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123. 約束の印

「クロード……カイがカイが……」


 マユの大きな瞳から涙が零れ落ちた。

 俺のために流される涙ではないことが胸に痛い。

 マントのフードを目深に被せると、その陰に隠れてさらに大きな声で泣き出した。

 どうして俺は動かなかった。

 カイを力づくで止めることもできたはずなのに走り出そうともしなかった。

 どこかで思っていた。カイがいなくなれば振り向いてもらえるのではないかという淡い思い。

 彼女の涙を見て、後悔しても遅かった。

 その一瞬の迷いがカイにサラマンダーとの契約を結ばせた。

 

「このまま、広場にいると危ない。帰りましょう」


 手を握ると手を引かれるままに真由がついてくる。

 カイが掲げた時計は、妖精王の印がついた時計のように思えた。周りにいた猫たちのざわめきが「妖精王」の言葉が聞こえてきた。そこで確信を得た。

 普通の人には見えないものが自分には見えると気がついたのは、いつの頃だったか。クー・シーの血を引いたせいなのか。気持ち悪いと騒がれて、街の喧騒の中にはいられなかった。

 この子だけだった。手を引いているこの人だけは小さい頃から気持ち悪いと口にしたことがなかった。

 自分の大切な人のためなら、何でもできる。

 そう思っていたはずなのに悲しくさせている。

 自分のエゴがそうさせた。

 カイの方の記憶は消えてしまったのに真由の方の記憶は消えていない。


「真由、そんなに悲しいなら、記憶を消してやろう」


 真由の肩にいるサラマンダーは、耳に心地よい言葉を運んでくる。

 彼女の悲しみに寄り添うように言っているが、自分のためだということを知っている。


「……この苦しさも悲しさも私のものよ。誰にも渡さないわ」

 

 傷つくことを人一倍恐れていた彼女がいつの間にか変化していたことに気がつかなかった。

 彼女は傷つくことを人一倍恐れていた。

 そのことを知っているだけに驚きが胸を埋め尽くしていく。

 彼女を変えたのは、自分ではなく、別の誰かということに苦しくなっていく。

 

「サラマンダー、契約は破られた。なぜ真由は記憶を失っていない?」

「契約を破棄したのは、ひとりだけだ。まだ彼女の方は、消したくないと思っている。でもいつか人の心は変わる。その時に印は消える」


 

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