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110.  妖精の血

 バートンが問いかけるようにして、レオポルトの言葉を復唱した。

 メアリーの体が震えだし、自分で自分を抱きしめるようにして両手を上腕部分に置いた。

 やっとのことで絞り出した声には、話さなかったことへの後悔がにじんでいた。


「バートン、ごめんなさい。あなたに伝えたいと思ったのに伝えられなかった」


 メアリーは、彼の服を握りしめながら、湖に沈んでいくようなビジョンが見えそうなほどに苦しそうにゆっくりと床に座り込んだ。


「俺は何を聞いても手を離さないと決めた。だから話してくれ」


 バートンの大きな手はメアリーの手を包み込む。

 小さな吐息と決心がつかないような不安そうな顔をして俯いた。

 彼女は、華奢で背が百五十センチぐらいしかない。その体の中に不安要素を隠していて、誰にも気づかれないようにしていた。他人の心配をして、いつも自分の不安なことを閉じ込めてきた。 

 意を決したようにバートンの目を見つめると、長い長い吐息を吐きだすと話し出した。


「死ぬ間際に見えたの。近寄ってくるクー・シーが見えた……。レオポルト、彼がいなかったら、私は死んでいた。ごめんなさい。バートン、私の体の中には妖精の血が流れている」

「……」


 手を離さない。そう言ったはずの彼の手が離れていく。

 完全にメアリーに背を向けて、握り締めた拳が震えているのがわかる。

 彼女が彼の服を再度握り締めていたが、最後には意を決したようにして未練を断ち切るようにして手を離した。

 昨日まで笑っていた二人の間に亀裂が入った。

 私はどうすることもできないまま、立ちすくんでしまう。


「そこまでの思いか」


 静かな海の中に嵐のような風が吹き、波を荒立たせる。レオポルトの言葉が波のように押し寄せてくる。

 分け与えてもらったものの代償の大きさを感じた。

 今、この瞬間、命がなくなってしまうと感じたら、彼女でなくても飲んでいた。

 その後の果てしない時間が待っていようともいつか終わりがくることを信じて生きていく。

 私も同じ選択をする。

 


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