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109. ノックの習慣

 クロフォード家には、きっとノックの習慣はない。

 玄関のノッカーがあるにもかかわらず、木でできたドアは勝手に軋みながら開く。

 現れた人物を見て、ノッカーを鳴らさなかった理由がわかった。

 妖精は鉄でできた物を好まない。

 姿を見せたのは、クロフォード家の(あるじ)だった。


「レオポルトさん!」

「またノアは泣いていたのじゃな」


 急いでメアリーが弟から離れるのがわかる。


「いつまでもメアリーに頼っていてはダメじゃろ」


 クロードを真っすぐに見ながら言っていることから、長男がしっかりしろと言われている気になる。

 


「メアリーに執着しているのはわかっている。おまえの血は妖精に近い。だから執着も強い」


 ノアはメアリーのこと、お姉ちゃんではなくて名前で呼んでいた。

 彼のダークグリーンの目全体が大きくなったように感じる。瞳孔が細くなっていく。

 耳は少し尖っている印象を受けたが、妖精の血が濃く出ている影響だったのか。


「ノア、ダメだ。まだ行くな!」


 後ろからクロードに抱きしめられて、彼は我に返る。瞳孔が丸に戻っている。


「何しに来た」


 非難めいたクロードの言葉にレオポルトとの関係性がいいものでないことがわかる。


「娘婿を見にきたのじゃ」


 見かけと違って、古びた言い方は彼の生きた年月の長さを思わせる。


「母がどうなったのかわかっててそう言っているのか?」

「家を出るしかなかった」

「あんたに恋焦がれて死んでしまった者はどうしたらいい?」

「それでも戻る訳にはいかなかった。側にいたかったのにいられなかった」

「帰ってくれ。もうここはあんたの居場所ではない」


 クロードの噛みしめた唇が少し震えているのがわかる。

 母を亡くした苦しみが伝わってくる。

 木で出来たテーブルには、釘が一本も使われていない。組み手だけで作られている。

 座るときに手をつくと、テーブルが軋む音がする。テーブルから慌てて手を放して、下の方を観察したからわかる。

 この家はレンガで出来ていて、森の近く、テーブルには妖精の苦手とされる鉄が使われていないことからわかることはひとつ。

 クロードのお母さんは、妖精であるレオポルトさんと一緒にいるという誓いを家に込めた。

 玄関の鉄のノッカーは、レオポルトさんが出て行ってからつけられた物だ。中心からずれていることから、職人が作ったものとは思えない。

 親子がこんな風にすれ違ってはいけない。


「メアリーの生きる時間の長さを受け止めきれるのかを確かめにきた。それを聞いたら帰るところじゃ」

「生きる時間の長さ?」


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