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11. マーガレットの選択

 あの好奇心の塊は、無事にメアリーについて行ったみたいだ。

 キッチンワゴンを押すメアリーを見て、ついていくのかいかないのか葛藤していた様子だったが、ドアを開けて出ていく様子が視界の隅に映った。

 これで切り出しやすくなった。

 今、部屋の中には、クロードとアンナの二人きりになっていた。


「アンナ様、昨日の薬の件ですが、お断り致します」

「えっ?」

「令嬢であるお嬢様がこんなことをされていることが世間に知れ渡りましたら、婚約者であるアルベルト様に顔向けできないと思いました」


 断る選択肢がないと思ったのだろうか。うまく回せる駒だと思ったのだろう。

 アンナが婚約者に弱いことを盾にする。彼の名前を出すと断った理由もそれなりに意味を持つ。

 アンナの顔がどんどん表情をなくしていくのがわかる。

 薬を返すとまた何に使われるかわかったものではない。メアリーの手に渡った薬は、バートンが処分してくれる手筈になっている。


「あなたはマーガレットを取り戻したくないの!」


 首につかみかからんばかりのお嬢様の迫力に負けるわけにはいかない。

 冷静さを失った方には、平常心を保ちながら、同調しないようにさらに冷たいぐらいの態度で返す。

 アンナ様は別のものにもっと興味を持つべきだった。それなのにたったひとりの妹の次にアルベルト様という順番になっている。興味の対象がずっとマーガレット様から動いていない。それが彼女を成長もさせず、ずっとこの場所に留まらせている。それは自分も同じなのかもしれない。


「マーガレット様はご自分で選択されたのです。あなたはマーガレット様のことを考えているようで、ご自分のことばかりを考えていらっしゃる。妹君がいないから寂しいからと、ひとり駄々をこねている。それは子どものすることですよ」


 辛辣な言葉に真っ赤になるアンナから、平手打ちが飛ぶが甘んじて受けることにする。

 それでお嬢様の気が晴れるのならば安いものだ。

 アンナ様はわかりやすく、扱いやすい。この別邸にしばらくこないだろう。真由はしばらく何の手出しもされないということだ。

 怒っているお嬢様を玄関までお見送りをしていると、御者が俺の頬を二度見してきた。お前怒らせて何やっているのだと目で訴えかけられても困る。

 知らん。あとはよろしくな。とばかりに笑顔でお見送りをする。

 昨日の今日、会っただけの相手なのにどうして真由を助けようとしたのだろうと自分に自問自答しているが、答えはでない。答えはシンプルでイエスかノーでないのか。顔がマーガレットとそっくりだからなのか。

 今まで周りにいなかったタイプなのは確かだ。足りなかった自分のピースがひとつ、うまったような感じがする。彼女は俺の足りないピースのような気がしていた。

 小さい頃から欲しいと思ったものはひとつとして、手に入らなかった。マーガレットがいなくなってから、無気力が体全体を覆っていた。太陽がなくなってしまったから、闇の世界にいつもいるような感じさえしていた。

 砂漠にひとり取り残されて、喉の渇きに困っている人みたいに、次から次へと砂漠に水をたらしても染み込んでいくのを止められないかのようなつき合い方をした。喉の渇きは止められなかった。相手が泣くたびに自分のことを好きではないのだろうと言うたびに面倒になった。執着という名の鎖には、繋がれたくない。

 玄関から中に入り、カギを閉め、ため息をひとつ。仕事がひとつ片付いてほっとしたため息なのか、また面倒事を抱えてしまったため息なのか、わからないがお腹はすいた。


「朝ごはんを食べるか」


 台所方向へ歩いていくと、顔を真っ赤にして走りさる真由とすれ違った。

 瞬時に何があったのかを理解した。しばらく壁を背にして、中庭を眺めて過ごすことにした。

 バートンのやつ、うまくやりすぎだろう。


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