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121. 王の誕生

 妖精の半端者と言われながらもクロードはまだ手を広げたままだ。

 彼なら目をつぶって、見て見ぬふりなどしないだろう。

 最後の最後まで真由を守りきる。

 それはまるで絵物語に出てくる。お姫様と騎士の物語のようだ。俺よりもよっぽどクロードの方が騎士らしい。

 二人で繋いでいた手が楔のようにして心に刺さる。

 俺では役不足だったか、騎士の役目はクロードに譲ろう。

 それでも言葉にするのを躊躇われた。

 最初に口を開いたときは声にならなかった。

 深呼吸をひとつ。


「サラマンダー、そこにいるんだろう? 手の印を消してくれ……」

「承知した」


 短い言葉で契約は成立した。

 

「カイっ、待って! 私まだあなたに何も伝えていない!」


 何を伝えようとしたのかはわかっているよ。

 心の中で真由に謝りながら、手の印が少しずつ消えていくと同時に記憶が曖昧になってくるのを感じる。

 手のひらが少し透けて、地面が見える。

 自分の存在が曖昧になっていく。

 俺は異世界から地球へ帰るだけで済むが、後に残された二人はどうなるんだろう。

 猫たちの様子からして、無事に帰らせてくれる選択肢はないだろう。

 空気のように自分が軽くなっていくのを感じる。

 少しずつ体が空に浮かび上がる。

 ポケットに手を入れると懐中時計の鎖が手に触れるのを感じた。

 噴水広場にある大きな時計が時を知らせる。

 ゆっくりとした音が優しく心の奥に響く。

 もうすぐでこの世界から消える。

 印が消えるか消えないかの時、真由の大きな瞳が俺を捉えた。

 唇を噛み締めて、目を大きく見開いている。

 君は何度でも俺を捉えて離さない存在なんだな。

 ポケットから懐中時計を取り出すと宣言した。


「俺が次の猫の王だ!」


 八時の最後の鐘が鳴り終わる。

 手のひらに力がみなぎる。空中から地面に降り立つと皆に懐中時計を見せる。

 蔦の絡まった時計を見て、ざわつき始める。


「あれは妖精王の印」

「妖精王が猫の王を選定なさった」

「猫の王が決まった」


 集まった猫たちが口々に隣にいた者と話し合うかのように、その言葉は次々に猫たちの間で囁かれる。言葉がさざ波のように寄せて返す。大きくなったり小さくなったりして、どうするのかを審議している。


「じゃあ、クロウはどうするんだ?」

「むりにゃん、あんな印を見せられたら、それに八時ギリギリで間に合ったにゃ」


 八時が締め切り時間だったか。何とか間にあった。

 誰のためにこんなに必死になって、猫の王になることを宣言したのか。

 ああ、クロードのためか。

 もうひとり、大事な人がいたような気がするが誰が隣にいたのかわからない。

 

 

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