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14. ダークグリーンの瞳

 台所に入ると、バートンの目が大きく見開かれ、すぐに立ち上がりケトルに火をかける。

 二人分の紅茶は用意されているのにもう一度淹れてくれるようだ。

 クロードも立ち上がり、座るために椅子を引いてくれた。メアリーを置いてすぐにお邪魔者である私は退散しようと思っていたが、そういう訳にはいかなくなった。おとなしくクロードの隣の席に座らせてもらう。

 この空気は、お茶を飲んで帰るしかなさそうだった。


「姉さん、バートンといい家庭が築けるのか不安ですが、俺は反対しませんよ」

「おまえなぁ。そこはバートンさんとだったら、いい家庭が築けるので安心してお嫁にいってくださいだろ。クロードが弟になるのかと思うと頭が痛いぞ」

「え? 姉さん? 弟?」

「メアリーとクロードは姉弟だぞ」


 バートンの一言にメアリーとクロードの顔を交互に見る。そういえば瞳の色が一緒だったことに気がついた。メアリーに起こしにきてもらったときにクロードの瞳とまちがえたのを思い出した。

 アイコンタクトでのふたりの絆、朝から部屋への侵入も信頼関係がないと成り立たない。お互いのことをしっかりとわかっているはずだ。髪の色は違うけど、姉と弟だったのか。


 手つかずの朝食をメアリーが食べ始める。目を細めて満面の笑みをたたえて、メアリーをみつめているのは、バートンだ。その光景を見ていると、早く結婚すればいいのにと思わずにはいられなかった。

 クロードは居心地が悪いのか、二人が見えないように横向きに椅子に座り、紅茶を飲んでいる。行儀が悪い男の子のようだ。

 確かにこの光景は目に毒だ。こんなにわかりやすくアピール受けているのにどうして首を縦にふらないのだろう。何か訳がありそうだ。


「あのさ。メアリーがイエスと言わない理由は何?」


 隣にいるクロードになるべく小さい声で尋ねる。


「メアリーは真面目すぎるんです。私の他に弟がいます」


 メアリーにわざと聞かせているような声にバートンとメアリーの様子をそっと伺うと、二人がこちらを注目している。

 クロードのおバカ! 

 心の中で悪態をつきながら、笑顔でごまかす。


「あいつも来年働き始める。それまでは自分が親代わりだと思っているんですよ」


 またしても声が大きい。静かにするということができないのか。


「ええーっ! ということは来年結婚するっていうこと?」


 驚きのあまり椅子から立ち上がり、大きな声で叫んでしまった。

 メアリーが真っ赤な顔で下を向いて肩を震わせているのがわかる。


「二人とも出ていって!」


 ケトルからお湯が吹き出て、バートンさんが慌ててお湯を止めに立ち上がった。

 紅茶のいい香りが立ち上っていたのに、お茶を飲む前に台所を追い出されてしまった。

 二人で肩を並べて歩くはめになった。


「ここいらで嫁にいってもらわないと俺も気が気じゃない」


 誰に話すのでもなく、ひとり言のような小さな声でつぶやいた。

 そっかわざとバートンさんにお家事情を話したということか。もっと早くに教えてあげてもいいのにと思ったが、クロードのひねくれ具合は知っている。かなり頭が回ることも知っている。わざと楽しんでいたとしか思えない。

 バートンさん、かわいそうに何年間ぐらい待ったのだろう。

 姉の幸せを喜んでいるようなやさしい瞳、家族思いなんだなということがわかる。

 親代わりということは、クロードの姉弟には両親がいないということになる。それか遠いところで働いているとか? 音信不通? 

 メアリーに幸せになってほしいけど、さみしい気持ちと隣合わせだったのかもしれない。


「ねえ、クロード、片方の頬が赤いけど、どうしたの? 虫さされ?」


 いきなり腕を掴まれたかと思うと、一歩一歩進んで壁まで追いつめられた。

 壁と両手に行く手をふさがれて、彼の顔を見上げるしかなくなる。

 頬がピンク色に染まっていくのが自分でもよくわかる。

 下を向きそうになる顎を掴まれて、クロードのダークグリーンの瞳を覗き込む形になる。


「お嬢様のために痛い思いをしました」


 左の耳元で囁かれる。少しかすれている声に体と耳が熱い。


「いや、待って落ち着いていこう。壁ドンする相手が間違っているけど」


 反射的に彼の胸を手で押し戻しながら、口早に言う。


「壁ド?」


 はっきりと聞き取れなかったのか、はてなマークが頭を埋めているうちにクロードの腕の隙間をすり抜ける。

 一心不乱に何も考えないでマーガレットの部屋目指して走りだす。

 食堂を抜け、マーガレットの部屋はすぐそこだ。入ってドアを閉める。よかった無事に逃げ込むことができた。


「メアリーとクロードはどこにスイッチを隠し持っているの。スイッチの位置がわからない」


 閉めたドアを背に部屋に逃げ込めてよかったのか。そのまま彼の声を聞いていたかったのか。よくわからない自分の心に赤面しながら、ベッドに倒れ込んで悶絶することとなった。


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