124. 逃げ道 迷い道
こんなに人に迷惑をかけて手に約束の印を刻んだカイは、記憶をなくす道を選んだ。
振り向かせるだけ、振り向かせておいて、さようならを勝手に告げた。
カイはずっと返事を待っていてくれた。いつかさようならに来る日が怖くて、彼に何も言えなかった。どうしても伝えなければいけなかった思いがあったのに、その思いは空中に浮いたまま、もう伝える術を失っていた。
今、相手に伝えたとしても私を選んではくれない。
泣いてもどうにもならないのに涙は零れていく。
クロードに手を引かれながら、必死に走った道を歩きながら戻る。
足取りは重く、彼のいた場所から動きたくない思いがそうさせている。
「クロード、どうした? カイに会えたのか?」
馬に乗ったバートンが姿を現した。
心配で後を追いかけてきてくれたのか、少し息が乱れている。
「間に合わなかった。いつの間にか妖精王と契約を交わしていた」
「あのバカ、何かやらかすと思っていた!」
「マユの契約は消えていないが、カイの契約はなくなった」
「なくなった? 意味がわからんぞ?」
「明日、説明する。マユをフェアリーハウスへ」
「フェアリーハウスへは帰らない。自分で足掛かりを作って帰ると約束したの。だから帰れない」
「そんなに傷ついて、何ができるのですか?!」
「できるわ。全部なくなった訳じゃない。この世界のことを少しずつ知りたいの」
人は困ったことにぶち当たると何とかできる才能を持っている。
今までもそうやって何とかやってきた。
目の前に仕事があるなら、それは簡単に捨てていいものではない。
フェアリーハウスに帰るのは、簡単な道のように思えた。逃げ道が用意されていて、そこに逃げ込んでしまったら、私は二度と立ち上がれないような気がした。
「簡単じゃないけど、今の私にはこちらの道を進むしかないの」
「嬢ちゃんには、簡単な道の方がいいんじゃねーか?」
「ここで簡単な道を選んだら、あとで後悔しそうな気がする。カイに笑われそう。精一杯やってダメだったら、そこで諦める道もあるけど、今はその時ではない気がするの」
「そこまで言うならやるだけやってみな。精一杯やったら、美味しい料理食べさせてやる」
「ありがとう。バートンさん」
流した涙と一緒に悲しい気持ちが一気に流れていって、少しだけ前を向けた気がする。




