っていたカイさんが、ちゃんと話をしてくれていることに感動した。迷惑をかけてばっかりの黒猫は、全うなことも言えたのだ。

 コスツス家はそんな約束をしていたのか。ゴミひとつ落とさない。山のめぐみの恩恵を授かろうと思う人は多いと思う。現代社会でも山でキャンプをしたりするのが流行っていた。この世界でも山に入ってきのこを採取したり、木を切ったり、薪を持ち帰ったり、もしかしたらキャンプをする人もいる。人が入るとどうしても山が汚れるリスクはあがる。それを美しく保つと言い切ったということは、ゴミを拾ったり、山のお手入れをする人がいる。カイさんは庭師だけど、山師なる人がいるのかもしれない。


「新月の夜、人間界へ渡ろう」


 先ほどのすさまじい怒りはなく、美しい笑顔だけがそこにあった。


「コスツス家がこの地を血で汚さないと約束をした遠い昔、その約束どおりか約束をたがえないか、妖精の目を持つ子どもが生まれたときは、妖精の国へもらい受けることを約束していた」


 あれ? マーガレットは嫁だよね? 何か引っかかりがあるような言い方、この感じ何かに似ている。

 参勤交代を終えた大名が家に帰るのに妻や子は帰れない感じに似ている。

 約束を守れるか人質を取ったの?


「二百年ぶりに約束は守られた」

「二百年の間に約束が守られなかったのはなぜ?」


 問いをしたのに答えを返してくれるつもりはないのか。妖精は気まぐれなのか。よくわからないが答えが返ってくることはなかった。代わりにカイさんが答えた。


「妖精の目を持つ子どもが当主の座につく子ども以外生まれなかった。それが答えだ。この国では、昔は妖精の存在を当たり前のように信じていた。それが今では見えない人々が多くなり、信仰は薄れた。約束も希薄になり、俺がこの世界にきて古い文献を読めた。全部日本語だったからな。それで、コスツス家とのつながりができた。でも、文献を読むごとにご当主の顔色が悪くなっていった」

「マーガレットを人質に差し出すということになるから?」

「まあ、そうなるな」


 それをアンナが知っていたら、何が何でもマーガレットを取り戻したいと考えるのではないか。

 ご当主は、マーガレットを手放すときに結婚式という体裁を整えないといけなかったというのも考えられる。

 結婚式は表向きの理由で、実際は人質として妖精の国にいるのだろうか。

 それだったら、彼女をこの場所から解放してあげたい。

 カイさんもその事実を知っていたから、彼女にキスをした。行かないで欲しかったとも考えられる。それだったら、手の甲へのキスも懇願もわかる気がする。


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