18. 壁紙に隠された秘密
黒猫カイが立ち去った後のことを思い出していた。
アンナが来る前に昼間にメアリーと話したことが頭をよぎる。
マーガレットの部屋に戻ると、椅子に座り、机の引き出しの中から日記帳の大きさのメモ帳を取り出した。
「お茶をお持ちしました」
メアリーが声をかけてくれる。
メモ帳に今までわかったことを書いていた。その手を休めて、小さなテーブルと椅子のところへ歩いていく。
マーガレットの部屋の壁紙は、ウィリアムモリスのような世界観。小さなマーガレットの花がデザインされている。その花の周りを蔦がぐるりと守るようにして取り囲んでいる。でも、この壁紙が変だった。所々に別の模様が浮かび上がっていた。こちらの世界の壁紙職人の人は、どういう仕事をしているのか知りたいと思ったほどだった。
「メアリー、この壁紙すごく特別なものなの? ところどころ模様が違うものって普通なの? 何か物語になっているみたい」
「ああ、妖精たちのいたずらですね。最初はマーガレットの花だけのシンプルな模様でした。妖精たちが来るたびに模様が変化していき、世界で一枚しかない特別な壁紙になりました」
妖精たちのいたずらが絵になっているのだとしたらおもしろい。この蔦も書き加えてあるのか。妖精たちがお屋敷に集っているのを書いてある。このお屋敷なんだろうか。ちょっと右側を見ると、茶色の髪の女性が白いワンピースで妖精たちに連れられていくのがわかる。どんどん右側に進んでいってラストの絵を見た時に理解をした。
「マーガレットって私よりももっと明るい茶色の髪をしていた?」
「そうですね。明るかった気がしますね」
「もしかしてここに描かれていることってマーガレットの身に起きたことなの?」
「そうです」
メアリーからきっぱりと肯定の返事をもらった。
なるほどマーガレットは誘拐されたわけでもなく、自分からいなくなったわけでもなく、見つけ出さなくても答えは、この壁紙にあった。
ラストに描かれた絵は、白いドレスに身を包んだマーガレット本人が立っている。白いベールとティアラの代わりに花冠が髪を飾っている。この絵が私の世界の定義と同じならば、これは結婚式を表現している。結婚式の出席者は六人。周りには妖精たちが飛んでいる。でも、肝心の花婿が描かれていなかった。これと同じ白いドレスがないか、立ち上がってクローゼットを調べるが同じドレスはなさそうだった。後ろに屋敷が見えるから、この庭で結婚式は行われた。一度この部屋に戻ってきたとは考えにくい。ドレスはないから結婚式が終わったと同時に花婿の元へ行ったと思われる。
「みんなアンナ様から、かん口令が敷かれているんだよね」
「……」
メアリーの沈黙を了解と判断する。
「壁紙を見て私が勝手に想像したことを今から話すから、メアリーはそれを聞いて肯定ならそうですね。違うなら違うとだけ答えてくれたらうれしいな。それだと勝手に話したことにはならないよね」
さらに何も答えないメアリーを肯定と勝手に都合のいいように考える。
「マーガレットの結婚式に出席したのは、マーガレットの父と母、アンナ、メアリー、クロード、バートンさんの六人で合ってる?」
「そうです……」
「この六人にした理由がわからないけど、妖精王との結婚で合ってるのかな?」
「ええ? どうしてわかるのですか?」
不思議そうなメアリーの顔に壁紙を指さす。
「ここに描かれているのは、マーガレットだとメアリーは答えたよね」
「ええ、そうです」
「結婚式の衣装で描かれている。他の出席者も描かれている。お婿さんがいないなぁと思っていたのだけど、花婿はすでに描かれていたから省かれた。マーガレットの花を包むように描かれた蔦、これが花婿を現していると思ったの」
「この蔦が花婿とは思いませんでした。ずっと疑問でした。このラストになぜ花婿の姿がないのか」
メアリーは、蔦が花婿と小さな声で繰り返していた。
「ひとり思い当たる人がいました。朝のカイさん事件です。妖精王の怒りを買った。宝を返せないものを奪った。カイさんはマーガレットとキスしたと言っていました。このお屋敷に働く人みんな出席しているのにカイさんだけ出席していないということは、カイさんがマーガレットにキスをしたから、妖精王の怒りを買い、猫の姿に変えられた。だから、結婚式にも出席できなかったと考えました」
「カイがいなくなったのは結婚式当日でした。マーガレット様から急用があって出かけたとだけ聞いていました。私たちはマーガレット様の結婚式がショックだったと考えていました」
これでマーガレットが失踪したわけでもなく、誘拐でもなく、ただ結婚して妖精王の元に行ってしまった。
わからないのは、どうしてアンナと町の人々は理解していないのだろうということ。
出席者は六人にヒントが隠されている気がする。
いろいろ考えてみたがこの部分だけが謎で解けない。




