115. 妖精王の手のひらの上
妖精王は見抜いていた。
俺がマーガレットに抱く感情と好きな人に抱く違いを知っていた。
だから、黒猫に変えた。
好きな人ができたときに黒猫から、人へと変わる。
でも、あの妖精王が親切心だけで、そんなことをするとは思えない。
何か別の用途があったのではないかと思えてくる。
まだ黒猫になれている意味がわからない。
少しの感情の揺れや黒猫に変身したいと思うと、変身ができるようになった。
それを便利だと思い、使っていたが、この力は果たして使っていいものだったのか。
嫌な予感を指し示すかのようにフェアリーリングを通り、妖精の国に呼ばれた。
何を突き付けられるのかが怖いと思う。
俺は真由みたいにあちこちに顔を突っ込みたくない人種だ。
毎日の生活を平穏無事に過ごせたら、それでいいと感じる。
いつも無事でいられたためしがないのは、このやる気のなさのせいだとわかっている。
面倒くさいことは全部後回しにする。
だから、今、妖精王と謁見するという事態になっているのだ。
「王、約束通り、カイを連れてきました」
小さな妖精が王の右肩に止まり、報告をする。
妖精王は左手にマーガレットの細い腰を抱きながら、蔓が一面に彫られた椅子に座っている。蔓模様のゴブレットを持ち、何かを飲んでいる。
「小さな眷属よ。よく帰ってきた」
労いの言葉は、彼女にとってうれしいものだったらしく、頬を染めて喜んでいる。
脅しの言葉を使われたのにだ。
妖精は嘘をつかないとされていることから、言葉は妖精を縛る枷になる。
無事に連れてきたことから、彼女はその功績を称えられる。
俺は黙って従うしかないということだ。
選択肢はないに等しい。
「何か用事っすか?」
わざとぶっきらぼうな言い方をする。
手足の震えをどうか知られていませんように。
「おまえに頼みたいことがあって呼んだ」
「嫌ですと言えないんだろうな。でも、言わせてくれ。嫌だ」
「夜の闇を統べる者になれ。その者は夜の闇で夜目が利く者にしかできない役割だ」
夜の闇で夜目が利く者。
俺が変身できるもの。
「猫になれということか?」
「猫の王になれ」
「は? 猫の王?」
「次代の猫の王が決まっていない。なぜかわかるか?」
「わからないな」
皮肉も込めて、鼻の頭を搔きながら、王にとって不遜とも思える態度を取る。
「猫の王には、必要なスキルがある」
おお、ファンタジーっぽいものがでてきた。
「人間の言葉を解している者、昼間は人間になれることが条件だ」
どこぞの条件と俺の今の状況が合致する。
「お断りしまーす」
わざと間延びして答える。
脇汗をかなりかいているが、動揺を悟られないようにまっすぐに彼を見る。
真由と一緒にいたので、彼女の思考が自分に乗り移ったように感じた。
妖精王は、わざと変身できる基盤を作った。
いつまでも変身できたのは、そういうことだったのだ。
どこまでも妖精王の手のひらの上で踊らされていたということだ。




