114. 季節外れの妖精
今朝、小さな妖精はいきなり現れた。
庭で木を整えていたとき、小さな手のひらサイズの妖精が躍るようにして飛んできた。
「カイってあなた? あら、いい男! 誘惑しちゃおうかしら」
聞こえない振りをして、うさぎの形に木を整えていく。
横目で観察すると、妖精はその様子を興味深そうに見ていた。
「あら、器用なのね。素敵」
褒められたことが嬉しくて、反応してしまった。
「いいだろ!」
「やっぱり、あなたがカイね。用件を言うわ」
「わー、わー、聞こえねえ」
耳を塞いで騒ぎ出すが、妖精は耳を貸さず話し出す。
「妖精王様からね。言付けよ。フェアリーリングを通って妖精の国へ来いですって。もしも守らないと、この妖精がどうなるかわからないぞですって。え? この妖精って誰のこと? もしかして……」
小さな妖精は、自分のことだとわかると泣き出した。
ふわふわのわた毛みたいなやわらかそうな髪と花びらのワンピース、ベルトは小さな細い蔓で作ってある。小さな靴も履いている。
その出で立ちは、まるで春を告げる妖精のようではないか。
季節外れの妖精がなぜ来たのか疑問に思いながら、耳を塞いでいた手を離して、指で妖精の頭を撫でる。
「わかったよ。行くよ。だから大丈夫。泣き止めよ」
「本当に? 嘘じゃない?」
「本当だよ」
妖精王の奴、絶対断れないようにしたな。これじゃまるで脅しである。
そして、今に至る。
裏庭の清掃をする振りをして、森の方へ向かう。
「で? どっち行くんだ?」
「こっちよ。こっち」
妖精が手招きをする。
手招きをされた方に行くと、小さな花のフェアリーリングを発見した。
「用意はできてるかしら?」
「おう」
「やる気がないわね」
「いいじゃないか。やる気なんか出ないさ。あの妖精王の所に行くんだからさ」
「お馬鹿さん! こんな森の中で王の悪口を言わないのよ!」
「いや、おまえの声の方がでかいんだが……」
「コホン、いいわね」
後ろから小さな妖精が押してくれているようだが、カイは一ミリも前に進まない。
「ちょっと前に進んでよ」
「わかったよ」
真由の顔を思い出していた。
前回、この場所に来たときは真由も一緒だった。
あれから、まさか自分の運命の人になるとは思わなかった。




