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116. 懐中時計

「俺は利用されたのか?」

「欲しい人材だと言っただけだ」

「?」

「人間界ではこの言い方の方がよいとレオポルトから聞いたのだが不評か」


 ため息をついている。

 妖精界って何気に人材不足なのか? 今のニュアンスは、人材不足を示唆(しさ)する。

 レオポルトは、人間界での生活が長いせいなのか、胸に刺さる言葉のチョイスを知っている。


「俺、今の仕事が好きなんだ。猫の王には興味がない」

「ほう? 果たして最後までそう言っていられるのか」

「どういう意味だ」

「猫の王になれば、この世界を離れなくて済む。この世界での役割が振られたことになるからな。今の庭師という仕事は、どこの世界でもできる仕事だ。印がなくなれば、この世界からいつ元の場所に帰されてもおかしくない」

「この印がある限り大丈夫なんだろう?」

「大丈夫だ。しかし、それはおまえが勝ち取ってもらった印ではないだろう。相手を騙し、ここまで連れてきてつけた印。果たしてそれは正しいことなのだろうか。相手を縛り、自分をも縛り、嘘をつく印だ」


 アンナに騙された不本意な形で、フェアリーリングを通り、マーガレットの手にあった約束の印を真由に移した。

 彼女にとっては、何の利益も生まなかったはずの印。

 真由は黙って受け入れてくれているが、それが正しい形なのだろうか。

 一緒に過ごしているうちに俺を好きになってくれたらいい。

 願っていたが、そんな気配はない。

 クロードに惹かれても、他の知らない誰かを好きになってもいいように縛るべきではない。

 一番感じていたのは、自分ではないか。

 でも、約束の印がなくなってしまったら、真由と自分を繋ぐものは何もなくなる。

 異世界に飛ばされてきた同士ということだけだ。


「印を消すには、サラマンダーの力がいる。その力を使えば、印を消せるが、記憶もなくす」

「仮に猫の王になると言って、記憶をなくすことがない方法はないのか」

「ない……な」

「妖精王だろ。王なら何でもできるだろ?」

「無茶を言うな。何もかもできるほど自由ではない。人と妖精、世界。すべてが繋がっている限り、私の力にも限界はある」


 妖精王は、ティターニアの顔を見る。

 もう彼女はマーガレットと呼ばれていた頃と様子が違ってきている。

 本来の自分を取り戻した結果、変化したように感じた。

 耳は尖り、優しかった眼差しはそのままだけど、ライトブラウンだった髪がさらにゴールドに近くなってきている。

 もう誰も彼女と真由を間違えたりしない。

 妖精王は、ティターニアをどうしても自分の元に戻らせたかった。

 何でもできるのであれば、それを実行できたはずだ。

 実行できなかった。

 世界の理のすべてが狂ってしまうから、手が出せなかったのか。


「カイ、おまえに託した時計があったな」


 カイが胸ポケットを探ると、蔦の模様が絡まった模様の懐中時計が出てきた。


「その時計は、今日からおまえの物だ」


 妖精王に何かをもらうと高くつきそうだ。

 断るべきなのか、どうすればいいのか。

 迷いはすぐに見抜かれた。


「猫の王を決める時間、今夜八時に街の広場で猫の集会が開かれる。そこで宣言しろ。今日から自分が王だと。その懐中時計は、その印だ」


 自分が次代の王だともう決まっていた。

 そういうことか。だからあの時に妖精王から渡されたのだ。


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