120. 猫の集会
エフェメラルの会話が終わると同時に立ち眩みが起きて立っていられなくなる。座り込んだ瞬間にどこかに飛ばされたのを感じた。
いつかは人間界へ続く扉をみつけさせるため、出口を教えてはくれなかったのに勝手なことだ。
怒っても怒りをぶつける相手は、もうここにはいない。
「人間だ。人間がいる……」
周りを見渡すと街の中心にある噴水広場にいた。
外套が灯る時間のはずなのに全部消えている。明日、職人連中に言って直してもらおう。二、三人に声をかけておけば、すぐにやってくれる。
あれ? 暗闇の中にいるのになぜ目が見える?
近くの外套がブーンという変な音を立てて、あかりを灯す。
そのあかりに照らされて、あちこちから、小さな光が見える。まるで小さな動物の目が一斉にこちらを見ているようだ。
ちょっと怖くなって、後ろに下がる。
「人間が何用だ?」
スポットライトの中にカイだけが浮かび上がっている。そのライトの下に一匹の猫が姿を現した。真っ白な毛並みにグレーの色が所々混じっている。閉じていた瞳がゆっくりと開く。琥珀色の瞳のような緑色のような不思議な光彩。だが、手だけが異様に短い。
「サイベリアンじゃないな。ペルシャでもないし、ミックスか?」
猫の種類がマンチカンだと気がつくまでにしばらく時間を要した。
「失礼な奴だな!」
怒ってはいるが猫だし、かわいいものだ。しかも手足が短いので、さらにかわいさが増す。
「すまない」
猫は賢い。きっちり謝るべきところは謝らないとずっとにらまれる。猫は一日で物事を忘れるとよく言われるが、それは間違いだとわかっている。
「猫の集会になぜ人間が参加している? どこから入ってきた?」
その瞬間、周りの景色にいた光は、猫の目があかりに照らされて光っているのだとわかった。
猫の王になれ。妖精王の声が耳の奥で、こだましているようだ。
妖精王! 猫の集会のど真ん中に送り込むな!
イライラがマックスになるが、ここは平常心だ。
「猫の王が死んだ。今日、猫の王を決める大事な集会になぜ人間が参加している?」
俺の特技と言えば、いつもギリギリのところを綱渡りを続けてきた。
「人間代表として参加していまーすっ」
「そんな話聞いたことがない!」
テーブルがあったら、ひっくり返すぐらいの勢いで怒っている。
「妖精王の代わりに」
「彼の方の名前を気安く呼ぶな!」
「名前はまだ呼んでいない」
「なぞなぞしているのではないわ!」
猫は威嚇の声を何度かあげながら、言葉を発している。
好奇心は身を滅ぼすとわかっていながらも抑えきれなくて、問いをひとつ投げかける。
「君が次の王なの?」
猫は尾をピンと空に向かって立てると、目を半開きにしてゆっくりと優雅に歩く。まるでモデルが誘惑をするようにこちらに一歩ずつ歩いてくるようだ。
「我が次の王だったら、どうする? 人間よ。その姿を見て無事に帰れるかどうか考えたか?」
声のトーンが変わっている。
鳥肌が一斉に立つ。わかっている。これは警告のしるしだ。
「カイ!」
後ろから懐かしい声がして、振り向くとクロードと手をつないだ真由が立っていた。
クロードは、ガラス張りの四角のカンテラを持っている。クロードが暗くて見えないように目を細くして見るがよく見えないらしく、カンテラを高く掲げた。
それと同時に周りにいる猫たちが照らし出された。
「猫の集会……」
知った瞬間、クロードは真由の前に手を広げて立つ。ポケットからナックルを取り出している。持っていたカンテラは、真由に渡している。
この時間に二人で手をつないで立っていた。クロードと真由、夜のデートの途中だったのか。自分の手の甲の印を見る。この手のひらの印が真由を縛り付けている。
それに猫の王を選ぶ猫の集会に足を踏み入れて無事で帰れるわけがない。それがわかっているから、クロードは手を広げて真由を庇っている。
「今きた妖精の半端者はしっかり目を閉じていよ。その瞬間に終わっている」
クロードに対しての嫌味な言い方だ。
猫の口がチェシャ猫みたいに半月の形をして、笑っているように見えた。




