125. 後悔
「クロード、甘やかすだけが仕事じゃないぞ。しっかり見てやれ」
「わかっている……」
「わかっていないだろう」
「どうしたらいいのかわからない」
片手で自分の両目を蔽い隠す。
「珍しいな。お前が認めるなんて……」
掌の中で震えていた小鳥、いつの間にか空に羽ばたけるようになっていたのに無理やり籠の中に入れて出してあげなかった。
フェアリーハウスは籠の中だったのか。あの場所は安全で守りも十分にできる。
籠から出たマユは、ぼろぼろに傷ついているはずなのにまだ安全な場所に戻ろうとしない。
バートンがクロードの頭をくしゃりとなでるようにして、横を通りすぎる。
いつもだったら、払いのけていたのに、その元気さえなくなっている。
「大丈夫か? クロード」
「……」
「嬢ちゃんの方が元気になって、おまえの方が不安定になるのは困るな。メアリーに相談しろ。姉弟だろ?」
「メアリーとは血は繋がっていない」
「繋がっているだろ? 妖精の特別な血で繋がっている。同じ時を家族として大事に過ごしてきたのがお前さんたち二人を見るとよくわかる。アイコンタクトして、お互いに違う方向に散っていくこともあって、それを羨ましいとさえ思ったこともあるぞ」
そうだ。小さい頃に家に来た時からメアリーの背は低かった。そのためにどちらが上かで争ったことがある。
「俺だよ」
「私よ。だっておかしいじゃない私より小さい子が年上なんて」
「おまえだって……」
「おまえじゃない。お姉ちゃんだよ」
どちらも背伸びをして譲らなかった。
メアリーよりもパンをひとつ多く食べていたはずだった。彼女の方が先に背が伸びてしまったために『年上』の座を譲ることになった。
「マユは強い。俺がいなくてもやっていける」
「やっていけるとは思うけど、今まで側で守っていたのは誰だ?」
「物理的には守っていたつもりだったが、心まで守ってやれなかった。本当の騎士はカイの方かもしれない」
「クロード、おまえ。意外とかわいいとこ、あるのな」
「バートン!」
大きな声を出したせいか、体の中の余計な力が抜けていくのを感じる。
「泣き言いいたいときは、家族に言えよ。今度から俺も入るからな」
後ろ向きで手を振ると馬に乗ったまま、走り去る。
賑やかなサーカスが目の前を通りすぎて行ったかのような騒ぎだ。
「メアリーに相談しよう」
小さい声で呟いたのに耳聡いマユは聞き返す。
「何をメアリーに相談するの?」
「あなたの知らないことです」
「教えてくれてもいいじゃない」
マユの顔がリスが頬袋にいっぱいの餌を詰めている姿に似ていて笑顔になる。
「マユの寝相の悪さとか?」
「えー? 私悪くないし、どういうこと?」
「勝手な行動するとことか」
「それは否定しないけど」
「否定してほしかったところは、しないんですね?」
そんな他愛のないことを話ながら、帰り道を歩いていく。
カイを止められなかった後悔、胸を締め付けていた思いが少しだけ軽くなっていくような気がした。




