119. マリーゴールド
「わたし、あなたの春の庭園をみてみたいわ」
「春の約束はしない」
妖精との約束がどんな結果を生むのかを知っている。
「それでもみてみたい」
「無理だ」
「無理って言われたら余計にみてみたいわ。側にいてはダメかしら?」
「人間界は君にとっては住みにくいだろう。これから秋と冬がやってくる。その季節に君が耐えられるとは思えない」
「エフェメラル……わたしのなまえ」
「妖精が人間に名前を簡単に教えては…ダメだ」
エフェメラルとは、短命を意味する。
鼻の上に寝そべるように座っていたが、こちらを向いて鼻の頭にキスをする。
「わたしの宿る花の名前がわかる?」
エフェメラルが着ているのは、オレンジの色の花びらのドレス。春に咲く花の名前を頭の中で考える。
何重にも見えるフリルの花びら、オレンジ色の花の形の中に赤色のフリルも見える。ボナンザフレームと呼ばれる一年草の花が頭に思い浮かぶ。
「マリーゴールド」
「あたり」
妖精は表情を隠すかのように鼻を手で覆い、頬を染めている。
八重咲きのマリーゴールド、皮肉にも生きるというのが花言葉。
それがエフェメラルが宿る花の名前。
「遅咲きのマリーゴールドに住んでいるの」
「花を離れて大丈夫なのか?」
「人間界に同じ花の種を撒いてほしいの。私はそこに宿る存在になる」
「おまえ、一年しか生きれないんじゃないのか?」
エフェメラルの小さな手が指先に触れる。
「春に庭園に遊びに行くわ」
それだけを言い残して離れていく妖精の意図がわからない。
人間界にいてもいいことはないはずなのに春の庭に来たいと言う。




